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PS ヒーロー始めました。  作者: くずもち
ニーニャ奮闘編
103/462

王都のお店では

「おいおい、大丈夫かよ」


【……もちろん。だいじょぶ】


「どうだかね?」


 元魔王のマー坊は黒い塊に浮かんだ瞳に困惑の色を浮かべていた。


 しかし正確に理由を察したニーニャは不満そうである。


 ニーニャは無表情だがやたら気合を入れているのが分かり、マー坊はそんなニーニャになんとも言えない不安を感じた。


 なにせ、ニーニャはおそらく店の経営などやったことがないわけで、さらに言うならとても向いているとも思えなかったからである。


 しかしニーニャが気合を入れる理由は、無責任な店長が旅に出て、完全に店を任せたからだろう。


 そんな無茶なとは思わずに、このニーニャは信頼と受け取った。


 そして信頼を寄せられれば全力で応えるのが、ジンという名の種族の根本的な性質でもある。


 店長はそんなことなど知らないようだが、ニーニャが実際やる気になったのが問題だった。


「さてどうなるやら?」


【……がんばる!】


 店のカウンターでさらなる気合を見せたニーニャにやはりマー坊は微妙な視線を向けるのだった。






「失礼します。ダイモンさんは御在宅でしょうか?」


【いらっしゃいませ】


 本日、一人目の客は眼鏡をかけた女の軍人がやって来た。


 勇者ツクシに仕えている副官のヒルデである。


 マー坊はその顔を見た瞬間、警戒を強めた。


 さすがに見つかるのは一番まずい。


 しばらく様子を見ていると、ヒルデは店内を見回していて何かを探しに来たようだった。


 そんな彼女にさっそくニーニャは店員としての初仕事をする。


【てんちょは今出かけています。数日は帰らないと思います】


「……旅ですか? なるほどそうですか」


 ヒルデは、眼鏡の奥のきつめの鋭い視線をさらに細める。


【……あの、ご用件は?】


「いえ、大したことではありません。勇者様を探しに来ただけですので。しかし、そうなると少々不用心ですね」


 困り顔のヒルデはなぜかニーニャを眺めてそう言った。


【ぶようじん】


「そうですよ。貴女は勇者に保護されているのです。ダイモンさんもいないとなると、トラブルに巻き込まれかねません」


【……】


 ヒルデの言う通り、ニーニャの身の上は王都では微妙な位置だった。


 まぁ主に魔王が憑りついて暴れたせいではあるが、ここにいるための均衡を作り出したのは良くも悪くも勇者という規格外の存在であることは間違いない。ニーニャは表情を引き締めて頷いていた。


「結構です。心の内にでも止めておいてください。私達の方でも十分警戒をしておきますが万が一ということもありますから」


【……はい】


 返事を聞いたヒルダは店内に入ったこともあって、適当な椅子に座った。


 その席は店内のフリースペースで、ほぼ毎朝来襲する勇者ツクシと新撰組の連中のために用意された、半ば食事処になっている場所だった。


 しかし現在、店の呈をなしていないこの店では唯一の定期的な収入源になっている。


「せっかくです、こちらでは食事もできると隊員から報告がありました。今日はこちらでいただくとしましょう」


 ヒルデとしては、気を使った提案だったはずだが、ニーニャの入れた気合はその言葉を聞いてすぐに抜け、すまなさそうに頭を下げた。


【あの……ごめんなさい。食事はてんちょがいないとあまり作れません】


 これに関してはニーニャに非はない。そもそもダイキチが手広くやりすぎなのだ。


 特に料理に関しては蛇足すぎる。勇者のために始めたようなものでダイキチの料理までニーニャは完全には把握できてはいない。


 しかしなぜかヒルデは、ここで食下がった。


「そうですか……では、おにぎりはありませんか?」


【! おにぎりなら大丈夫です!】


 シュバッとすかさず手を上げたニーニャに驚いたヒルデだったが、やはりどういうわけか少しだけ嬉し気に表情が動いた気がした。


「そうですか……ではおにぎりをお願いします。魚が入っているものが好みです」


【わかりました……少々お待ちください】


 大慌てで厨房に入ったニーニャは炊飯ジャーの米を使って、思いのほか手早く準備する。


 具の作り置きの中に見つけたほぐした魚を入れ、塩を利かせたおにぎりはすぐに完成した。


 二つのおにぎりをお皿に乗せ、慎重に持って行くとヒルデは無表情のまま眼鏡を上げた。


「では……いただきます」


 ただ、食事をしているだけなのに、妙な緊張感があった。


 ニーニャは知らず知らずに喉を鳴らし、胸に抱いたお盆を持った手には汗がにじむ。


 ヒルデはおにぎりを口に運んだ。


 真っ白なお米の塊に一口歯を立て、ほろりと崩れる白米を黙々と味わうようにゆっくりと噛みしめてゆく。


 魚のほぐした具が顔を出すと、いったんそれをじっくり眺めて、再び食事を再開した。


 頃合いを見計らい、ニーニャが店長に言われた通り、緑のお茶を差し出すとヒルデはそれもまたゆっくりと飲んで、一度だけほっと息をついた。


「結構でした」


【……おぉ】


 どうやら合格のようである。


 マー坊は、何の審査だとあきれたが、ニーニャは緊張から解放されてようやく力を抜いていた。


 しかしすぐに顔を上げたヒルデが口を開き、新たな緊張はやって来た。


「ニーニャさん、それで店主は何をしに行ったのですか?」


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