ダイキチとゆかいな仲間達
「なんか妙な事になったが……大丈夫か?」
【やってみる】
三人の貴族を見送ったニーニャはますます鼻息を荒くして、やる気を出していた。
シャリオ、マリー、そしてヒルデの三人組が話しているうちに盛り上がってきて、その熱が移ったのかもしれない。
具体的に言うと三日後に客を連れて行くからダイキチの用意した在庫をありったけ用意して準備しておくこと、そして出来るのなら、追加の商品も用意しておくことがニーニャに課せられた注文である。
そして当然のように、ニーニャは出来るのならの部分も完ぺきにやるつもりだった。
思いもよらず、旅立った店長を待たずに話が動いてしまうようだが話はそう簡単じゃないはずだ。
そもそもニーニャにあのお嬢さん三人の求めることは出来るのか?
マー坊の心配をよそに、ニーニャはさっそく行動を開始した。
『商品の増産は可能です』
秘密基地にて、さっそく商品について相談するとテラさんはたやすい感じに許可を出す。
この謎の声にはテレパシーが伝わらないので、話す担当はマー坊だ。
「か、可能なのか?」
『ええ。あなた方には一部基地の使用権が与えられています。またマスターの残した商品のレシピはデータとして保存されています。収集品の修理につきましては、工作機の中に入るサイズであれば現在でも可能です』
「そうかよ。あー後……なんだと? 商品の目録を作れないかって? なんか客が沢山くるっぽいけど、よくわからないものが多いからって? いやいくらなんでもそいつは無理じゃね?」
ニーニャの要望を聞いていたら、こっちもまたかぶせ気味の肯定だった。
『可能です』
「可能なのかよ」
この声だけの存在がそこまで小器用に立ち回れるのか疑問だったが、やけに断言した上、更にはわけのわからないことをいい始めた。
『商品の画像データに、王都の言語データでテキストを製作。ホログラムカードを製作しますか?』
「いや……ほろぐらむなんちゃらはちょっとな。普通に紙でいいんじゃねぇか?」
『紙に印刷ですね』
「印刷ってなんだろ? ……まぁいいか! 適当にやってくれ!」
『了解しました。では修復予定の前倒しをします。その際こちらでは製作不能なパーツがありますので、リッキー様の工房で加工をお願いいたします』
そう言って、テラさんは薄い板を細い溝からチンと出した。
触れてみると半透明の触れない影が現れてニーニャはすさまじく驚いていた。
そして今度は貴族用の制服を注文するためにエルフの服飾店へ。
こちらは現役貴族のお嬢様方による、一部の無駄もない要望書付きである。
待っていた黒髪のエルフ、シルナークはいきなりセクハラをかましてきた。
「ほう。いいぞ。格安で作ってやろう。そうだな……君が、この間の踊り子衣装を着て見せてくれるのならタダでも―――」
ガン。
突き立った魔王の触手は、その硬さオリハルコンクラスだった。
そして心なしかいつもより冷たい目のニーニャは対エロフ用対応だ。
【……てんちょの世界にはセクハラと言う物があって、そういうことをする人は罰を受けてしかるべきなんだそうです】
「そ、そうか。いや、なんでもない」
【適正価格でお願いします】
「うん。そうだな。それがいい」
コクコク頷くシルナーク。ちなみに個別の対応はダイキチ店長の教えを忠実に守っている。
「やだ、うちの子結構過激」
おかげでプチ魔王と化しているが、効果は抜群だった。
そして今度はテラさんの発注書を持ってリッキーの工房だ。
「あ。いらっしゃいニーニャちゃん。え? 仕事の依頼? いいよいいよ。任せといて」
そしてこっちもこっちでまた、やたら簡単にオッケーが出た。
『……いいんですか?』
「いいよいいよ歓迎だよ。それで? 何が欲しいの? ダイキチみたいな無茶ぶりじゃなければ今日中にでも用意しちゃうよ?」
『……それじゃあ、ここにある部品をお願いします』
ニーニャが預かっていた板を渡すと、特に抵抗もなく当たり前にリッキーは受け取って、内容を確認していた。
「ああ、テラさんの図面だね。……あれ? これ結構な無茶ぶりじゃない?」
『お願いします』
「お、おう。ま、まかせておいてよ」
ちょっと押しの強いニーニャがにっこり微笑むと、向こうもニッコリ笑顔で終了だ。ちょっと笑顔がひきつっていたけど。
「あと、材料のいくらかはたぶん鉱山のダン親方のところにあるはずだから、尋ねてみるといいよ。紹介状書いたげるから」
リッキーはそういうと早速作業に取り掛かっていた。
そして、今度は材料採集に鉱山へ。
そこではドワーフの工夫達が、ニーニャを温かく迎え入れてくれた。
「ん? ダイキチが集めてた石? あいつは収集癖があっからなぁ」
【……この粉に使われている石なんですけど】
「ん? ああ! これならすぐそこにあいつが積んでたな。オイだれか運ぶの手伝ってやれ!」
「「「ヘイ!親方!」」」
ダン親方が声をかけると団子になった炭鉱夫達が転がるように出てきて、ダン親方の額に青筋が浮かぶ。
「……お前らな」
【……だいじょうぶです。一人で持って行けます】
「いやさすがに嬢ちゃんの細腕じゃ……」
魔法で作り出した腕で軽々と巨大な岩ごと持っていくニーニャを見て、ダン親方とゆかいな仲間達は黙った。
【?】
「……いや、なんでもない」
他にも使えそうな鉱石もいくつか見繕ってもらって、ほくほくしたニーニャと釈然としないマー坊は帰路につく。
「……なんか何とかなりそうだな」
【うん。よかった】
これはダイキチが思ったよりちゃんとしているのか、周りもなんかちょっとおかしいのか。
瞬く間に様々な工程が円滑に行われた。