表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/32

第5話 朱殷の磔とチャラ男の狂気

その刹那、誰かの足音が聞こえた。


タタタタタタッ…


…はあ?

今の状況でやって来るとか…KY過ぎだ。

全く…ヒーローは遅れてやって来るってか?

ま、仲間全員死んでますけどね。


なんて考えが巡る頭を早速、背後から蹴り飛ばして来た。

しかも、吹き飛んだ体に次いでとばかりに重すぎる拳を入れて来た。


「うっ…!かはっ…」


グラグラと揺れる頭と軋む体。

口から血が溢れ出す。

ヤベェ…息が、出来ねえ…

これは、マジで…死亡フラグ、立っちまったみたいだな。


そんな思考が巡る中、迫る地面を前に冷静な対処を体が勝手に取る。


軋む体を無理矢理回転させて着地。

が、それと同時に、まだ姿さえ見てない敵が斬りつけてくる。


愛刀で何とか防ぎ、口から火炎放射カエンホウシャを出し、怯んだ隙に距離を取る。

ちなみに火炎放射カエンホウシャは炎を口から出す一種の騙し討ちもしくは一昔前のマジックのようなものだ。

念じ、イメージする。

それだけで僕の魔法は発動する。

たったの0.1秒で。



怯んだのはほんの数秒で、少し距離を取りつつ、チラリと相手を見る程度しか無理だった。


短く切り揃えられた茶髪、金色の瞳、鍛えられた肉体はすらっとし、整った顔はクール系イケメンといった部類のものだった。

見た目は20~30代ぐらい。


うん、というか…誰?

いい加減名乗れば!

どうせイケメンなら、モブと違って名前ぐらいあるんだろ?


「へぇ~、君まだ動けるんだ~!スゴイね~」


うわ、ウザ。

って、結局名乗らないのな。


左手を伸ばし、鋳造フォージと念じる。

そして、イメージする…

青い炎を纏し、鮮やかな煌きを放つ剣。

青炎刀セイエントウを。

その間僅か0.1秒で、左手にそれは握られていた。


「綺麗な刀だね~、君にぴったりだよ~!」


チャキリ…

愛刀、舞斬華のアカと青炎刀のアオが鮮やかに死へと誘う。


素早く駆け出し、接近戦に持ち込む。

舞うように軽やかに…小さな体躯で触れれば即死の剣撃が繰り出される。

紅と碧の剣線しか見えない程のスピードで。

技の総称は双花斬舞ソウカザンブ

あらゆる双剣殺人術を高速で繰り出し、敵を木っ端微塵にするもの。

これを防ぐ事など…出来る筈が…


「……ッ!?」


無いはず…なのに…!

剣撃全てを受け止め、軽くあしらっている…だと?

その場から一歩たりとも動かずに?


チッ、このままじゃ…葉宵モードが…完全になる。


「君、面白い術を使うな~。殺人剣術なんて今時珍しいよ?さ~て、一体誰に仕込まれたのかな~?」


…ウザい。


「…う、るさい。」

もう…持たない。



僕という意識はそこで沈んだ。



「生意気だな~可愛い顔が台無しだよ~?」


相変わらず、ウゼーなコイツ。

その顔捻り潰してやろうか?


「アァ?誰が可愛いだって?俺にそんな口聞くんじゃねーよ、チャラ男が!」


ドスの効いた低い声が響く。


黒束コクソク


そう念じ、イメージを持つ。

それで闇魔法が発動する。

その間0.04秒で。

闇の手がチャラ男の腕や足に絡みつく。

…黒束とは、いい変えるなら拘束だ。

だが、これは相手の魔力を吸い取り、自分の魔力を回復するものだ。


「酷いな~。君さ~、なんかキャラ変わってな~い?『俺』とか言ってるし~。拘束するのって~好みな訳~?」


チッ、コイツチャラいクセに鋭い。

俺の一番嫌いなタイプだ。


「んな、趣味ねーよ。俺は完全な葉宵。アイツと一緒にすんな、気持ち悪い。」


「『趣味』とは一言も言ってないけど~?それにあの子がいるからこそ、君が存在出来るんじゃないかな~?そんな事も分からないなんて~、葉宵ちゃんって馬鹿~?」


カッチーンって来たよ、流石に。


逆らいもせず、順従な態度とる奴なんて。俺は大ッ嫌いなんだよ。


「…おしゃべりな奴だ。俺をちゃん付けするなど、百万年早い。さっさと死ね。」


煽られ、血が上った頭を冷やしながら、冷たく言い放つ。

再び刀を構え、チャラ男の出方を伺う。


「ホント俺様な子だなぁ~。生意気過ぎて、調教ころしたくなるよ~。死ぬのは君の方なのに~。」


…は?


