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第3話 月夜見の実力と追っ手 前編

「冷夏!祠には後どれぐらいで着く?」


慶兄の必死な声に振り返り、一瞥した。

向日葵を小脇に抱え、走る慶兄。

ぱっと見は、幼女を誘拐する変態イケメンだ。

だが、グレーの瞳はいつもより鋭く厳しい。

藤色の髪も走っている為に激しく揺れ動いている。

辿った視線の先にあるのは僕の髪。

慶兄や向日葵、いや月夜見の誰とも同じでない…異端の色。


何でみんな髪ばっかり見るかな?

いくら異端だからと言っても、髪色1つで此処まで面倒な事になるとか…本当意味不明。

全く…そんなに見つめても、何も出ないのに。

何なら背負ってるリュックの方に目を向ければいいじゃないか。

例えば、何か使えそうなものはないか?とかさ。

あとは腰に差した愛刀ぐらいしか、身につけてないけどな。

…ま、それどころじゃないか?


「…あと4、5分程度です。でも僕は祠に連れて行くだけ。出るなという命令がある限り。」


…そう。出るなという命が降っている以上はそれを破る事は出来ない。

それが長生きするための数少ない手段。

出た声は自分でも驚くほど低く冷たかった。

無駄な考えをしていたとは誰も思わないほどに…鋭く、はっきりとしている。


「…!そうか…なら当主に変わって命を下す。共に逃げろ、冷夏。」


命という名の枷が外された。

心配という安易な理由で。

だが、誰も本当の意味では心配する事は不可能だ。


「…分かりました。おっと、これは…どうやらのんびりしてられないようですね。」


「追っ手か!」


無言で頷き、速度を上げる。

慶兄も遅れて、この速度に食らいつく。


ビュン!

シュタッ!

タタタタタタッ…


かなりの数の足音と気配…それに冷たい視線。

敵は玄関と此方にでも別れてたのだろう。

でなければ、こんなすぐ追付ける筈がない。

それにこの速度について来るなんて…

加速アクセルなどの系統の魔法に長けていなければ困難だ。

…チッ。

こうなったら、祠に相手より先につくしかない。


そう思考を巡らせる間に祠が見えた。


高さは2m程で材質不明の黒い塊は一見すれば、ただの扉にしか見えないが、よく見れば祠とも言えるだろう。

さて、これの何処に都合のいい抜け道がある?


「冷夏!あれが祠か?」


慶兄も認識したみたいだ。


2人ほぼ同時に祠の前で足を止め、慶兄は向日葵を下ろす。



『ニンショウコードヲイッテクダサイ。』


…ん?

認証コード?


カタコト・棒読みな言葉が祠から聞こえてくる。

無機質で機械じみた声は女のようであり、男のようでもあった。

そんな声は、不気味さと不思議さを感じさせる。


それより…

「認証コードって何なんだ?父上はそんな事言ってなかったぞ。」


僕はそう呟く。

慶兄や向日葵は呆気に取られている。

追っ手達は僕達を警戒しているのか、その場から動く気配がない。

草や土を踏みしめる音や武器を動かす音さえない。


…というか、これ敵方チャンスだろ…

僕達武器さえ構えてないんだし…

そもそもこっちは背中向けてるし…

なんか抜けてるよな…

ま、近づかないのは良い判断じゃないかな?

今だって、視認してないのに敵いるって認識してるし。

この状態でも殺ろうと思えば殺れるし。


「確かに…だが、このままだと確実に殺られるぞ!…如何する?」


呆気に取られていたはずの慶兄からの返しに、思わず顔を向けた。

そこにあったのは焦りと不安がよく分かる顔だった。

視線は、って…いや…そんな縋るような視線向けられても…

そんなん…こっちが聞きたいし!

…なんて言えるわけもなく。


「…とりあえず戦闘態勢になって、それを維持する間に考える、とかですかね?」


今出来る事を絞り出した結果、無難な所に落ち着いた。

つか、こんな状況で冷静なやつとかいたら、そいつ経験者かチートとかの有能者だろ…

普通ありえないから、チートとか。


「う~ん、それしか無さそうだね。」


微妙なニュアンスだが、肯定された。

ならば事は決まった。

愛刀の柄に手をかけ、戦闘態勢に入る。



緊迫した空気が辺りを埋め尽くすかに思われたとき、事態は動いた。

追っ手のうちの2人が此方に走り込んできたのだ。


僕は愛刀を鞘から抜き出し、その艶やかな刀身を追っ手に差し向けた。

鞘は己の瞳の色と同じ紺桔梗。

赤く色付いた美しく輝く刀身は細く、その形は日本刀そのものだった。

名を舞斬華マイザンカ

僕専用に作られた最高の一品だ。

まあ…此れをくれたのは両親ではないが。


半身で前を向き、中腰の姿勢で低く鋭く構え、攻撃に備えた。


慶兄も腰に差した鞘から一本の剣を取り出した。

鞘は鈍く光る燻銀(いぶしぎん)

重厚感ある独特なカーブは狼の遠吠えの姿を思わせる。

銀色に輝く刀身は目に眩しく、薄く少し触れただけで斬れそうな程鋭い。

名を銀刄狼ギンバロウ

慶兄の騎士団入団祝いに父上より授けられた業物だ。


スッと立ち、左手1本で敵に剣先を向ける姿は宛ら騎士のようだ。だが、隙の無さから同時に相当な熟練者である事を示していた。

…まあ、実際実力で副団長になったからな。

今では立派な本物の騎士様。その腕はかなりものだ。


向日葵は太股に巻き付いたバンドから短剣二本を取り出した。

エメラルドグリーンに煌めく刀身は薄く鋭く、深緑の紋様が刻まれ、全体的に軽量化されている。

ちなみに、紋様は向日葵の魔力以外に反応しない専用の魔力回路だ。

名を翠迅双スイジンソウ

向日葵の5歳の誕生日に父より授かりし業物だ。


素早く敵の死角に成る程低く構えた。

気配はまるで無く、背後を取られたら終わり…という雰囲気を纏っていた。


一番近くいた慶兄に2人は的を絞ったのか、走りこむスピードを上げた。

右側にいた男が先に斬りつける。

が、あっさりと躱され、背中に一発肘を入れられた。

左側の男は慶兄が躱したと同時に斬りつけたものの、蹴りを腹にお見舞いされていた。


「殺す必要は今のところ(・・・・・)無いだろ?」


何もなかったみたいに涼しい顔して剣納めてる。


「ええ…まあ。」


その様子に苦笑いするしかなかった。

ちなみにもれなく、その2人は気絶していた。


その余りの差に他の追っ手は標的を変えようとした。

だが頸動脈を一撃で斬られ、半分程が血の雨と共に地に倒れ伏していた。

向日葵が気配を殺してやったのだろう。


向日葵は、黒髪に毛先近くから暗い紫色。

耳ぐらいの高さで青リボンでツインテールにしてる。

少し垂れ気味のライトグレーの瞳はアメリカンショートを思わせ、白肌、薄い唇が合わさり、美少女と言える容姿だ。


「兄上、兄様終わりましたよ!」


僕を兄上、慶兄を兄様と呼ぶところも特徴だ。

短剣についた血糊を払い、納めた向日葵は元気いっぱいに手を振って来た。

…うん、天使だ。さっきまでバンバン人殺してたとか思えないレベルで。


「了解!」


声を少し張り、返す。

流石に妹に天使だ~!なんて叫べるわけないし。


「お疲れ様、向日葵。」


慶兄が優しい笑みを浮かべ、労う。

…ここが戦場になってなかったら、大層惚れる女が出そうなものだ。



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