第2話 入学式とクラスメイト 前編
説明不足な部分があったので、後半部分のセリフや文章を追加・変更しました。
お手数ですが、読み直していただけると助かります。
ピピピッ…
鳥の囀りと共に目を覚まし、まだぼんやりとした頭を数回振り、ベッドから立ち上がった。
そして、カーテンを開け、窓を開く。
こうして日光を浴び、1日をスタートさせるのが、目覚めて以来の習慣だ。
元々、自己急速回復があるせいか、体内時計が睡眠時に自動的に正常化する為、目覚まし時計が無くても、スッと起きることが出来る。
ただ、前に本で読んだ知識に起床してすぐに朝日を浴びると、体内時計が整い、目も覚めると聞いた為、自己急速回復の効果をより高められ無いかと試しているうちに、習慣化しただけだ。
健康にも良いし、心なしか清々しい気分になれるからな。
続けて損は無いだろう。
凝り固まった身体をグッと伸ばし、部屋を後にした。
そして、トイレや洗顔、整髪を済ませ、再び部屋に戻る。
「今日から、学校か…」
ふと目に入ったカレンダーで今日がどんな日かを改めて確認したところで、備え付けのクローゼットの中から、真新しい制服を取り出した。
小学部から高等学部までの制服は
・鉄紺のローブ
→フード、両袖、裾に1本の白ライン入り
・薄花色のシャツ
→ 白襟に紺のライン入り
・花葉色のネクタイ
→大剣に2本の白ライン
・銀鼠のショートパンツ
→グレンチェック柄で、裾が折られている
・白のハイソックス
→左右に紺のエンブレム入り
・焦茶色のショートブーツ
→防水・軽い・頑丈で、同色の紐
といった感じになっており、女子の場合はスカートになる以外、男女共同じ制服だ。
ローブには個々人の能力に合わせ、足りない部分を補うような機能や、身長体重に合わせ伸縮する機能など、様々な機能がついているが、各自で独自に機能を追加または削除出来るようにもなっている。
ローブに限らず、制服全てに機能を付与可能な状態になっている為、そういう点においてかなり個性が出るだろう。
俺の場合は、様々な機能を思いつき次第、その場で追加または削除する為、あまりこだわっていないが。
まあ…そんな機能が付いているからこそ、制服代がやたらと高いが、デザイン性や学園自体のネームバリューがある為か、今のところ、生徒や保護者からの不満の声は一切無いそうだ。
この辺りの話も葵達から聞いたり、せめて1回は読んでおけと押し付けられたパンフレットを見たことで知ったことだ。
制服の機能が知れたのはいいことだが…
パンフ読みが面倒な事に変わりはないな。
…と、そろそろ出発しないとだな。
あまり待たせると、要らぬ心配をかけてしまうし。
制鞄は自由でいいらしいが、亜空間収納・容量無限大で十分だろう。
魔法制限・範囲限定がかかっている中での魔法使用など、造作も無い事だしな。
…いや、駄目か。
『変に目を付けられたら、嫌でしょ?』
『いや、それ絶対、先生から小言言われて、呼び出し喰らうからな?』
『初袮の言う通りだ。先生から凪さんに伝わったら、帰省早々説教されてしまうな。』
と昨日の夕食時に散々言われたんだったな。
…仕方ない。
何故か、郵送された荷物の中に入ってた鞄を使うか。
大方、琥珀辺りがこんな事もあろうかと、世話を焼いたんだろうし。
えっと…靴履いた、鞄持った、ハンカチ・ティッシュ入れた、舞斬華腰に挿した、装飾品付けた、スマホ入れた、鍵持った…
…よし、準備完了!
「…いって、きます。」
そう呟き、ドアを開け、廊下に出てから鍵を閉めた。
再度施錠されてるか確認してから、待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所は、一階のエントランスだ。
ちなみにそこへは、エレベーター1本で行ける。
それは大層便利で快適なんだろうが、角部屋の俺にとっては、エレベーター乗り場に行くのに、時間を取られてしまう為、少々不便なものだったりする。
そんなことを考えながら、やって来たエレベーターに乗り込み、一階に着くまでの時間をボーっと過ごした。
この浮遊感は入寮時からずっと慣れる事がないが。
一階に到着したエレベーターから降りると、俺が一番最後だったのか、先に来ていた3人が話しているのが見えた。
3人とも目立つ容姿で、尚且つ仲良さげに話しているのだ。
それは人の目を良くも悪くも引く為、何だか変に目立っていた。
…そこに今から飛び込むのか。
…いやだな。というより、面倒だ。
「あ、冷夏だ。」
「ん?…おお、ほんまや。何や、今着いたんかいな。」
「冷夏は角部屋よ?私達より少し遅くなっても可笑しくないでしょ?」
「ああ…確かに角部屋からエレベーターホールまで、かなり遠かったからな。」
「いや、別に遅れたん責めとるんやないで?ただ、着いたなら一言ぐらい声掛けてくれてもええんちゃうかな、て思てな。」
…どうやら、少々遅れてしまったようだ。
「…遅れて、すまない。…頑張って、早くきた、つもりだったんだが…」
「大丈夫やさかい、そんな気にせんでええわ。…ただ、ちょっと心配だっただけやし、な。」
「ああ、そうだぞ。初袮なんて、ちょっとどころじゃないほど、そわそわしてたしな。」
「私は何となく理由察してたから、そこまでじゃなかったんだけど。あと10分遅かったら、初袮が部屋に乗り込むなんて、言い出して…それを止める方が大変だったかしらね。」
