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第7話 談笑と世界の変化


「ご馳走様でした。」


両手を合わせ、そう言った。


「気分が悪くなったりして無いかい?胃に優しいものにしたんだが…」


此方の顔を見たかと思うと、目線を土鍋の方へ移した。不安げに歪められた表情は陰っている。

てか、そんな表情向けられても…桜田さん悪く無いし。


「大丈夫ですよ。大分調子も良くなりましたし。そんなに心配しないで下さい。」


そう言いながら、出来るだけ柔らかな笑みを浮かべた。


「そ、そうか…それならいいんだが…」


顔をほんのり赤く染め、モゴモゴと何か呟いた。

熱でもあんのか?ま、どうでもいいか。

だがこのままなのも、何だか癪に触るため話題を変えることにした。


「あ!それよりさっきの料理って…」


「『お粥』だ。『日本』という国で食べられていた料理で、水を多くして米などを柔らかく炊いたものらしい。」


辞書のようにスラスラと引き出される情報に思わず舌を巻いた。


「『お粥』ですか…初めて食べましたよ。名前や写真は見聞きしたことありますけど…」


「へぇ…美味しかったか?」


「はい!」


満面の笑みでそう答えた。


「それは良かった。」


満足げに頬を緩ませ、頭をそっと撫でてきた。



暫くの間そうしていると、気になる事がふっと湧いてきた。


「そういえば、桜田さんの名前って変わってますけど、もしかして『ハーフ』と呼ばれる方ですか?」


「ん?ああ、そうだよ。母が欧米人で父が日本人なんだ。まあ、欧米も日本も今はないからなんとも言えないんだけどね。」


「確か、種族戦争後の種族間協定、別名五星島協定でしたよね?そうなったの。」


「ああ、よく知ってるね。それによって人間の国があった場所には天使又は堕天使、悪魔、人間の大きく分けたこの3種族が入り混じって生活しているんだ。」


「まあ、この五星島は特殊ですけどね。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今からおよそ100年前、平和だった世界は突然変わった。


