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めでたしめでたし?

「ふふふ……来たか」


王都に帰って数日後、店の入り口に矢文が届き俺は闇市に出向いていた。


本日商人さんが目的のブツを持ってきている、それが矢文の内容であった。


さすが忍者。ニンジャである。


俺が時間よりちょっと早めに到着すると黒づくめの商人さんは俺達をニッコリ笑顔で迎え入れた。


「これはこれはダイキチさん。先日は大変申し訳ありませんでした。こちらの問題に巻き込むようなことになってしまいまして。申し訳ありません」


「いやいやいいんですよ。行きたいって言いだしたのはこちらですしね。それに実りの多い旅でした」


謙遜でも何でもなく、まさしく実りの多い旅だったと言える。


異世界生活において、へたをすれば一生かけてもたどり着けないところに一足飛びにたどり着いてしまったような、そんな気さえしていた。


商人さんも涙を滲ませ、うんうんと深く頷いている。


「そう言っていただけると、こちらとしては助かります。それで、早速ですが、ダイキチ様にこれを。どうぞお納めください」


商人さんの傍らには大きな葛籠と米俵が、そしてもちろんかぐわしい香りを放つそれらも並んでいた。


「おおお……」


「我が里の最も上質なものですよ」


「ようやくこっちで巡り会えたか味噌と醤油!……納豆に酒まで! 発酵食品だからって遠慮なんてしないでもいいと思うんだけどな!」


「申し訳ありません。前に一度並べた時は本当に人気がなかったもので……」


「……そんなに?」


「そんなにです」


ちょっとだけ大量に仕入れてしまったけどダイジョブか? みたいな心理が働いたが、よく食う連中もいるので大丈夫だと思いたい。


いや本当に大丈夫だよね?


俺がちょっとだけ不安な顔をすると、商人さんは曖昧な笑みを浮かべただけだった。


そして商人さんは荷物とは別にきんちゃく袋を手渡して深々と頭を下げた。


「そしてこれは、影丸様からでございます。門外不出の品ですので、他言無用でお願いいたします」


きんちゃく袋の中には二段ジャンプの札と、それを書くのに必要なインクが入っていた。


忍具がそう簡単に表に出していいものではないことはわかっている。


ずいぶん奮発してくれたものだと、俺は影丸に感謝した。


十分すぎるほどの報酬に目頭を熱くしていた俺だったが、最後に商人さんは思い出したように俺に尋ねる。


「そういえば……つかぬことをお伺いしますがよろしいですか?」


「ハイなんでしょう?」


「このあたりに赤い『まふらー』という布が売っていませんか? ぜひ手に入れてくれと言われているのですが?」


「……」


なんというか、思わぬところで思わぬ影響が出ることもある。


これもその一つかと思うと複雑な気分だが、それはそれとして、エルフの店から赤い布を仕入れておこうと、俺はそっと決めた。




俺は荷車にそれらを乗せて、闇市を後にした。


「ふひひひひ。気分は本当に桃太郎だわこれ」


ずっしりとした荷車の重さが、ちょっと嬉しすぎる。


テンションがおかしくなった俺は軽快に荷車を引っ張って我が家にたどり着いた。


するとすでにそこにはツクシが両手を振って待ち構えていた。


「だいきち! 来たか!」


「ああ! 来たぞ! 俺達はついに成し遂げたのだ!」


荷車からいったん手を放し、俺はぐっと親指を立てた。


ツクシはダッシュで駆けてきて、俺達はがっつりと抱擁してくるくると回った。


高い高いまでつけちゃう。


ひとしきり喜び合ってツクシを降ろすと、すでにツクシはよだれを垂らしていた。


拭いてやりつつ、コクリと頷き荷車を見せると、ツクシは目を輝かせた。


「おおお! 荷車に絵本で見たことがあるぞ! まさに桃太郎!」


「そういうの好きだなぁツクシは」


「モチのロンだぞ! 時代劇とかもめっちゃ好きだ! それじゃあさっそく丼を作ってほしい! 甘辛い奴をな!」


「うーん、そういうの好きだなぁ……」


熱の入り具合が尋常ではないツクシだった。


だが俺とてこの宝の山を見て何も思わないわけがない。思ったよりも大ごとになった道中を思い返せばなおさらである。


「しかし今回の旅は大変だった。俺達も中々タイミングが悪いもんだな。こうもトラブルに巻き込まれるってのは」


俺は呟いたが、いや待てとツクシは真剣な表情で俺に主張する。


「むしろ最高のタイミングだぞだいきち! 今より遅かったら何にもなくなってたはずだ!」


「……それもそうか」


言われてみれば、ツクシの言う通りあのタイミングだったからこそ忍びの里のダメージは確実に減った。


その結果が昔々から語り継がれるヒーローに近い結果をもたらしたのだから、悪くない。


そして、俺達が今回連れてきたのは何も宝物だけじゃない。


俺はツクシの隣でずいぶん小綺麗な格好をしている子供について口を出す。


「トシも来たのか。ずいぶん小綺麗になったじゃないか」


「……!」


なんとも窮屈そうな顔で俺を見るトシは、どうにも居心地が悪そうだが照れているようだ。


そう、俺達は宝だけではなく鬼まで連れて帰って来た桃太郎である。


もうそれは本当に、ぶっちゃけてしまえば勇者の権力頼りのゴリ押しだったのだが、今日はその後どうなることになったのか、ツクシは結果を持ってきているはずである。


ツクシはむふんと鼻息を荒くし、俺の前にトシを押し出した。


「ああそういえば……食べる前に言っとかなきゃなな! トシはだいきちの家に住むことになったから!」


「……いや、そうじゃないかなってうっすら思ってたけどね」


俺は軽くため息を吐く。


非常に薄い縁ではあるが、忍びの里に置いてくるわけにもいかなかった。


異世界から来たというのなら、あのまま放りだすのも後味が悪い話である。


さて、確実なのは王都でトシがあの騒ぎを起こしたら、まず間違いなく俺の首が飛ぶってことだろうが、こればかりは頑張って制御してもらうしかない。


勇者ツクシが一体どんな説明をして、彼がここに来ることになったのか?


正直俺は怖くて聞きたくなかった。


ああ、だがもうこれは俺の責任として覚悟を決めよう。俺は今日も異世界に試されていた。


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