第8話 五星島騎士団と五大名家 前編
名前被りが発生しかけていたので修正。
(修正前)七千→(修正後)南雲
~No said~
時は少し遡り、冷夏のいる寄宿舎から少し離れた支部。その支部のとある一室には人が集まっていた。
皆第5部隊の特徴である千歳緑の軍服を着ている。
軍服をなぜ騎士団なのに着ているのか。
なぜ軍服の色が特徴となるのか。
その答えには、騎士団がどのような機関であるかを語る事から始めなくてはならない。
騎士団は種族間協定後に五大名家の働きかけによって設立された全種族公認の機関だ。
言い換えれば、軍と警察の仕事の良いとこ取りをした機関といったところか。
服装が軍服なのは警察官の服が青以外の色になると違和感があるなどの些細な理由から。
騎士だからと言って態々鎧を着るのは、正直実用的ではない。
因みに騎士団という名前は五大名家によって決められた。
そんな騎士団は、五大名家のいるこの五星島を主に活動している。
他の場所は、また別の全種族公認の機関が、活動の場としており、連携を組む事によって世の安全を守っている。
騎士団には全部で7の部隊に分かれており、部隊ごとに町や都市を管轄している。
部隊の見分け方は着ている軍服の色だ。
第1→檳榔子染
第2→蘇芳
第3→紅樺
第4→蘭茶
第5→千歳緑
第6→瑠璃紺
第7→杜若
色は上記のようになっている。
活動内容も管轄以外に部隊ごとで違っているが、それには今は触れない事とする。
話は戻るが、現在第5部隊の面々が集まっているのは管轄地の1つである港町アクアリーフにある支部だ。
何故この支部なのかはこの会議で話される内容に関係がある。
パンパンパン
三回の手拍子がされ、集まっていた者たちがぞろぞろと席へ向かう。
席は特に指定されておらず、人数分用意されただけの為、空席無く無作為に座っていく。
座ったのを確認したのか、手拍子を鳴らしていた男が立ち上がった。
男の憲法染の髪は短く切り揃えられ、洒落柿の瞳は細アーモンド型をしている。
身長は高く、鍛えられた肉体と整った顔立ちは落ち着いた30代男性といった印象と強者である事の両方を感じさせる。
男に従う様子から男が高い地位にある事が分かる。
「皆…揃っているな。さて、第5部隊の諸君。急な召集で戸惑った者もいるだろう。その点については、この第5部隊司令官 片桐 藜の名と事態の緊急性で勘弁してほしい。」
全員の顔を一瞥し、そう告げた。
威厳ある態度と落ち着いた物言いに、異論を申し立てる者は出なかった。
事態の緊急性に反応し、話を早く進めたいが為に黙っているだけなのかもしれないが。
「前置きはさておき、早速本題に入る。資料は机上にある為、それを見ながら聞いてくれ。では春日部君、報告を頼む。」
春日部と呼ばれた男は、片桐と入れ替わるようにして席を立ち、資料片手に報告を上げ始めた。
「本日より2日前の6月8日午前7時35分、月夜見家裏山中腹辺りにて、五星島騎士団副団長 月夜見 慶と、その妹の向日葵の遺体が見つかりました。
遺体発見までの流れとしては、匿名の通報が同日未明本部にされました。その後、本部から月夜見家に近いこの支部に連絡が回され、支部から現場に人員が送られ、発見となっています。
ここまでで何かご不明な点はありますか。」
言葉を一度切り、周りを見渡した。
人員の数や向かった者の名前は資料に記されており、この報告が事件の概要を大まかに説明というだけであるのが、顕著に表れていた。
それを察してか誰も手を上げず、無言が続いた。
無言を肯定と取ったのか、春日部は再び言葉を紡ぎ出した。
「では次に死因ですが、これは実際に現場に行った方に説明をして頂きます。南雲さん、よろしくお願いします。」
春日部が座ったのを確認したのか、1人の女が立ち上がった。
「南雲 朱、第5部隊A班 兵士番号15 港町アクアリーフ支部所属です。現場には先ほどあったような経緯で向かいました。
遺体発見後、Masterを使い魔法使用の有無などを調べました。
その結果、禁忌魔法の1つである細斬磔が使われた事が判明しました。
この魔法は、主に罪人などの処刑に使われていました。
発動されれば、キリストの磔のような体勢で拘束後、全身の血管に細かく傷をつけ、破裂を引き起こします。
その結果、出血多量、外傷性血管損傷、圧迫になり、ほぼ99%の確率で死亡に至ります。
よって死因は出血多量・外傷性血管損傷によるショック及び圧迫による窒息と思われます。
また現場には2名の遺体以外の血痕が複数、それも大量に残されていましたが、今の所他の遺体などは見つかっていません。
