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第2話 始まりと突然の襲撃 後編

〜主人公said〜


「行ってらっしゃい!怪我するんじゃないわよ。あと、昼と夜には1回ずつ帰ってきなさい。」


歩き出して10分ほどした頃、やっと返事が返ってきた。パタパタというスリッパの音と共に。

全ての感覚器官が常人よりも高いスペックになっているため、結構離れていても声や音、映像などの情報が届く。

はあ…全く。

関心がないも程がある。

見送りの1つや2つさえ面倒なんだろうか?


返してきた声も、わざとらしいまでに暖かい。

でも、その言葉の端々に棘がある。

目に僕を映さず、張り付いた笑顔で表情を無理矢理変えている。

上辺だけの心配なのが目に見える。

無理にそんな顔や声をするくらいなら、いっそ見送りなんてしなければいいのに。


ま、どうせ…魔法の研究材料が傷付くのが嫌なだけだろう。


母上と呼ばなければならないのは、正直嫌だ。

あんな魔法や父上、兄、妹にしか興味のない者を親と呼べるか!

リビングでの食事以外は全て、小屋での生活を強いられ、敷地からは出れない軟禁生活。


逆らえば、また…

一瞬駆け巡ってきた過去の記憶に頭痛と吐き気を覚えた。


何とかバレないように順従さを繕い、明るく返す。

勿論、拡声(ラドピーカ)を使いながら。

拡声ラドピーカは術者周辺の空気を振動させ、遠くの相手に言葉を伝える魔法だ。言わば、拡声器の魔法版といったところか。

まあ…母上は所詮、人間(・・)だからな。

使わなきゃ聞こえる訳がないし。


「はい!わかり…」


キィイーーーーン!


だが、返そうとしたセリフは唐突に遮断された。

細く鋭い高音波の音。

それはこの家では非常事態を告げる笛の音。

位置的には…玄関か。

それにこの音…八千の笛だ。

…あの独特の音域と音波、忘れる訳がない。

試しに一度吹いてもらった、あの音を。


混乱と緊迫感がぐるぐると家中を埋め尽くす。


母上は音がなった瞬間、向かってしまった。

取り残された僕には、ただ指示が降るのを待つしかない。

それがこの伝統ある家の古臭い掟。

忠誠心と判断力の2つがなければ、動くことはおろか、存在することも許されない。

そんな残酷なようで一般的には美しいルールの下で僕は生きている。


1ミリたりとも(・・・・・・・)持たない忠誠心を誤魔化して、僕は盗聴(イヴドゥラ)を発動させる。

盗聴イヴドゥラは、術者が指定した者の声を聞くことが出来る魔法で、その名の通り会話の盗聴が出来るのだ。

まあ、対象者に関してある程度の情報を持っていないと、成功率がかなり低い、少々使い勝手が悪い魔法でもあるんだが。

流石に自分の耳では、限定的な盗聴は難しいからな。

普段から問題が起これば、こうやって盗聴イヴドゥラを発動させ、状況の把握に努めているが…

今日は…何だか、嫌な予感がする。


「慶!向日葵ひまわりを連れて騎士団本部に向かえ!回線が完全に絶たれた!」


父上の叫び声同然の指示が降る。

珍しく焦ってるみたいだ。


「し、しかし!それでは父上達が!」


慶兄か?かなり戸惑ってるな、これは。

声に揺れが目立つ。


「そんな事言ってる場合か!事態は一刻を争う。これは月夜見家当主としてのめいだ!さあ、早く行け!裏山の祠からなら抜けられる筈だ!向日葵と共に行け!早く!」


「わ、分かりました!向日葵、行くぞ!」


「い、いや!離して、兄様!父上、母上!」


ダダダダダッ…


父上からの強い叱責でやっと慶兄がこっちに来だしたみたいだ。

向日葵は…かなり抵抗しているみたいだ。

まあ、慶兄の事だから

首根っこ引っ捕まえてでも、父上の命に従う筈。


煩く足音を立て、動いている。

普段は穏やかで優しい歩みだというのに。

それ程までの事態なのだろう。


…しかし、祠とは一体何だろうか?


思い当たるものといったら、あの変な扉ぐらいしかないぞ?

いや、あの会話的には扉じゃなくて祠だったか。

しかし、抜け道があるなんて初耳なんだがな。


まあ、もしそれを知っていたら、僕が真っ先に使っていただろうさ。

こんな家からおさらば出来るなら、きっかけは何であれ利用する他ないからな。


そして、そのきっかけは今の緊急事態だ。

やっと、やっと…僕にも運が巡ってきた。

ああ、顔がにやけて仕方がないや。

兄上が来るまでに治しておかないといけないのに。


兄上と向日葵には恨みはないし、万が一にでも死ぬような事態になれば、僕に責任問題が生じてしまう。

そもそも死なれるのは悲しいものだ。

人が死んで悲しいのは…人として生きてる証拠でもあるのだから。

まだ、自分が人だと思っていたいというのもあるんだけど。


1分後、抵抗する向日葵を小脇に抱えた慶兄が飛び出してきた。


「兄様!離してください!まだ母上達が!」


動揺の色を隠しきれない向日葵はただそれだけを考えてるみたいだった。

でも、それはうちにとってはただの逃げ。甘えだ。

動揺や心配は判断力を鈍らせる。

もし何かと戦闘にでもなれば、勝てるものも勝てなくなる。

例えそれが6歳の幼子であっても、月夜見に生を受けたからには、冷静さをこと書くことは出来ないのだ。


「冷夏!裏山の祠まで案内してくれ!向日葵、今は父上達を信じて逃げるんだ!いいな?」


慶兄経由で受けた命令に僕は無言で頷く。

だが、向日葵はまだバタバタと暴れている。


「慶兄、こちらへ!あとな、向日葵…大人しくしてろ!生き残りたいならな。」


叫んだ後の低いトーンの声にビビったのか、向日葵はそれ以来喋らなくなった。

やっと、頭が冷えたのだろう。

状況判断がきちんとできている。


家からは断末魔の声と、金属がぶつかり合う音、そして詠唱の声が入り乱れ、緊迫した空気が外へと漏れだしていた。



裏山の祠、いや扉か…

一体何なんだ?

そう言えば…管理を任せてた癖に、『祠には絶対に触れるな、半径500m以内には近づくな』…とかよく言ってたな…

まあ…今となってはその命令など守ってる場合ではないな。

というか、命令されたし…行けって。


しかし、祠の場所は分かるが、言ったところで抜け道の類は見当たらない筈…

何故父上は祠へ向かうよう命令したんだ?

結界が突破された時点でこの裏山も後に侵入される事は明白だ。

それに、あの結界は魔法に関しては世界トップクラスの母上が張ったもの。

…それを破るほどの刺客とは。

一体何者だ?

まあ、只者では無いだろうな…うん。

僕でさえ、傷1つ付くか付かないかぐらいだ。

そんな奴が目の前に現れたら……

はあ…今はウダウダと考えてられなさそうだ。

兎に角、今は慶兄と向日葵を案内する事だけを考えよう。


様々な考えがグルグルと頭を巡る中、僕は慶兄達の前を先導して走る。

足音を消し、素早く地をかける。

湿った空気が木漏れ日さえも、重くする。


ポニーテールに結われた長い金髪。

揺れ動くたびに光り輝き、数束のオレンジ色の髪はその髪をより印象付ける。

それは見たものを惹きつけてやまない魅惑のテール

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