ハイルの魔法の才能
割り込みの投稿ですみません。
一人になった俺は、ハイルの魔力量を測ってみることにした。
魔力とは、動物であれば必ず持っているものだ。心臓から送り出されている血液によって全身に運ばれる。しかし、血液がどこから造られているか解明されていないのと同じように魔力もどこからどのように造られているのか解明されていない。
魔物はまた別で、身体の中に魔石という魔力の結晶体があり、そこで魔力が造られている。命がある限り、そこで魔力が造られるが、死んでしまうと魔力は造られなくなり、魔力の結晶体でしかなくなる。しかし、魔導の技術によってそれを吸い出し、利用することが出来る。それが魔道具である。昔も武器や生活用品などによく使われていた。
俺は、ベッドに横になったまま、目を瞑り、精神を集中させる。すると、風が吹く音や鳥の鳴き声が聞こえてくる。まるで、森の中にいるみたいだ。そして、意識を心臓に向ける。ドクンドクンと動いているのが分かる。その心臓から送り出されている血液に意識を向ける。その中にある温かみのあるものが魔力だ。魔力に目を向けると血液と共に自分の身体の隅々まで流れているのが感じられる。
しかし、やはり思った通り、かなり少ないのだ。魔法が使えないという程ではないのだが、使えると言ってもC級魔法しか使えない。
前世には魔法の強さによってランク付けがされていた。強い方から、S,A,B,C,Dだ。
S級魔法は、前世の俺やカイナのような、天性の才能がないと扱うことすら出来ないものだ。その中には攻撃魔法も治癒魔法も含まれている。攻撃魔性では、小国を落とすことも難しくないほどの威力を持っている。そして、治癒魔法では身体の大半が吹き飛んでいたとしてもその身体を元の状態に戻すことも出来るのだ。
A級魔法は、これが使えれば超優秀と言われるレベルのものだ。国の持つ、魔法部隊の将軍はレベルはこれが使えないとなれない。
B級魔法は、これが使えれば優秀と言われるものだ。案外、努力でなんとでもなるものだ。今の俺みたいによほどの才能がない状態にならなければ使えるものだ。魔法部隊の騎士は全員B級を使える。
C級は一応誰でも練習すれば使えるものだ。攻撃魔法もその中にはあるが、石の塊を飛ばしたり、水の塊とかしか飛ばせない。使い方によっては強いが、ゴブリンやスライムなどの弱い魔物相手にしか使えない。しかし、基礎は疎かにしてはいけない。
D級は練習しなくても、詠唱を覚えるだけで使えてしまうものだ。魔力制御など一切必要ないし、魔力も全然必要としない。
良く才能のありなしはB級が使えるか使えないかで判断される。B級魔法の壁はそれほどなのだ。普通の人間がB級を使おうとすれば、一年は少なくともかかると言われている。かかる人はもっとかかり、そんな努力が出来ない人が、C級で止まる。目標に向かって努力し、達成することもまた一つの才能なのだ。
そして、俺が使えるのはC級までだ。B級魔法を使うおうにも、魔力が足りない。大体、ランクが上がるにつれ必要な魔力は20倍と言われている。前世では、普通の一般人が使えるのはC級10発分と言われていた。この時代の人々は増えているかもしれない。そこは分からないが、今の俺は前世での一般人以下の魔力しか持ち合わせていなかった。
そして、更に悪いことに、魔力の通りも悪かった。
魔法は、詠唱などによって自分の魔力を使って魔法陣を描き、行使する。その時に自分の血管に流れている魔力を身体の外に出さなければならないのだが、人によって魔力の出しやすさというものも変わってくるのだ。その魔力の出しやすさは透魔性という。
透魔性が良ければその分魔法の行使は簡単になるし、逆に悪ければ難しくなる。例えると、透魔性とは、魔力が外に出るまでにどれ程障害物があるかどうかなのだ。障害物が少なければ透魔性はよく、多ければ透魔性は悪い。
魔力はまだましだったが、透魔性が最悪レベルだ。前世の俺は透魔性が最高クラスだったので、特に苦労することがなかったが、するすると魔力が出て行っていた前世の感覚で魔法は使えない。前世でもそこで詰まっている人をみたことがあって、なぜ出来ないのか分からなかったが、今分かった。これは難しい。練習がかなり必要だ。
