七日後に起こる事
「そろそろ、ここに来た理由を教えちゃくれないか? 一体ここで何がある?」
「……」
俺の質問にこれから起こることを想像したであろうソンの横顔はどこか楽しげに見えた。
「……わしにとっては重大なことが起こる。本来なら一人でやるべきことだ。巻き込んだことはすまないと思っている」
「それはもういいよ。突っ込んだのは俺だしね。それよりもなんか楽しそうなのが気になるな」
だが指摘すると無自覚だったのか、ソンは自分の頬をピシャリと片手でたたいた。
「おお? そうか? そう見えるか。しかし……楽しいとは少し違うな。戦の前は血が騒ぐものだろう?」
そしてソンはとうとう肝の情報を出してきて、俺はため息を吐く。
「戦ねぇ……」
俺はそう呟き顎を撫でる。こんな大掛かりなことまでするんだ。穏やかなことじゃないとは思ってたが。
「ソンさん、あんた何と戦うつもりなんだ?」
「まぁあれだ。わしの元居た世界の生き物だ。元の世界からの付き合いだがそろそろ引導を渡してやろうと思っている」
そう言っていつも見ている霧を遠い目で見られると、とんでもなく不安な気持ちが沸いてきた。
「モンスターの類か。それはまた難儀だね」
山一つ封鎖して戦おうって大物だ。ソンの口ぶりからしても、弱い相手ではなさそうだ。
そしてソンの説明はずいぶん漠然としていて、はっきりとしない。
それは意図して、情報を与えないようにしているようにも聞こえた。
「手出し厳禁?」
「出せるものなら出しても構わんぞ? 見極めは好きにするといい」
「ちなみにあんたのおすすめは?」
「逃亡一択だな。奴が現れたら、とにかく逃げ回れ。日数は少ないが、奴が現れるまでの間、修行を続ければ、普通よりもいくらか……生き延びる目もあるだろう」
どうにも教えを授けてくれたのにもそれなりに意味があったようだ。
確かに素の俺は完全な丸腰である。
テラさんへの通信も試みたが、圏外の今、頼りになるのは自分の身体だけ、武器が多いのは正直助かる。
「うぇ……おいおいそんなぎりぎりの状況だったのかよ。何ならこの術解いて逃がしてくれてもいいんですよ?」
今さらながらひやりとした俺は、そう呟いてみたが、ソンは静かに首を振った。
「それはだめだな。何せこの術を使うのにも相応の準備をしている。一度解除するとパァだ」
「じゃあ、終わったら出られるのか?」
わかってはいたが、なかなかに絶体絶命の状況に脱出方法の確認をすると、ソンはそれだけははっきりと確約した。
「ああ、それは保証しよう。今回の件が終われば術は解除される。だからお前は何としても生き延びろ」
「……そりゃあ。生き延びるさ。どうしたよ? 俺が生きるも死ぬもどうでもいいんだろう」
「ああ。だが、一晩酒を酌み交わせば犬猫程度の情もわく」
ニヤリと笑うソンは冗談も交えていたが、どうにも話自体が嘘だとは思えず、俺は静かに覚悟を決めていた。