第3話 入学式とクラスメイト 後編
お久しぶりです。
ーーー初袮と玲音の会話後、花道を歩く途中にて。
『葵…新入生代表挨拶って葵がするんだよな?』
ふと気になっていた事を指輪に魔力を流して念話で葵に聞いてみた。
念話だとマトモに喋れるんだがな…
『…あのね、冷夏。その件は、数日前に念話で伝えたわよ。今回の入試で首席だったのは冷夏だから、冷夏が代表挨拶をやるのよ、って。私は数点差で次席、初袮と玲音が同列三席。学園側から内密にするようにって言われてたから、仕方なく念話で伝える事になったの。それに、ね…施設にいた時と数日前で2回も言った筈なのだけど…ちゃんと聞いていなかったのかしら?』
…どうやら、相当お怒りのようだ。
まあ、俺が全面的に悪いからな…
いや…しかし…とりあえず謝罪か。
『…それは、悪かった。えっと…あの…』
『何?…まさか、私が代表挨拶やると思ってて、原稿用意してなかったの?』
…相変わらず、察しのいい奴だ。
『その、まさかだ。はてさて…どうしたものかな。……言うべき要点と全体の流れを教えてくれ。アドリブで何とかするから。』
というか、それしかないだろう…この段階だと。
『はあ……そういうと思ったわよ。…とりあえず、今から言う事…一字一句漏らさずにしっかりと聞くのよ。まずはーー』
そう言って、葵による短時間の講義が始まった。それが終わる頃には、新入生全員の入場も終わっており、長い来賓紹介も後半に入っていた。
…何とか間に合いそうだな。
『ーーって感じかしらね。まあ、こう言っては何だけど…冷夏の好きにするのが一番いいと思うの。なんだかんだ言って、冷夏は冷夏だもの。失礼のない程度なら、自由にしていいんじゃないかしら。』
『…まあ、それもそうだな。……葵、いつもありがとう。』
『いえいえ。まぁ、ナビゲーションは任せなさい!しっかり誘導するから♪』
どこか機嫌良さげな声が返ってきた。
そして、少ししてから念話を切った。
他に連絡事項がないかと思っての行動だが…無いなら無いで、原稿を少しは考えておくか。
「これからーーー」
新入生が全員入場し終わった頃、厳粛な雰囲気の中、入学式が始まった。
「ーー次は新入生代表挨拶です。新入生代表 小等部第1学年Sクラス 玖珂冷夏、壇上へ。」
しばらくして、代表挨拶の時間になった。
ちなみに記憶が戻りきっていない俺の苗字は偽名で、多分凪や琥珀、お爺ちゃん辺りのメンバーで考え出されたものだと思う。
というか、偽名の苗字今知ったんだが…
『冷夏、返事!』
「…はい。」
司会の声に従い、壇上へと向かった。
…葵、ありがとう。
危うく返事をし忘れるところだった。
考え事しながらじゃ流石に不味いな。
…おっと、そうこうしているうちに壇上前か。
『そこで立ち止まって、来賓席に礼。次に反対側の教職員らの席に礼。階段に向き直って、静かに上る。ステージに上がったら、そこで校章へ礼。堂々と胸張ってマイク置いてる机まで歩く。あ、一礼するスペースは空けておいてね。』
「…姿勢、…礼。」
『1、2、3…はい、一歩前に出て。マイクとの間は拳一個分。やりにくいなら、角度・高さ調整。…準備出来たら、真っ直ぐ前を向いて、代表挨拶スタート。』
「桜が咲き誇り、春の訪れを感じる中、今日この日をもって、我々はマギジェリカの一員になりました。魔法を学ぶ上でマギジェリカほど恵まれた環境はないでしょう。それ故に競争率も高く、無事入学出来た事に安心する方もいるでしょう。ですが、我々はまだスタートラインに立っただけに過ぎません。ここで気を引き締め、より一層精進していかなくてはなりません。また、魔法を志す者として、まだまだ未熟な我々は、これから先様々な方のご指導を頂くことになるでしょう。その際は、此処におられる先輩方・先生方に遠慮なく頼らせて頂きます。これから先の学生生活で、今しか出来ない事を精一杯楽しみ、誇り高きマギジェリカの一学徒として胸を張れるよう、頑張っていきますので、これからよろしくお願い致します。
マギジェリカに、誉れあれ!我々の未来に光あれ!幸あれ!
