100年の決着
「……」
カラカラと、飛んだ石の破片が落ちてくる中、俺はソンのところに駆け寄った。
するとソンは座り込み頭から血は流しているものの、首を自分でゴキゴキ鳴らしているところだった。
「おい! 大丈夫か!」
「イチチチ……わしとしたことがらしくなく……いや。ちったぁマシな傷を負ったもんだ」
妙に楽しげにそう言ったソンだが、俺はどうしようもなくいたたまれない。
俺はどこまでも足手まといだ。
かつて何度もあった光景だった。
その場に崩れ落ちてしまいそうな脱力感の中で俺は、かろうじて呟いていた。
「……なんでかばった」
俺には今恨み言をぶつけられるくらいしかできることがない。
それなのに、ソンは自分の血を乱暴にぬぐいながら言った。
「……まぁあれだ。礼くらいはしておこうと思ってな。一回体張ったくらいじゃ返しきれないが、もらっておいてくれ」
「俺が、何をしたって言うんだ?」
意味の分からなかった俺は問い返すと、ソンは即答した。
「最後の時間をくれたろうが。実に人間らしい……実にいい時間だった」
「……!」
ソンは立ち上がる。
「怪我がなくって何よりだ。期せずして、巡り合った最後の弟子よ。さてそろそろ、100年前の心残りをきれいさっぱり清算してやるとしよう」
「手はあるのか?」
俺にはさっき以上というのがピンとこなかった。
ソンの繰り出す技の破壊力はすさまじく、おおよそ人間業とも思えなかったからだ。
だが奥の手が本当にあることはソンの表情を見ればわかった。
「ああ。ある。自分可愛さで100年前は使えなかった手だ」
ソンが口に出した瞬間、俺は全身が硬直していた。
それはまるでドラゴンと対峙した時のような途方もない恐怖が全身を駆け巡る。
動けない俺に背を向けたまま、ソンは言う。
「そういえば、お前力を求めているんだったな」
「……ああ」
突然の問いに簡単にしか返せなかった。
「なら、こいつも礼になるかもしれん……力を追い求めた先の一つの終わりだ。参考程度に見ておけよ」
ソンはふっと気合の乗った息を吐き、右腕を振り上げると、それを自らの胸に突き刺した。
「な、なにを……」
俺はソンが自分の胸から引きずり出したものを見て、息を飲んだ。
それは不思議な濃い黄色のオーラを立ち昇らせて、彼の手の中にあった。
手の中にある石が、ソンの力の源だ。
目にした時すんなりと理解できた俺はソンがこれからしようとしていることもおのずと理解した。
「やめ―――」
「悪神よ。今度こそ塵となれ!」
輝きはどんどん増して、ソンが黄金髑髏に飛んだ瞬間、ひときわ眩い光となる。
そして黄金髑髏さえも迫る光に震え、一歩後ずさった。
「……おい! ソンさん!」
俺は叫んだ。
ソンは光を拳に握りこみ、突進する。
黄金髑髏の防御した六本の手は一瞬で崩れ、ソンは止まらない。
完全に無防備になった黄金髑髏の顔面をソンは真っ正面から殴り飛ばして、握りこんだ力をすべて解き放つ。
「は! 本当はこうやって直接殴り飛ばしてやりたかったんだ!」
「GIYAAAAAA!!!」
鼓膜が破れそうな絶叫と、閃光の中、俺は今何が起こっているのか正確に見極めようと目を凝らした。
光が徐々に力を失い、開けた視界の中に見た物は、考えうる限り最悪だった。
「……嘘だろ?」
半身を消滅させられ、全身に罅を入れた黄金髑髏はまだ動いている。
そして、胸に穴を開けたソンは仰向けに倒れていた。