その後の話
俺、大門 大吉は一心不乱に、鉱山で穴掘りに勤しんでいた。
俺の黒髪からは汗が滴り、シャツとズボンは土にまみれていることだろう。
そんなことにはいっさい構わずに、ガッツンガッツンとツルハシで岩盤を崩す。
ある時はスコップを使い、ある時はトロッコで土を運び出し、効率的に発掘を繰り返していれば自然と体は鍛えられた。
かつて地球で学生だった時を思うとどうしてこんなことになったのかと疑問が沸いてこないでもない。まぁ高校に通っていたのは三年ほど前の話だが。
洞窟の中での重労働はおそらく相当ハードであるが、いいことだってちゃんとある。
「こいつは……ひょっとしてひょっとするか?」
今日も俺は、土の中からお宝を発見する。
とても暗く、黒くも見える結晶はじっと見ているとわずかに光を放っていた。
土をかき分け、見つけたそれを大事に取り出し、俺はさっそく叫んだ。
「親方! 出ましたよ!」
「おう! ちょっとこっちに持ってこい!」
発見報告に野太い声が返ってきて、俺は掘り出した物をもって走った。
待っていたのは鉱山夫の責任者、ドワーフのダン親方だ。
立派な髭がトレードマークの彼はこのあたりのドワーフ族の顔役で、昔冒険者として鳴らした豪傑である。
ダン親方はごっつい指からは想像もできない繊細な動きで発掘品から土を払い、良しと頷いた。
「魔石だ。読みは外してなかったな。うまくすりゃ、また鉱脈でも出てくるかもしれん」
そう言ってダン親方は機嫌よく俺の肩を叩いた。
ちなみに魔石とは魔法という不思議な力をこめることが出来る鉱石である。
魔石を加工した道具は魔道具と呼ばれていて、原材料の魔石は高値で取引されている。
大きな鉱脈でも発見すればボーナスチャンス到来だった。
「よし! ダイキチのいたあたりを重点的に掘っていく! 忙しくなるぞ、野郎ども! 気合入れろ!」
「「「へい! 親方!」」」
鉱山夫仲間のドワーフ達が親方の号令に一斉に返事を返した。
彼らが動き出すと、ツルハシをものすごい勢いで振るって簡単に大岩を砕き、俺だったら三人は必要な岩を一人で運び出してゆく。
その馬力はとても人間技とは思えないほどパワフルだが、これこそが魔法の効果である。
俺も体力には自信があるけど、単純な力仕事は本気になった彼らには絶対にかなわない。
俺はほぼドワーフ達しかいないこの場所に、紆余曲折あって流れ着いたのだが、若干力不足を感じながらもここに居ついているのにはそれなりの理由だってある。
その日の仕事終わり、俺はダン親方に声をかけられた。
「お疲れさんだ、ダイキチ! 今日はバイト代をはずむぞ!」
「ありがとうございます! 」
「発掘したジャンクはいつも通りまとめて置いてあっから持っていってくれ。結構多いから何人か人を連れていっても構わんぞ?」
「助かります。でもあれくらいなら一人で大丈夫ですよ」
「そうか? お前の体力もますますドワーフに近づいてきたなぁ! がっはっはっは!」
豪快に笑うダン親方に頭を下げて俺は今日の分のバイト代を受け取り、本来の仕事を請け負った。
ジャンクとは魔石が発掘される場所で必ず見つかる用途不明品のことである。
そういうものをひとまとめにしてゴミ山に持って帰るのが本来の俺の仕事だ。
だがこのジャンクはただのガラクタじゃない。
ジャンクはどこかしらの異世界からやって来た漂流物で、俺から言わせればこれは魔石よりも価値のある本当の宝物だった。
何でそんなことが断言できるかというと答えは簡単。
俺もまた異世界からやって来た漂流物だからだ。
実は俺は異世界から来た人間である。いや妄想とか冗談とかではなく。
ある特殊な方法で召喚された、正真正銘地球人だ。
俺を召喚したこっちの世界の住人は、単純に強い異世界人が欲しかったらしい。
だが俺はそのお眼鏡には適わなかった。
異世界に呼ばれた者は本来、強大な力と強力な魔法を併せ持っているらしいのだが―――俺には何もなかったからだ。
つまり俺を召喚した人間にしてみれば失敗ということになる。
まぁ一瞬は、憧れたさ。
呼び出された瞬間に言われた言葉は「この世界を救う勇者になってくれ」だもの。
勇者という言葉には夢と希望が詰まっていたし、自分もそうなるのかと正直ワクワクした。
ところが―――そううまくはいかなかった、これはそうなった後の話なのだ。