複数の者が激しく争ったような跡も見られる事、禁忌魔法が使用された事、月夜見家裏山が現場である事、月夜見家の者が殺害された事などから、今回の事件には複数の人間と裏組織もしくは五大名家全体が関わっている可能性が極めて高いと思われます。」
資料には現場写真も載っており、その説明と相まって事態の深刻さを強めている。
何時しか会議室内には重い空気が漂っていた。
さて、こんな空気が漂っているが…
ここで禁忌魔法やMasterについて説明しておこう。
禁忌魔法とは、今の魔法原理が確立される前にあった魔法で、調べたり使おうとするだけで重罪。
現在は、禁忌魔法書に纏められ、総合図書館の地下に封印され、所蔵されている。
その為、使用は愚かその魔法名さえ知る事がほぼ不可能とされている。
だが、裏社会では密かに出回っている可能性があり、禁忌魔法の全面禁止化には至っていない。
Masterとは、魔法検索端末(Magic search terminal)の略称。
全種族公認の機関で使用されている魔法検索端末。
未発見未発表の魔法もしくは魔法に関する事柄以外の全てのデータが記述されている。
禁忌魔法も例外ない。
但し、発動方法や条件など魔法自体の発動に関わる事は伏せられている。
表示されるのは名前、どんな魔法かの簡単な説明、発動された際の効果、どんな時に使われていたかの4つだけ。
その他の魔法や魔法に関する事柄は完璧に書かれている。
簡単に言えば、調べたいものにかざすだけで魔法についてなら、何でも分かる辞書。
閑話休題
こんな空気がしばらく続くと思われたが、事態は意外にも早く動いた。
「南雲さん、質問してもいーか?」
眼鏡男(冷夏命名)こと、第5部隊兵士長 花宮 祐が、部下の南雲 朱に向けて、声をかけたからだ。
このような会議では、挙手し当てられてから発言、もしくはこの会議に出席している中で、最も地位の高い司令官ー片桐 藜に発言の有無を聞き、許可が出てから発言、の2択の内何方かを選択するのが妥当な所だろう。
しかしながら、報告者本人や司令官ですら黙り込んでしまっては質問や意見さえ言えない。
挙手や発言の有無なんて以ての外だ。
だが、これでは話が一向に進まず、緊急性の高い案件がきちんと伝わらない。
だからこその砕けた口調での質問だったのだろう。
幸い彼女は彼の部下で、敬語で無くともあまり問題無い。頭の固い人はどう言うか知らないが。
「え…?ああ、はい…どうぞ。」
戸惑いはしたものの、発言を促した。
成果はあったようで、場の空気や人々の意識は元のようになり、皆質問に耳を傾け出した。
「何故、犯人は月夜見家の裏山とはいえ敷地内…そんなすんなりと入れたんだ?確かに、騎士団はどんな権力を持つ者が関係していようと、自由に捜査でき、捜査協力もしなければならなくなっている。
だが、幾らそんな権利があろうと五大名家の1つ、月夜見家の敷地内に簡単に入れる筈が無い。
資料では少し足りない。もっと詳しく説明してよ。」
「片桐司令…あの件に対する発言許可を頂きたいのですが。」
恐る恐る出した言葉は発言許可を求む内容のものだった。
「…許可する。…先に皆に告げておくが、今から話してもらう事は、第7部隊諜報科及び現場に向かった者以外、誰も知らぬ事だ。
騎士団の上層部にさえ、まだ報告されていない。
例外として、四童子騎士団長には報告がいっている。
内容が内容なだけに、なるべく情報は広げないようにしているのだ。他言無用で頼む。」
シンとした会議場…無言は肯定と取られた。
片桐は目線で南雲に発言を促す。
コクリと頷き、視線を全体へと戻した。
「月夜見家の本家には魔法や武具などで激しく争った跡があり、当主及びその妻両名共、意識不明の重体。
使用人らは心肺停止もしくは死亡。
唯一まともに喋れたのが、執事の八千。
その方から、当主からの言伝を受け取りました。
内容は敷地内への立ち入り許可、それと…」
言葉を一度切り、ホワイトボードに文字を書き出した。
書かれている間の時間が、重く長く過ぎていった。
『早急に少年冷夏、確保及び処刑
少年の存在が種族間戦争再来の鍵となる
これ以上五大名家を探らないでおけ
最終通達代わりの伝言だ』
「この言伝を伝えると同時に八千は息絶えました。
他の使用人らで息のある者は搬送先の病院で間もなく死亡が確認されました。
当主及びその妻両名は中央都市内の総合病院に搬送し、現在、一命を取り留めたものの、予断を許さない状態との事です。
月夜見家の戦闘跡等から、何者かの襲撃を受けたと見られます。
次期当主及びその妹の死と関連があると見て間違い無いです。
犯人については未だ掴めていません。
報告は以上です。」
