プロローグ
ここは深いの森の中。
そんな誰一人寄り付かないと思われる場所に一つの木で出来た小さな小屋が立っていた。
その小屋の中には大きなベッドが一つあった。その上には二人の老夫婦が力なく横たわっていた。もうすぐ寿命なのだろう。
「カイナ。こんな俺に今まで付き合ってくれてありがとう」
お爺さんがぎりぎり聞き取れるような声で囁く。
「当たり前のことです、ハイク。わたしはあなたに助けられたときにあなたに一生ついていくと決めましたもの」
お婆さんもカスカス声で返す。しかし、その姿には目に見えない気高さがあった。
「公爵令嬢だったカイナと結婚出来たのも、男爵家だった俺に、たまたま魔法の素質があったからだもんな」
「ふふふ。それは違いますよ、ハイク。あなたには、魔法の素質だけがあっただけではないですよ。しっかりと努力をして、私を迎えに来てくださったでしょ?」
「まあ、そうだな」
お爺さんは、嬉しそうに答えた。
「もうすぐ終わるのですね」
「何か心配ごとか?」
「残してきた子供たちのことが少し」
「あいつらももう大人だ。大丈夫だ。遺言も送ったし、俺たちの遺体はあの手紙を読んだら回収されるだろう」
「そうですね。なんて言ったって私たちの子供ですもの」
「ああ。でも、もう感傷に浸っているわけにはいかなそうだ」
「はい、ハイク。それではまた未来でお会いしましょう」
「ああ、また向こうで」
「必ず、迎えに来てくださいね」
「ああ。どこに行っても、必ず迎えに行ってやるから安心しろ」
お爺さんは、信じているけれど少し心配そうなお婆さんに、安心させるように、今持てる元気さを絞り出し、自分に取って元気に答えた。でも、やはり弱っているのか、それでも声は小さい。
しかし、お婆さんは長年付き添ってきた夫婦の絆によるものなのか、ふふっと笑った。
「よろしくお願いしますね?」
「任せろ!」
「では、やりましょうか」
お爺さんとお婆さんは、横になりながらも両手をつなぎ、目を瞑った。
「「我ら、ハイク、カイナはこの世界の未来がためこの魂をささげん」」
彼らがそう言うと、彼らの中心にして、巨大な魔方陣が出来上がる。それはこの森を覆いつくすような大きさだった。
「今までありがとう、カイナ」
「こちらこそ、ありがとうございます、ハイク。また来世でお待ちしております」
その言葉を残して彼らは亡くなった。
彼らの遺体の周りには沢山の光が集まり、幻想的な風景だった。それはまるで自然が彼らを祝福しているようだった。
「そんなことさせてたまるか」
ノイズが走ったような声がかすかに響いた。
◇◇◇
後日、彼らの子孫のもとに遺書が届いたことによって、彼らがなくなったことはすぐ王国中、世界中に知らされた。多くの人々が涙を流した。
そして、、ハイクは『大賢者ハイク』、カイナは『聖女カイナ』と呼ばれ銅像が立った。彼らは魔法技術を発展させ、魔物から戦えない市民を助け、その名を知らぬものはその世界にいないといわれるほど有名であり、世界の平和に貢献した。毎年、この日には彼らをたたえ、王国総出で祭りが行われるようになったという。
『大賢者ハイク』と『聖女カイナ』の活躍は物語りにされ、親から子へ、親から子へと語り継がれていった。