新しいお客様
【……お米に合う調味料が手に入りそうだから買い付けに行くと言っていました】
何分唐突な話だったから、ニーニャの知っている情報はそんなものだった。
しかし話を聞いたヒルデはピクリと反応した。
「……ほぅ……それは。しかし店も開店したばかりでしょう?」
【はい。でも目玉商品の開発が終わったので、旅立つならこのタイミングがベストだそうです】
「目玉商品ですか?」
【はい。これです】
ニーニャはセールスチャンスを逃すまいと小型バッテリーを持ってくる。
一見するとただ黒い箱にしか見えないものを見せられてヒルデは眉をひそめた。
【異世界で、魔石の代わりになる物らしいです。ここにてんちょの作ったものを差し込むと動きます】
「……使える道具はどのようなものがあるのですか?」
【お米を炊いたり、料理に使うものや、てんちょは美容に使えそうな物は積極的に直していました】
「直すというという事は量産できるものではないんですね。値段設定は高めにしなければ利益になりませんか」
【はい。てんちょも同じような事を言っていました】
しばし黒いものを見て、口元を押さえていたヒルデは、決断した。
「……いいでしょう。ではバッテリーとお米を炊く道具を一つずつ購入します。それとお米も近々入るんですね?」
【そのはずです。今までは不定期だったけど、安定して手に入れられたらいいなーと言っていました】
「なら近々何らかの成果があるでしょう。ダイモンさんも何の目算もなく大事な時期に旅立つこともないでしょうし」
【そうですか?】
ニーニャはなんとなく用意周到なダイキチというのがピンとこずに首をかしげたが、ヒルデはあっさり肯定した。
「ええ。ダイモンさんならおそらく。ただ、入れ込み過ぎると周りが見えなくなるところがあるのでトラブルが起きないとは断言できかねますが」
【……わかる】
「ダイキチさんもツクシ様よりは控えめですが、たまに暴走します。そして静かな暴走ほど止めにくいものです」
なるほど静かな暴走というのは的を射ているとニーニャは思う。
なまじがむしゃらに鍛えているせいか体力が底なしなのも始末が悪い。
放っておいたら気が付くと力尽きているような危うさは盲点だった。
【気を付ける】
「まぁ大抵は大丈夫でしょう。半端な鍛え方はしていないので」
最後だけは妙な自信をうかがわせていて、ニーニャはなんとなく背中が寒くなった。
妙な雑談が交わされているところに次の客がやってくる。
馬車の音が聞こえたら、やってくる人物は決まってる。
扉から現れるのは赤いドリル、もといこの店のスポンサーであるシャリオお嬢様のはずだ。
しかし入って来た客は赤だけではなく一色多い。
「ごきげんよう」
「邪魔するぜ」
店内に入って来たもう一人は例えるのなら鮮やかな青だった。