地球全体を覆うほどの亀裂が空にでき、異空間、もしくは異世界と呼ばれる場所とこの世界は繋がってしまったのだ。


その亀裂からは、漫画やアニメなどの創作物や神話の中に登場する様な者たちが現れた。


所謂、悪魔や天使、詳しく言うなら魔物や獣人、魔人、魔法使いなどだ。


世界中でそのことがメディアなどで取り上げられ、尚更広まった。


そして、その様な者たちが降り立つと同時に、人間はその者たちの餌食になっていった。


殺され、犯され、盗まれ、囚われ…という具合に。


そんな状態になってから、およそ10年。


人間は全ての国々と同盟を結び、その者達を『異界の者』と称し、全ての武器や知識を使い、全世界総力戦を行った。


これが後に言う『世界合同異界人抹殺戦争』又は『種族戦争』である。


15年近くに及ぶ長期戦となったものの、結果は人間の惨敗…いや完敗だった。


戦後、世界の人口は4割程度にまで減った。


減った所為なのか、異界の者達はあまり来なくなった。


その間に人間は次の戦争に備え、同時に徐々に復旧していった。


それから約30年経った頃、再び亀裂から異界の者がやってきた。


しかし、今度は天使が5名、堕天使が5名、悪魔が5名、獣人3名、魔法使い2名の合計25名だけだったのだ。


不思議に思った人間は、異界の者達を一箇所に集める事にした。


そこで選ばれたのは当時放置されていた島であるこの五星島だ。


たまたま残っていたビルの一室で、それは行われた。


その当時、一番まともに異界の者対策として完成していた言語翻訳システムを通し、異界の者との交渉が始まった。


交渉は3日程続いた。

その結果、『この世界と異世界との間で技術や知識、種族間の交流をしないか?』という内容の協定を結ばないか、ということになった。


そして、そこから様々な条件を出し合うことにより、合意に至った。


これが後に言う『種族間協定』又の名を『五星島協定』である。


これによって2つの世界の間で異界の者と人間は共存することになり、今に至る。



*世界の歴史全集より一部抜粋*


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


細かい点は多々あるがこれが今の子供達の歴史の教科書にも載っている大まかなものだ。



暫くして、自称医者と眼鏡男が帰ってきた。

その表情は暗く、強張っているように見える。

様々な感情が入り乱れた目で、こちらに視線をやった。


「お疲れ様です。会議はどうでしたか?」


そんな様子を見てか、桜田さんは真摯な眼差しと柔らかな声で、状況を聞いていた。

落ち着きある態度をとっていたためか、2人は表情を切り替え、出会った時のようになった。

多分冷静になったのだろう。

部屋に入る前にそうしておくべきなのだが…

まあ、よっぽどの事があったのならば、兵士長や医務官程度では、普段通りになどしてられないか。


「その前にガキを客室に案内してくんない?掃除とかは、他の奴が済ませてるから問題ねーし。」


少し声にハリが無いが、それ以外は出会った時とあまり変わらない態度で、そう発した。


「…はい、分かりました。」


眉を顰めたが状況を察したのか、数秒後返事をした。


「それと…おい、ガキ。夕食の時間や分かんねー事、必要なものなんかは全部桜田に聞け。いいな?」


「はい。元々そのつもりだったので、問題ないですよ。」


ま、どうせ無関係のガキにするような話題じゃないから、監視を付けた部屋に隔離するって、感じだろう。


「それでは早速案内してきます。失礼しました。」


そう言ってドアを開け、どこかの貴族の従者のような礼をし、横へずれた。

礼儀作法やマナーの一環なのだろうが、動作の1つ1つが完璧で美しいため、正直兵士に見えない。

…こんな強面で屈強な体をしていなければ、だが。


「失礼しました。」


僕も一応それに習い、自分が出来る範囲で丁寧に礼をした。

頭を定位置に戻すと、2人して息を呑んでいた。

桜田さんの方に視線をやると、「ほぉ」と感嘆の声を漏らしていた。

そんな周りに悪寒を感じ、バタンと勢いよくドアを閉めた。


「全く、礼したぐらいであんな反応するとか…桜田さんも桜田さんで、あんな形だけ繕ったような礼1つで感心しないでくださいよ…!」


閉まったドアの先をキッと睨み付けた後、桜田さんの方に顔を向け、怒気のこもった視線を投げつけた。


「そんなに怒らないでくれ…悪気はなかったんだ。ただ冷夏君の礼がその容姿と相まって、見惚れるほど綺麗だったんだ。はたから見てアレを繕っただけのものと思う人はいないと思うな。」


言い訳にしてはヤケに長いが、やらためったら言葉巧みに褒め称え、話をそらそうとしているのがよく分かる。

まあ、焦った様子と出てくる言葉の綺麗さ、それに強面で屈強な見た目が相まって、中々に滑稽だったのは言うまでもない。


「はあ…そういう事にしますよ。とりあえず部屋への案内宜しくお願いします。」


「分かったよ。」


話題を変えたことに便乗し、桜田さんは歩き出した。


部屋に着くまでの間、他愛ない会話を交えながら、眼鏡男に言われたような事を確認した。


簡単にまとめると…

・夕食は19時半~21時半。


・朝食は5時半~7時半、昼食は11時半~13時半。


・明日は朝食後、医務室へ。医務室で今後の僕への対応や予定を説明される。


・必要な物は部屋に用意されている。


・用がある場合は部屋にあるコールボタンを押して呼ぶ。扉の前にいる者が対応する。


・風呂やトイレは部屋にあり、部屋は基本的に自由に使っていい。


大体こんな感じの事を言われた筈だ。



10分程で部屋の扉の前に着いた。

複雑な模様が気にならない程度に彫られており、割と洒落た扉だ。

なんの木材かは分からないが、丈夫でしっかりとしている。


「ここが冷夏君が泊まる部屋だ。で、これが鍵。」


そう言って、徐ろに桜田さんは懐から銀色の鍵を取り出し、僕に手渡した。

持ち手は扉以上に複雑な模様で、持ち手の先はかなり高度な技術が使われている。


「一応、スペアキーはあるが無くさないでくれると有り難い。」


苦笑いを浮かべ、鍵と扉の間で目を何回か往復させた。

余程スペアキーを出すのが嫌なのだろう。

まあ、この鍵を見れば察しはつくがな。


「分かりました。」


ここは素直に受け取る事にした。

話を拗らせる気はないし、困らせて喜ぶ趣味など無いからな。


「じゃ、仕事があるからこれでお暇するよ。」


仕事…か。さっきの会議絡みだろうな。

興味無いから別にいいんだけど…変に探られたく無いな。


「はい。失礼します。」


そう言って、鍵を使い、解除音を耳に入れながら、ノブを回して中へと足を踏み入れた。

その様子を視認したからか、桜田さんはスタスタと歩き去っていった。


カチャンと扉を閉め、耳に神経を集中した。

誰が扉の近くに来たようだ。

足音の数からして…2人だ。

見張り係も付いたところで…中入るか。

そう意気込んで、靴を脱ぎ、部屋の中へと進んでいった。


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