「何言って…ッ!?」


次の瞬間、目の前に見えたのは光魔法で黒束を破ったチャラ男の姿だった。

俺の拘束を破った光魔法は形を変え、腕や足に絡みつき、首を鷲掴みにした。


「ハッ…!」


声が漏れる。


これは…光束コウソク

所謂、俺の黒束の光魔法版。


コイツ…これを出してくるとは…魔法にも長けていたか。


「形勢逆転だね~。どうだい、やられる側になった気分は?」


…ヤバイな。

魔力が…どんどん吸い取られていく…

力が…入らない。

全身が痺れていく。


「…不愉快だ。気持ち悪い。つか、お前こそ、こういうの趣味なのかよ?」


憎たらしく笑みを浮かべ、吐き棄てる。

霞んできた視界に映るチャラ男は、大層楽しそうだった。


「そうだね~君みたいに可愛い子を愛でる(なぶりごろす)のは割と好きかなァ~男女問わず~!」


…狂気的殺人者かよ。引くわ、それ。

聞いといてアレだけど、キモいし。

いや、俺だって殺人に何も感じないけどな…

これは、ちょっと無いな。


「…それより、殺すならさっさとしろ。俺は待つのが嫌いなんだ。」


初めて人を殺したあの日から… 覚悟は出来ている。

ああ、そう言えば…3日後に誕生日だったっけか、俺。

7歳で死ぬとか…早過ぎな気もするがな。

そう腹を決めた。


「や~だね~!君にはまだ『利用価値』があるんだから~、殺さないよ~!」


そう言うが早いか、チャラ男は俺を何処かへ光束したまま、吹っ飛ばした。


数秒の浮遊感の間に、リュックは背中から離れ、同じ方向へ。愛刀たちは手に握られたまま。


ドカッ!ドサッ…


大きな衝突音と共に、身体中に激しい痛みと衝撃が走った。


「あぁああああああっ!かはっ!」


口から血を吐く。息が詰まる。

衝撃のあまり、普段滅多に流さない涙まで頬を伝う始末だ。


ピロリロリロン


そんな電子音と共に身体中を何かが通る。

さっきまでとは真逆の激しく甘い快楽が肩甲骨から全身に行き渡る。


「~~~~~~ッ!」


声が出ないっ…息が止まって…

身体中から汗が吹き出し、涙も鼻水も血も流れ出す。ガクリと全身の力が抜けていく。


「酷い顔~!まあ…ある意味唆るんだけど~」


チャラ男がいつの間か目の前に立っていた。

懸命に首を持ち上げると、そこには舌なめずりをした狂人かりうどの顔が収まっていた。


「冷夏!」

「兄上!」


ああ、2人の叫び声がする。

そう言えば、アイツはこいつらを……忘れてたな。


「今助ける!」


「今助けに行きます!」


まさか、助けようとするだなんて…

アイツにも、希望の光はあったんじゃねぇか。


「煩いなぁ~、もう~!見逃してあげようと思ったのにさぁ~!」


薄っすらと開く瞳に映ったのは…


「うっ……」

「あに、う、え……」


2人が背中や腹…全身から血を噴き出し、呻く姿。しかも、キリストの磔のような体勢で…ピクリとも動かなくなった。

イケメン、美少女と呼ばれる者達の身体にはベッタリと朱殷が至る所に付いている。


アレは魔法か…?何なんだ一体…何が起きて…

残酷にも瞳が映すのは自分の目と同じ…死を宣告せし色。

皮肉か…?当てつけか…?

守りたい奴さえ守れない程…俺が弱いってか?

なあ…そんなのってアリエ…ナイダロ…

これ以上…俺は…世界にゼツボウ…シタク…ナイ…


世界がモノクロになっていく。

…温かいものが頬を幾度となく伝う。


「あ、名乗り忘れたけど~、俺は鬼怒川キドガワ 冴義サギ!」


キドガワ サギ…か。

お前もその原因の1つだな…


「ふぅ。お喋り終了~!バイバ~イ、葉宵ちゃ~ん!」


そう言って、満面の笑みで剣の血糊を俺に…というか扉に散らした。

それと同時に、カタコトの言葉が聞こえた。


「ニンショウコード、アイコトバ、イケニエ、トモニカクニンシマシタ。コレヨリカイジョシマス。」


…は?解除…?


言葉が終わると、俺は背中にあった圧迫感から解放された。

だが、同時に階段から転げ落ちたのか、身体中に角が当たる度、血が流れ、地面は赤く染まる。

何とか纏を使い、致命傷を避ける。


「bingo!やっぱり君が鍵だったみたいだね~。」


その声と共に俺の意識はプツリと切れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