嫌な予感
「家で預かることになった、トシだ。よろしく頼む」
そう言って紹介した少年は、真新しいシャツとズボンに分厚いエプロンをつけて、おずおずとニーニャにうつむきがちに挨拶をする。
「……よろしく」
結局ツクシが連れて来たトシは、晴れてニーニャと同じ俺預かりとなったわけだ。
俺のところがそんなに駆け込み寺に最適!というわけではないと思うのだが、一度周囲の認識をきっちり切ってみたいものである。
しかしトシについてはこうなるだろうと漠然と思っていたのでニーニャの時より心の準備はできていた。
「とりあえずニーニャは先輩ってことになるのかな?」
【おお……】
目を輝かせているニーニャはどうにも先輩という響きが気に入ったようだ。
やる気があって何よりと、俺は単純に喜んでいた。
これから店は、今まで以上に店らしいことができるようになるだろう。
俺に手を出せる異世界の物も順調に集まってきている。
「トシは力仕事担当だから、教えてやってほしい。これから忙しくなるから、人出はいくらあってもきっと足りなくなるぞ!」
なんて、言っている間が一番幸せだったのかもしれない。
俺がいない間に始まってしまったお店が繁盛しているということがどういうことなのか。
そしてそこに追加の物資と、新たな新戦力が加わればどうなるのかということを。
俺は想像する努力を怠っていたのだ。
「ニーニャちゃん! 王都でまた変な物見つけておいたよ!」
「こっちもだ! どうだろう?」
【ありがとうございます。使えそうなものはこちらで引き取ります】
ニーニャが新撰組の連中まで巻き込んで、異世界品の収集をしていた。
そして彼らはニーニャの作ったおにぎり定食を、うまそうに食べてゆく朝のモーニングタイムである。
黒い手を呼び出して、一人で厨房回すニーニャの仕事に手も足も出せずにいた俺は呟いた。
「これは……うっかり手も出せないな」
俺はどうにもこの辺りからいやな予感がしていた。