引き継ぐ意思
俺はソンに駆け寄ったが、迂闊に触ることすらできなかった。
「ぐっ……ここまでやっても仕留め切れないとは」
ソンは、まだ意識があるようだが致命傷なのは間違いなかった。
直接黄金髑髏を殴った右腕は完全に砂になり、全身が石のようにひび割れている。
今にも崩れ落ちてしまいそうな状態に手の施しようがない事は俺にだってわかった。
茫然とする俺に、ソンは口を開いた。
「……おい、まだそこにいるか? すまんな見苦しいところを見せた」
「なんだってこんな……もっとやり方はなかったのか?」
「そう言うな。あいつは一撃で核まで砕かないと再生するのさ。見てみろ、あいつの頭の石を」
「頭の石……」
黄金髑髏を見ると、砕けた頭の部分に真っ黒な石があった。
ソンの攻撃で半分程に壊れているようだが、まだ輝きを失ってはいない。
石からは例の暗い炎が噴き出していて、徐々にではあるが回復も始まっているようだった。
「最後の一撃はわしの最大の一撃だった。あれで無理ならどうしようもないさ」
「……そうか。一つ聞いていいか?」
「……なんだ?」
「ひょっとしてあの髑髏の石は、あんたが最後に使った石と同じものか?」
予感はあった。
尋ねてみると、ソンは静かに頷いた。
「……ああ。あれはわしが作り出した。人造の仙術兵器だ。……だからわしにはどうにかする義務があった……」
ソンが答える間にも、周囲の霧は少しずつ薄くなってきていた。
ソンの体は徐々に崩れだし、急速に生命が失われていくのを感じる。
黄金髑髏はそんなソンの命を吸うように、再生し続けていた。
「だがそれももう叶わない……すまんが、すぐに麓に走って逃げるように伝えてきてくれるか? あいつはすぐに動き出す」
ソンの言葉には力が感じられなかった。
彼の言う義務を果たすために、ソンはこの世界に流れ着いてからすべてを費やしたのだろう。
しかしわずかに及ばず、積み上げたすべてが水泡に帰す。
それがどれだけ無念なことか、俺には想像することしかできない。
だがどうしても、それを無駄にすることだけは許せなかった。
だから俺は、ソンの頼みを否定する。
「……断る」
「できんよ。お前はいい奴だ。自分を厄介ごとに巻き込んだジジイに七日も付き合うくらいにな」
「いいや。俺が……あいつをここで倒せばいい」
「……無理だな。お前には戦いの才能はないよ」
こんな時にも悲しい事を断言してくれる、ソンが憎らしい。
だが決めた覚悟は、この程度では折れはしなかった。
「だからどうした。才能がない? 関係ないね」
「……」
勝算ならある。
結界が解かれるということは、謎の通信障害も回復する。
俺の腕輪からノイズが走ると、聞きたくてたまらなかった声が聞こえた。
『―――マスター。ご無事でしたか?』
「……すまんテラさん。さっそく転送頼む。調整は万全か?」
『問題ありませんマスター。転送します』。
今まで俺が研ぎ澄ませてきた俺達の力の結晶は、俺の呼び声に応えてやってくる。
瞬時に体を覆う白い鎧は動力の駆動音を最初から全開に上げていた。
最後に転送されてきた赤いマフラーを首に巻き付け、俺は息を飲むソンに言い放った。
「あんたの意思は引き継いだ。出来ると信じてあがいたやつだけが、不可能を可能にするってことを―――今、見せてやる」