テストの日
ガガガガガっとミシンの音が響く。
少し前、シルナークに提供した足ふみミシンを実演するため、練習を重ねた成果が今ここで炸裂である。
ちなみにこのミシンは後日拾った電動なのだが、今後電源がどうにかなればシルナークにも提供できるかもしれない。
『何をしているのですか? 情報の開示を求めます』
そう聞いてきたテラさんに俺は説明した。
「マフラーっぽいものを作ってる。こう長くて首に巻き付ける感じの。パワードスーツを着たら首に巻こうと思って!」
『それに何の意味が?』
意味? 意味と言ったかテラさんや?
いやいやそれはいくら何でも野暮ってものだ。
パワードスーツにマフラーなど必要ないのかもしれない。しかしそこはファッションだ。いじったらいけないところなのだ。
「特に意味はないが……速く動いた時になびくとすさまじくかっこいい気がする!」
『掴まれたり引っかかったりする危険が増すのではないでしょうか?』
「そこは頑張る! それに町の変わり者ナンバー2のエルフさんおすすめの逸品だ。丈夫さは折り紙付き! ちなみに変わり者ナンバー1は俺で、ナンバー3がリッキーだ」
『不名誉称号を自称する必要はないのではないでしょうか?』
「そう? まぁ、俺も変なことしてるよ。ま人間だと言い張るのも……正直疲れるし?」
『頑張ってあきらめないでおきましょう。その努力は必要な努力ですよ』
「そうかもしれないけど。いちいち止められるのは困るんだよ。すべて必要なことだから」
『……なるほど』
納得されてしまった。
まぁ止められても困るものね。そんなことよりマフラーだ。
試作品の布はまだ染められておらず真っ白だった。
本当は赤がいいが、具合がよければ今後赤く染色して新たに作り直すのもいいだろう。
マフラーを首に巻いた姿を想像すると、気分はすでにヒーローだった。
「んで……そっちの方はどんな感じ?」
ヘルメットの進捗を訪ねてみるとテラさんは答えた。
『はい。朝には完成の見込みです。リッキー様からもそう連絡を受けています』
「おお! それは素晴らしいなテラさん!」
こいつはもう少し気合を入れてこっちも作業を進めねば。
俺がこうして急ピッチで裁縫に励んでいる理由は一つ。パワードスーツが完全体となる日思ったよりもずっと早そうだからである。
それから数日後の早朝、何とかマフラーも完成し俺がそわそわしながら部屋中の掃除をしていると、待ちに待ったリッキーの声に体を跳ねさせた。
「おーい!」
「リッキー! 待っていたぞ! どうだった!?」
地下から家に飛んで行き、早速尋ねるとリッキーは渾身のどや顔を浮かべていた。
「ばっちりだ……いや、僕もさ。やってるうちに楽しくなってきちゃって。急ごしらえにしてはいいものができたと思うよ」
彼の背後にある木箱と表情を見ればいい仕事をしてくれたことは明白だった。
「……そっちこそどう? パワードスーツは万全?」
俺はリッキーの質問にニヤリと笑って見せる。
きっと俺の表情はリッキーに負けないくらいのドヤ顔だろう。
「それをこれから確かめる! さっそく試してみよう! 」
「実はけっこう楽しみにしてるんだ。テストはどこでやるの?」
ワクワクしているリッキーに俺はさっそく予定地点の地図を広げて見せた。
「北の森でやろうと思ってる」
それはおおよそ思いつく中で最高の予定のはずだったのだが……そういう時ほど予定は狂うものなのかもしれない。
事態が急変したのは、その間もなく後だった。