だから、先ほど父に殴られた時も魔力が使えなかったのか。
魔法を行使するにはまず、三段階の工程がある。
まず、魔力を身体の外に出す。その魔力を使い、詠唱を伴って魔法陣を描く。最後にその魔法陣に魔力を込める。これで魔法が行使できる。
普通、D級であれば、詠唱をすれば、不思議と勝手にその三工程をして、魔法を行使できる。しかし、C級からだと魔法も繊細になり、詠唱だけによる自動行使だけでは使えなくなってくるのだ。C級の魔法を使おうと思えば、自ら魔力を制御し、操作することを求められる。
その魔力操作は前世で極めているので、簡単だ。しかしだ、魔力操作が出来たところで魔力を外に出せなければ意味がない。
そしてさらに、透魔性が悪いと無理やり押し出す分、無駄に魔力が必要になる。これは、魔力操作がうまくなれば、外に出すための消費魔力量は少なくなっていき、最終的にはゼロになる。
透魔性が悪いというのは、障害物が多いということなのだ。ということは、魔力操作が上手ければ、全く魔力を消費することなく、身体の外に魔力を出すことが出来る。その障害物の多さは、人によって、身体の部位によって、違う。自分に合った場所を探せば良い。
まず、そこから始めよう。
取り合えず、目を瞑り、もう一度精神を集中させ、自分の魔力と向き合う。自分の魔力の性質をつかみ、まず身体のなかで操作する。血管の内側の表面を探り探りで、一番透魔性が良いところを探す。
二時間くらいしただろうか。やっと、見つけた。一番透魔性が良かったのは人差し指の先っぽだった。普通は心臓の近くだと、知識だけはあったのだが、全く違う場所だった。
一番透魔性が良いと言っても、一般人からしてみると、悪いのだが。
俺はまずはゆっくりと魔力を外に出す。障害物を避けながら丁寧に操作する。
よし! 出た!
10分くらいかけてやっと外に出た。でも、魔法を行使できるほど魔力は外に出ていなかった。魔法を行使出来るくらい外に魔力を出す。その魔力を使い、魔法陣を描く。今回使う魔法は水をただ出す魔法だ。その小さな魔法陣に外に出した残りの魔力を込めると、空中に親指サイズの球状の水が出来上がった。魔法で作った水には自分の魔力が含まれているので、魔力操作で浮かし続けることが出来る。そして、その水を口の中に入れ、のどを潤した。
誰でも水を出せるのかと聞かれれば、持っている魔力の属性と相性による。人は生まれた時から魔力を持っているが、その魔力には属性が存在する。光、闇、水、火、土、風の六種類だ。そして、俺は全属性を持っている。その中でも水属性との相性が良いのだ。
ちなみに、その属性の魔力を持っていなければその属性の魔法はそもそも行使できないが、相性が悪いだけであれば、魔力消費量は増えるが、使えないことはない。
魔法も一応使えることが分かったので、次は訓練する内容を考えようと思う。今、訓練しなければならないことは、魔力を外に出すことだ。魔力を出すときに存在する障害物は、不変だ。なので、何回も練習すれば、先ほどは10分も掛かってしまったが、1秒も掛からず一瞬で出来るようになるだろう。でも、障害物が多すぎるので、どれくらい掛かるかは自分でも予想できない。
常に使い続けることが出来る魔法が訓練に相応しいだろう。そして、魔力も全然消費しないものだろう。何が良いだろうか。常に行使続けるには、周りが変に思わないようなものだろう。
これに当てはまるのは、光属性かな。自分の姿を偽る魔法を、指先とかの一部にかけ続けるとか、後は、気配を消す魔法を改良して、あまり気配が消えないようにした魔法が良いだろう。
とりあえず、人差指の爪がちょっとだけ長くなるように、魔法をかけよう。
再び10分かけて魔法を行使する。ほんの少しだけ爪が長くなった。光魔法は魔力を消費し続けなければいけないので、少し大変だ。曲がりくねった細い川に岸にぶつからないように水を流し続けるようなことをしなければいけないのだ。最初は大変だが、一週間もすれば出来るようになるだろう。