静かに一礼し、席に着くとホゥと小さく息を吐いた。
余程この重々しい空気の中で喋るのが苦しかったのだろう。
髪の隙間から見える額には薄っすらと汗が滲んでいる。
「ありがとう、南雲さん。
さて、今の話を纏めると、『あの五大名家の1つである月夜見家が何者かに襲撃を受けた。
襲撃によって、当主及びその妻、使用人らがこっ酷くやられた。
そして、当主からの言伝を執事づてで受け取った。
しかしながら、未だ何も掴めていない。』
といった感じでしょう。
この事案によって判明した事は…五大名家に匹敵或いはそれ以上の力を持つ者が現れた為に、絶対的な力を持つ五大名家が絶対的ではなくなったという事。
人類が大混乱に陥ると考える事は容易にできるでしょう。
片桐司令は、今の事案を報告させないようにする事で、この事態を避けたかったんですね?」
『か』ではなく、『ね』である事がこの男の怖いところだ。
正解であると確信した上での質問。
それは全体を誘導させるには十分すぎるものだ。
片桐への好感や信頼…兎に角評価が高くなるのは当然だろう。
必然的にそうなるキッカケを作った花宮へ何かしらの印象を持たれる事になる。
作戦などで使われるチャンスを得る可能性を高めてもいるのだ。
それがこの男が『悪魔』と呼ばれる理由の1つである。
「…ああ、そうだ。こんな事案があったんだ。どこから情報が漏れ、騎士団に攻め入られたり、世を混乱に巻き込むか分からぬからな。皆を疑うようで悪いが、此れも世の為、人の為そして皆の為だ。分かってくれ。」
ほんの少しの動揺を瞳に見せた以外、終始真摯な姿勢で述べていた為か、誰一人として異論を申す者もなく、その後の通常報告会議も順調に進んでいった。
ここで、騎士団の内部構成を説明しておこう。
先程の会議で出た言葉などで不明な点も出た筈だから。
騎士団は上層部と下層部からなる2層型組織だ。
下層部では、さらに細かく3層に別れている。
☆上層部☆
総司令官、総副司令官、総参謀長、総副参謀長の4名で構成されている。
現時点での構成者名は以下の通り。
四童子 周
五星島騎士団団長(総司令官)
前団長の指名もしくは遺言により決まる。
今回は前総司令官の指名。
前総司令官の引退直前に決まった。
月夜見 慶
五星島騎士団副団長(総副司令官)
前副団長の急死により開催されたトーナメント戦の結果、選ばれた。
副団長不在になった場合、全団員でトーナメントを行い、勝ち上がった者と総司令官で闘い、打倒もしくは互角だった場合、選ばれる。
更科 雫
五星島騎士団総参謀長
団長からの指名によって決まった。
上層部唯一の女性。
一色 藤
五星島騎士団総副参謀長
団長からの指名によって決まった。
この4名は1人につき2人まで補佐を付けることが出来る。
今回はまだ若く経験も少ない総副司令官に2人、仕事量の多さから、総参謀長と総司令官に1人ずつ付いている。
しかし、補佐はあくまでサポートである事、また仕事内容の機密性の高さから、上層部以外名や姿を知らない。
本来、総副司令官である月夜見 慶の死亡の知らせが入った段階で、新たなトーナメントを行い、後任者を決めねばならない。
だが今回の場合、死因が月夜見家襲撃に関わっている為、慎重な捜査と情報規制が必要となった。
その為、後任者を決めるのは事件解決まで先送りに。
現在は2人の補佐が総副司令官の仕事を代理で行っている。
★下層部★
○第1層○
司令官
副司令官
参謀長
副参謀長
○第2層○
各科長・兵士長
各科副長・副兵士長
○第3層○
各科員・兵士
新科員・新兵
部隊候補生(魔法学校生・騎士団学校生etc…)
この3層型部隊内編成は全部隊共通だが、部隊毎に違う任務・人数の為、細かい所に違いがある。
第1 悪(魔物・組織)の排除者・断罪者
第2 空界の警備士、不屈無敗の用心棒
第3 海洋の覇者・守護者
第4 特殊環境・任務の専門処理者
第5 陸地の帝王・防衛軍
第6 治安・総務のエキスパート
第7 諜報の忍者、裏社会の監視者
この7部隊全ての別名から大体の仕事内容が分かるだろう。
これらは初代騎士団長と各部隊の初代司令官らの話し合いで全て決められた。
尚、各部隊の第1層は各部隊内での話し合い後、総司令官・総副司令官との面接、どちらか一方と手合わせをし、合格が得られた場合のみ、総司令官より正式に任命、各部隊への発表がされる。
第2層は、各部隊の第1層から任命されて決まる。
各科員は各科員長に配属を振り分けられる。
司令官はその配属の最終確認などに関わる。
兵士は一般やギルド等からの志願者のみ。
科員は科長直々に引き入れたり、部隊候補生から選んだりする。