宇宙の真理
俺の意識は溶けていた。
最初はお腹がすいたとか、体痛いとか、お尻が床ずれするとかちらちら脳裏をよぎっていた雑念は、全て大自然の大いなる流れの前にはないも同じだった。
俺の矮小な器には大いなる力への窓が最大に解放され、認識は拡大してゆく。
山から川へ、川から大気へ、大気から空を抜け、無限の暗黒へ。
そう―――宇宙は俺であり俺は宇宙であった。
「いや! ……俺宇宙違う!」
はっと目覚めた時、俺は、ただ一人の人であった。
あ。いかん、まだ影響ある。
どうやら俺はかなり危険な領域に足を突っ込んでいたようだった。
「ずいぶん集中していたようだな」
「ああ……俺はもう三日目にして仙人の奥義にたどり着いてしまったかもしれん。宇宙の真理にまで到達しそうだぞ? 今なら神様にだってなれそうだ」
「ああ。初心者にありがちなやつだな。思い込みが激しい奴ほどそうなるから気をつけろ?」
「……台無しだ!」
「……まぁ若い奴には誰でもあることだから」
「そんな若さゆえの失敗みたいな扱いにしないでくれないか!」
せっかく気分が盛り上がっていたのに。しかしあれは気のせいか。そうか。
さっきのが妄想の類いだとしても、そろそろ実感を持てる変化が欲しい。
具体的に言うと何か技的なものを使うことはできないかなっと思うわけだ。
「なぁソンさん。あんた、武術家でもあるんだろう? 何か仙術との合わせ技で、俺でも使えそうなのない?」
「ないな。仙術は感覚だ。出来そうと思ったら出来るし、その時にならないとできない」
「なんかめちゃくちゃアバウトだなぁ」
俺が口をとがらせると、ソンさんはデコピンの形に親指と中指を構え、弾いた。
「?」
意味が分からないでいた俺のオデコに猛烈な衝撃が届いたのは一瞬後だった。
「んなぁ!!」
俺はひっくり返る。
ジンジンとしびれたように痛む額を押さえた俺はソンさんを見た。
「なんだ今の!」
「衝撃波だ」
「……そういうの教えてくれ!」
「はっはっは。教えんでもそのうち出来るさ。教えても無駄だしな」
笑うソンさんはまだまだ色々と隠し玉を持っていそうだった。
納得がいかない俺の表情を見たソンは一度唸る。
「そうさなぁ……例えばだが、お前が見たっていうおかしなやつも気のせいってわけではない」
「だろ!? 気のせいじゃないってあれ!」
ぽろっと漏らしたソンさんの言葉につい声を荒げてしまうと笑われてしまった。
「あれは力と一緒に周囲の情報も流れ込んできてるんだ。うまく情報を処理出来れば未来予知のようなまねができる」
「……未来予知かぁ。夢が広がるなぁ」
仙人っぽいスキルはできればすごく便利そうだが、全くできる気はしない。
「だがやり方を教えたところで予知出来るかと言えばそうでもない。予知夢なんてものがあるが、狙って見られるものじゃないだろう? 結局仙術ってのはやってるうちに自然と出来るようになっていることしかできないのさ」
体験談のような語り口に、俺はああっと腑に落ちた。
「へー……じゃあここには、何か予知してきたんだな?」
そう言うと、ソンは眉を上げた。