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仙術講座

「まぁ早まるな。完成せずとも効果はある。体力は向上し、集中力も上がるだろう。体も今以上に頑丈になる」


「もっと言い方はないものか? ……普通の健康体操だってそんな効果がありそうなんだけど?」


 ジトっとした視線を向けると、今度はソンが不満そうな声を出した。


「一緒にするな、罰当たりめ。生かすも殺すもお前次第だ。今お前はわしが力を強制的に流し込み、目が開いている。本来形のない力を、お前は見ているはずだ。この周囲にある力を取りこむことで、肉体は活性化する」


「どうやって?」


「意識して集中力を高めればよい。今ならば力を取り込むことができるはずだ」


「……」


 俺はなんとなく手を動かしてみる。


 ゆらりと水の中のように何かが揺れるのが見えているせいか、抵抗さえ感じる気がした。


「体の力を抜いて集中だ。自然体がいいが、集中できればなんでもいい。俺の世界では長いこと動かないでいられる座禅がいいという奴もいた」


 ソンが説明してくれるので、だまされたと思ってやってみる。


 俺は意識して周囲に流れているそれを吸収しようと一心に考えた。


 すると、少しずつであるが体に外から何かが吸収されている気がする。


 お風呂に入った時、熱が体にしみわたっていくような感覚がジンわりと俺の体を熱くしていた。


 感覚を実感できたところで、いったん終了。集中を切った。


「ふぅぅぅ……」


 いつの間にかいっぱいになっていた肺の空気をいったん吐き出すと、どっと疲労感が俺を襲った。


「……これめちゃくちゃ集中しないとだめじゃないか? それになんかきついぞこれ?」


「なれの問題だな。長く繰り返せば繰り返すだけ自然にできるようになる。アレだ吐くまで食べなきゃ胃袋は膨らまないだろう? 鍛えるとはそういうことだ」


「こ、こういうものなのか……」


 しかしなんかたとえが悪いな。


 ただ何でもないように言うソンの口ぶりを聞けば、当り前だということは想像がついた。


「最初は肉体を活性化させる程度だ。だが集中を繰り返せば、次の段階で取り入れた力を自分の意志で操作し術となすことができる。この段階まで体がなじめば、水上歩行くらいの芸当はできる」


 それはなかなか興味深い。おおよそ期待した効果はもうしばらく先のようである。


「それは中々いいな。第二段階にも時間がかかる?」


「いや。真面目にやればそれくらいはすぐにできるようになる」


「じゃあそれ以上は? 例えばこの結界みたいなやつとか」


「ああ。それは仙丹ができてからだな」


「せんたん?」


 尋ねると、ソンは自分の胸のあたりをつついて言った。


「そうだ。外の力を絶え間なく吸収しているとな? こう、力の塊みたいなものが体に出来てくるんだが……あれだ、病気の石ができるやつあるだろう? あんな感じだ」


 せっかく教えてくれているのになんだが、やっぱりあまりにも例えが悪すぎる。


 それじゃあワクワクはできない。どちらかといえば疾患だった


「……えぇ? それって大丈夫なものなの? あの病気強烈に痛いって聞くけど?」


「痛いかどうかは人それぞれだろうな。ただ、かなり大きく育てると頭が長く変形したり、腹が膨れる時もあるんだとか? まぁそうなるのは千年、二千年後だろうが」


 病気云々以前に、時間の単位が人間やめてそうだった。


「何それ怖い……。でもまぁかじり始めが気にする必要もないのか?」


「そういうことだな。だいたい仙丹が体内に出来るまでで五百年だ。いったんできれば桁違いの力を引き込めるから、術も大きなものが行使できるわけだ」


 その結果がこの謎の霧であり、脱出不能の術なのだとしたら確かにとんでもない。


霧はおそらく岩山全体を飲み込んでいる。


しかしとなると、問題はもっと根本的なところにある気がした。


残念ながら元の世界では人間はそんなに長生きできるようにはできていないからだ。


「な、なるほど。しかし、そんなに生きられないんじゃないか? 俺の寿命たぶん100年あるかないかだと思うんですけど?」


「そこは知らんな。仙人になるつもりなら寿命を延ばす方法も考えた方がいいかもしれん」


「……そいつはまた気の遠くなる話だなぁ」


仙人とやらになるためには、そこまで生き残るのが何より難しいのかもしれない。


「どうだ? あきらめたくなったか?」


 ソンは問うが、不思議とそんな気はしなかった。


「いや、多少なりとも何かできるならやってみるよ」


 水上歩行と軽く言われたが十分すぎる武器である。


 出来るようになるのなら、修行を試みる意義はあるだろう。


 ひとしきり説明を聞いて、納得した俺は、今度は目の前にある問題を先に解決してしまうことにした。


「よし、じゃあせっかく生き延びたんだし丸一日なにも食っていないせいか腹が減ったよ。ソンさん、なんか食べるもの持ってないか?」


 俺はもちろん丸腰で巻き込まれたし、すでに丸一日以上何も食べてはいない。


 ここから出てもいけないなら何か食べ物を分けてもらえないかと頼んでみると、きょとんとされてしまった。


「いや。わしは別に食事はとらんよ? これでも仙丹を持つ仙人だ。お前も言っていたろうが? 霞を食べると」


「え? いやいや、嘘を言わないでよ? 食料を町で買い込んだって聞いたんだけど?」


「いいや。酒を少しと、水だけだが?」


「……!」


 どうやら食料の心配をしなければならないのは俺だけのようだ。


 地味にやばい。俺は五〇〇年どころか、明日の命の心配をしないといけないようだった。



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