突然の異変
「え? なんだあれ?」
リッキーに妙な話を聞いた翌日のことである。
久しぶりに小屋で一泊した俺は、ある異変に遭遇した。
不審な余所者のことなんて吹っ飛ぶほどの事件が起きたことは、窓から外を見ればすぐにわかった。
山に不可解な雲がかかっていた。
その雲はまるで繭のように丸く山の上に覆いかぶさっていて、周囲を稲光が無数に走っている。
俺は慌てて鉱山に向かうと、すでに山の麓には沢山のドワーフ達が集まっていた。
その中にダン親方の姿を見つけて、俺は駆け寄った。
「ダン親方! これなんなんです!」
「……おお。ダイキチか。いや俺も初めて見た。たぶん揺らぎの一種だとは思うんだがな」
山を見上げるダン親方はもじゃもじゃと自分の髭をいじくっている。
あれは、相当考えこんでいる感じだ。
上空の雲もおかしいのだが、すでに麓まで霧が立ち込め始めていて、普通に山歩きをするのも簡単だとは思えない。
更に揺らぎの一種だとすれば、これから他の世界からわけのわからないものまで次々現れ、危険度は跳ね上がる。
「あー。前に出くわしましたけど。下手したら死にますよあれ」
「おお、お前も見たか。ビジネスチャンスなんだがな」
「それはわかりますけど……これ、普通の揺らぎともなんか違いません?」
「そうなんだよな。危険なところに突っ込んでいって、何もありませんでしたなんてのはあまりにも馬鹿馬鹿しい」
だがそんな危険極まりない山の方から誰かがこちらに歩いてくるのが見え、俺は目をこする。
しかし彼は幻ではなかった。
ボロボロの外装を着た誰かは、妙に貫禄のある声で俺達に話しかけてくる。
「……これから七日間、この山に入れば安全の保証はない。命が惜しくば立ち入らぬことだ」
ごく普通に話しているようなのに、耳によく通る声だ。
気が付けば、ここにいる全員が黙って謎の人物の声を聴いていて、そしてほんの数秒話し終えると、誰かは踵を返して元来た道を引き返してゆく。
「おい! あんた!」
「おいダイキチ! なんかおかしいぞ! 引き返せ!」
俺は詳しいことを聞こうと飛び出していた。
最近、突発的な判断を繰り返していたせいだろう。
ダン親方の声が聞こえたが気が付いた時には、周囲の視界全てが濃霧に呑まれた。