別れ
雷撃と粉塵が爆風によって巻き上げられて雲まで登ってゆく。
ごく至近距離で炸裂した破壊を、俺はひっくり返りながらしっかりと見ていた。
崩壊した足場に埋まった黄金髑髏の下半身を見れば、避けることすらできなかっただろう。
黄金髑髏の上半身は抗うこともできずに、この世のものすべてを消し去るという触れ込みの混合魔法に削り取られた。
そうして防御手段を失い、むき出しになった核に命中した俺の砲撃は、内包したエネルギーのすべてを開放したはずだ。
「うっ……おー……」
『出力低下。電源を待機モードに移行します』
結果、テラさんの声を聴きながら、今度こそ粉砕された黄金髑髏の上半身を見上げて、俺は声を漏らした。
誰が助けてくれたのかはもうわかっている。
俺が空を見上げるとそこにはちょうど降りてくる、黒い翼をはやした女の子がいた。
【てんちょ。大丈夫?】
「ヒャハハハハ! 爽快だな! やっぱり力こそパワーだな!」
【マー坊が何言ってるのかわからない】
ニーニャはエプロン姿で俺の周囲を心配そうに見て回る。
「……さすが魔王様だなぁ。味方にすると頼もしい」
そして黄金髑髏がいたあたりの砂がもこもこ動くと下からボコッと角のある頭が出て来た。
「ダイキチ、いた」
「トシ。なんでまた地面から?」
「……霧あって前に進めなかった。地下からダイキチ探した」
「ああ、なるほど」
あの霧は外からの侵入も防いでいて、色々アプローチしてくれていたらしい。
もこっと全身を砂から引っ張り出して、犬のようにぶるぶると砂を払うトシにも相当苦労を掛けたみたいだ。
なにより結界が解けてすぐにこうして駆けつけてくれたことが、心配してくれていた証明のようで、目頭が熱くなった。
「うぅ……俺にはちゃんと帰るところがあるんだな……」
「どうしたダイキチ?」
「いや、何でもない! 何でもないんだ!」
涙目を袖で拭ってごまかしたが、ちょっぴり感傷的になってしまった。
しかし今回もぎりぎりだった。
こうしてまだ無事にいられるのは素直に喜びたい。
俺は終わったとソンに報告するために彼を探そうとして、いきなり寒気を感じ振り返った。
そしてトシとニーニャの背後に、ゆらりと暗い炎が揺れたのを見つけて無理やり体を動かしていた。
「あぶない!」
俺はトシとニーニャを突き飛ばす。
炎は一気に目の前で燃え上がって、俺に襲い掛かって来た。
あ、これはさすがに避けられない。
今までの思い出が、次々に脳裏によみがえる。
ニーニャとトシが巻き添えにならないでくれたらいいがと心配になり、俺の見開かれた目には炎の中に浮かぶ黄金髑髏の欠片がはっきりと写っていた。
「え?」
しかしその核はバシっと俺の目の前で別の腕に掴まれ、炎は霧散する。
「おいおい……せっかく最高にめでたく終わりそうんなんだ。最後の最後でしまらない終わりにしないでくれよ」
危ないところで俺を助けてくれたソンはやはり不敵に笑っていた。
「ソン!」
俺は彼を呼んだ。
ソンの体はなぜ立てているのか不思議なほどだった。
ほとんどが石のような体は生物にも見えず、罅は全身に広がっている。
しかしそんな顔に苦悶の表情などなく、この七日間では見たこともないほど穏やかだった。
だから俺は問う。
「なぁ。あきらめないでよかったよな?」
「……ああ。見せつけられたよ。おかげで最後にもう一働きする気になった」
ソンはその手に、黄金髑髏の石を直接つかみ取り、今度こそ握りつぶした。
俺は何か言おうと思った。
でも気のきいたセリフなんて思いつかずに。頭を下げる。
「すまん世話になった」
「それはこっちのセリフだ……ではな」
「ああ。じゃあな」
ソンは最後に別れの言葉を残して崩壊した。
風にさらわれ、消えてゆく同じ境遇の男を俺は見送った。