予想外の成果
「た、大変だったな……。無事に帰ってこれてよかった」
「うん! めっちゃ楽しかったな!」
「あれ? なんか会話がかみ合ってなくない?」
全身痛い体を押して俺、大門 大吉はようやく王都に帰還した。
そしてツクシの背中には、角の生えた子供がいる。
「まだ調子悪いのかい?」
「……ダメだ力でない」
俺が尋ねると、角の少年はふにゃりとしたまま呟いた。
トシの額にあった二本の角は、一本が半ばからぽっきり折れている。
その影響か、体調不良が続いているらしい。
そしてトシを担いだツクシは先ほど城門を突破した武勇伝を得意げに語った。
「いやぁしかし。トシが無事に入れてよかったな! 僕の説得のおかげだな!」
「すごいゴリ押しだったけどな。あれがなかったら確かに無理だった」
「な! 強気にいかなきゃいけない時もあるな!」
「門番の連中、涙目だったじゃないか。勇者なんだから、あんまり無茶言わないでやれよ?」
だが苦笑いで俺が言うが、むしろツクシは首を振る。
「いや、そうは言っても、トシ一人助けられなくって何が勇者だと思わないか?」
確かに、そのゴリ押しの結果望む展開に持っていけたのだから、大したものだとも思えた。しかしその結果、生まれる面倒事もあるだろう。
「……実際助かったけどね。帰ったらラスボスのヒルデさんも待ってるだろうから頑張れよ?」
「うん! ……何とかなる! じゃあ行って来るぞ! ……この旅最大の戦いへ……な!」
ぐっと拳を握って見せたツクシの顔には汗が一筋流れていた。
グッドラックツクシ。きっと話せばわかるはずだ。
俺は一回だけ頷いて、トシを抱えたままタッタカ走って行くツクシを見送ったのだった。
さて俺はようやくお店にたどり着いたが、どういうわけか店の前で見知らぬ複数の馬車を見つけた。
「なんだ? なんか高級そうな……」
シャリオお嬢様だろうか? それにしてはいつもの馬車ではない。
不審に思ってこっそり店内を覗き見ると、店の中は旅に出る前とは様子が変わっていて、むしろ綺麗になっていた。
食堂と化していたスペースでは何かを飲んでいる客も多く、ドレスなんかを着た、見た感じ上流階級っぽい方々までいる。
そしてお客はカタログのようなものを眺めていて、帰ってきてから売ろうと思っていたバッテリーを受け取っている客までいた。
「え? もうなんか始まってる?」
そんな客を見送るのは、とてもかっこいい高そうな制服を着た、ニーニャだったものだから俺は愕然とした。
【ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております】
「ええこちらこそ。いい買い物でしたわ」
ほくほく顔のどこかのご令嬢を見送りに出て来たニーニャをじっと見ていると、ビクリとニーニャは俺に気が付いた。
【てんちょ! おかえりなさい!】
「はいよー……ただいま。ニーニャも立派になって何よりだ」
店は確かに任せていたが、留守番以上の意味はなかった。
ところがニーニャはさらに一歩踏み込んで、この短い間に店を切り盛りしてくれていたみたいだ。
「……」
これはニーニャに思わぬ才能があったということか。
何だか意外で俺は驚く。
しかしなんだかすごくこれは……繁盛していると言えるのではないだろうか?
店の中には活気があるし、独自の工夫も見て取れる。
単純に喜びたいところだが、胸のあたりがざわつくこの感じは何なのだろう?
俺は自分でも戸惑っていた。
【てんちょ?】
「まぁいっか! なんかうまくやってるじゃないかニーニャ! さすが店員第一号!」
ここまでおぜん立てされてはこれから頑張らねばならないだろう。
俺は今日も異世界に試されていた。