星魔歴95年4月7日 新入生代表 小等部第1学年Sクラス 玖珂 冷夏。」
「………はッ……姿勢、…礼!」
司会の声に従った後、顔を上げたところ…
シンと静まり返っていた会場内に盛大なる拍手が溢れ出した。
…ふぅ。どうやら、成功したようだ。生徒会長や学園長の挨拶の内容を踏まえた上での挨拶だったんだが…問題無いみたいだな。
「…ありがとうございました。」
この司会の声が出番終了の合図らしく、行きの手順の巻き戻し版で席に戻った。
はぁ……何か、変に緊張したな。
何というか、全員の視線が集中してきて怖いというか痛いというか…何とも言えない気持ちになる。
あ、そうだ。葵に礼言っとかないとだな。
『…葵、終わったぞ。…ナビありがとな。…凄い助かった。お陰で恥かかずに済んだからな。やっぱり、俺には葵がいないとダメみたいだ。…これからも頼りにしてるから。』
『…ちょ、…な、…んんっ、…はぁ。全く、いきなりデレないでよ…!心臓に悪いったらありゃしないわよ。』
デレ…?
…なんか凄い焦ってたな。珍しい事もあるものだ。あの葵がよく分からんが、焦ってる。
てか、本当によく分からん。
『…デレ?とやらは分からんが、すまなかった。』
『はぁ……もう、いいわよ。で、まあ…とりあえず、お疲れ様。立派だったわ。何というか、冷夏がしっかりし過ぎてて、大人顔負け感凄いわね。途中までナビされてたなんて、バレっこ無いぐらい、マトモな挨拶よ。オリジナル感も溢れてたしね。身内贔屓抜きで満点あげたい気分よ。』
『そうか…!何か、そんなに褒められたら、顔がにやけそうだ…真顔にするのが、大変だな。えっと…その…ありがとう!……じゃ、また後でな。』
『ええ、また後で。』
「ーーー入学式を終わります。」
しばらくして、司会の声で入学式が終わった。
来賓の退場後、新入生も退場が始まった。
入場時とは違う音楽と魔法による演出、在校生・先生方の拍手と共に花道を抜けていく。
ーーー学園生活の正式始動だ!
…そういえば、なんであんなにスラスラと代表挨拶出来たんだ?
『ああ、言い忘れていたけど、マイクにそういう音声編集機能がついてるのよ。まあ、魔具の一種みたいなものかしらね。科学技術との併用になっているから、完全な魔具では無いのだけれど。』
『へぇ…そんな便利な機能がな。初耳だ。…うーん、でもそういうのは、今まで読んできた書物には載ってなかったが…』
『うちの研究所とは、派閥というか分野が違うのよ。だからその関係で、施設から借用許可の出た書物も、偏りが出てしまうのよ。知らなくても無理無いわ。』
『…じゃあ、なんで葵はその事を知ってるんだ?』
『学園長から施設に代表挨拶についての話が来た時、冷夏の代わりに注意点やら流れやらを聞くついでに、冷夏の辿々しい口調を考慮してくれ、って頼んだのよ。その返答が、さっきまでの説明よ。だから、そう疑わなくても大丈夫。』
『別に…疑っては無いんだが…その、いじわるで教えてくれなかったのか、と思って…』
何かいってるうちに段々恥ずかしくなってきて、みるみるうちに言葉尻が小さくなっていく。
『…ああ、いじけてたのね。…というか疎外感でふてくされちゃったのかしら。』
『あぅ…別に俺は、いじけてないし。』
『はいはい…分かってる、分かってるから。今度からちゃんと教えるわ。だから、冷夏ももっと周りに関心もって、その上でちゃんと話を聞いてよ?』
『…分かった。…頑張るから、葵も何か頑張って。』
『ええ、勿論。約束ね!』
『ああ!』
ーーー結局、念話でも相変わらずの2人だったとさ。
受験の本格化に伴い、本話をもって一時休載に入らせていただきます。
将来が掛かっているので、合間で更新というのも出来ないと思います。
遅くとも来年の3月、4月辺りには、更新再開予定です。
私情にて御迷惑をお掛けしますが、ご理解の程よろしくお願いします。




