ちょっとした変化
トシと名付けられた少年は、一切出所不明の謎の少年であるが、少し見ないうちに彼の人間関係に変化があったのだと俺は知ることになった。
ある日鉱山街を歩いていると、ダン親方に声をかけられたのがきっかけだった。
「おう、ダイキチ。これトシさんに持って行ってくれるか?」
ダン親方はそう言って、俺にお金が入っていると思わしき袋を手渡した。
「トシさん?」
「ああ。お前んとこのトシさんだよ、角が生えてる子供がいるだろう? 仕事を手伝ってもらった礼金だ」
「……ええ。あずかりますが」
俺はひとまず受け取る。
ダン親方は基本人の名前を呼ぶ時は基本的に呼び捨てだったはずだが?
こんな疑問は町を歩くたびに次々に声をかけられどんどん大きくなっていった。
「おう! ダイキチ! トシさんにこいつを持って行ってくれよ! いい肉が入ったんだ!」
「やぁダイキチ! 今日は果物が安いぞ? そうだ! こいつをトシさんにも持って行ってくれるかい?」
声をかけられ、そのたびに土産が増えてゆく。
秘密基地の小屋につくころには両手いっぱいになるほど、お土産は高く積み重なっていた。
「……なんだこれ?」
そしてそれは俺に対してではない。
トシさん、トシさん……。
だが声を掛けられているうちに、俺は一つの共通点を見つけ出していた。
「なんか、すごくドワーフに慕われてる?」
そうなのだ、声をかけてきた人物はすべてドワーフだった。
疑問をぐるぐる考えていた俺は、秘密基地の地下に向かう。
そこにはツルハシと手押し車で発掘を頑張っているトシがいて、俺はさっそく尋ねていた。
「っということがあったんだが。トシはなんだか知らないか?」
「知らない」
即答だった。
直接尋ねれば簡単に解決するだろうと思っていたのだが、当ては外れたみたいである。
しかし本人にはまったく事情が呑み込めていないとはこれいかに?
俺は首をかしげるが、肝心のトシもきょとんとするばかりだった。
「うーん。何もないってことはないんだろうが。……俺がいない間ドワーフ達と何かしなかったか?」
今度は少しだけ切り口を変えてみて質問する。するとトシはとてもしんどそうな顔で頭をひねっていたが、とうとう言葉をひねり出す。
「……穴掘るやり方。習った」
「そうだよな。頑張ってトンネル掘ってくれてたもんな……うん」
トシは山に閉じ込められた俺を救出するために、不思議な結界の干渉をどうにかしようと地下からトンネルを掘ってくれたのだ。
ドワーフ達も協力してくれたのかもしれない。その時顔見知りになったのだろうということは予想が付いた。
しかしトシ本人にこれ以上尋ねても答えが出ない気がしたので、俺はドワーフの友達に話を聞きに行くことにした。