「…!そうか…それは、すまなかった。…今度から、もっと、早く…起きる。それと…心配、してくれて…ありがとう。特に、初袮、には…悪いこと、しちゃった、な。」
「や、やから、そんな気にせんでええゆうとるのに…
まあ、何も問題無いんやったら、そろそろ行こか。」
「ああ。…というか、初袮は本当に照れ屋さんだな。
それに世話焼きで、心配性だ。」
「まさに、オカン。」
「あと、ツンデレかしらね。」
「な、な、何やて!?」
こうして、賑やかで穏やかな会話をしながら、エントランスを後にした。
そして寮を出て、校舎までの並木道に足を踏み入れた瞬間、桜の花吹雪が舞った。
偶然、強めの春風が吹いただけだろう。
だが、それは不思議と、学園での生活に心躍らせる新入生を出迎えているかのように思えた。
人の流れに逆らわず後を追って行くと、最終手続き受付のある校舎前に到着した。
…校舎自体の大きさと人の多さに驚くものの、正門や寮、食堂といった学内設備・施設を見てきた為か、そこまで動揺しなかった。
…ま、見た目城かと思ったけどさ、ほら、アレだよ…気にしたら負けってヤツ。
だから、頑張ってスルーしてる。
すごくツッコミ入れたい要素満載だけど、入学早々問題なんて起こす気無いし。
一先ずここは…我慢かな。
ちなみに、最終手続き…といっても、殆どが重要書類の最終確認とそれへのサインといった作業。
あとは、クラス分けの紙と今日の予定表の配布ぐらい。
あ、一応ここで入学式で付ける花を渡してもらうんだったっけか。
正直、造花だし式自体に興味無さすぎて忘れてた。
うん、まあ…兎に角そんな手続きも終わり、クラス分けの紙で確認してから、クラスへ向かった。
俺達4人とも優秀だったみたいで、最強最高クラスのSクラス入りを果たしていた。
いや、別にこれは自画自賛とかそういう訳ではない。
ただ、本当に優秀でないと入れないクラスらしいからこそ言っただけだ。
それにS入りしただけで、注目の的になるらしいからな。
ま、とりあえず4人でお互いに、これからもよろしく、なんて会話をしていると指定されていた教室に着いた。
ガラガラガラ…
スライド式の扉を開け、先頭を切って教室へと足を踏み入れた。
シーン…
…おい、何故そこで静まる。
「冷夏、後ろがつっかえてるわ。とりあえず、進んでもらっていいかしら?」
「…ああ、すまない。」
…色々と言いたい事はあるが、それを一旦スルーし、数歩足を進め、道を開いた。
そしてそれに続いて、葵、初袮、玲音の順で中に入ってきた。
「うわぁ…これはまた、広い教室やなぁ。1クラス30、40人ぐらいやろ?幾ら何でも、規模が人数におうて無さすぎやろ。」
「確かにかなり広いし、まあ、狭いよりかは良いんじゃないか?」
「まあ、それもそうやな。ほなそう思うときましょか。」
初袮と玲音は入って早々教室の広さに驚き、お馴染みの掛け合いをしていた。
「…葵、この…空気、何?」
「気にしたら負けって、言いたいところなんだけど…大方見覚えのない人とか、逆に有名人や噂のある人に対する空気よね、これ。無視して大丈夫だと思うけど、冷夏はどうしたい?」
「…別に。どうでも、いい。ただ、何か…こっちが、邪魔…した、みたいな…感じが、嫌な…だけ。」
「そうねぇ。邪魔する以前に勝手に静まっただけだし、冷夏が気に病むことは無いと思うわよ。…さ、そろそろ席に着きましょうか。」
「…うん。」
「せやな。」
「ああ。」
各々返事をし、適当な席に着いた。
席は自由なのか、黒板に何も支持等が書かれていない為、中腹より少し後ろの席に4人固まって座った。
教室内は『大学』の大講義室のような作りになっていて、小学生が学ぶ場という感じがまるでしなかった。
俺達が座った事で、場が落ち着いたのか、少しして教室内に喧騒が戻ってきた。
キーンコーンカーンコーン……
暫くして、教室内にスピーカーからチャイムの音が響き渡った。
それと同時に皆席へと着いていく。
ガラガラガラ…
皆が座り終わったぐらいで、教室の扉が開かれた。
そこから足音を殆ど立てず、出席簿や手帳らしきものを手に教壇に立った。
見知らぬ美青年に教室中の女子が色めき立つ。
…俺達とってはよくよく知っている男であったが。
彼の名は柊 朔夜。
少しクセ毛な栗皮色の髪に、右が狐色・左が鮮緑の細めの猫目。
顔立ちは、優雅で上品だが、目を細めると狐っぽい。
少し焼けた肌に、薄い唇、そしてスラリとしたモデル体型で高身長。
琥珀の兄で、現在26歳。ちなみに、琥珀は23歳。
そして、陽だまりの家の専属教師であり、現役の研究員のはずだが…
何故、マギジェリカにいるのだろうか?
「今日からこのクラスを受け持つ事になった…」
そう言いながら、白チョークで名前を書いていく。
そして書き終わると、こちらへ向き直った。
「…柊 朔夜だ。担当教科は魔法理論と国語。これから2年間、よろしくな。ちなみに、クラスは基本持ち上がりだ。担任も変わる事はない。成績によっては、卒業まで共にいる事になるだろう。何も無理に仲良くなれ、とは言わないさ。ただ、今しかないこの時間を有意義に過ごしてくれたらなと思っている。何か困った事があれば何でも言ってくれ、相談に乗るから。…少々長くはなったが、これで担任からの挨拶は終わりだ。…何か、質問のある生徒はいるか。」
「はい!」
「夕凪さん、どうぞ。」
「はい、兄妹や彼女はいますか?」
「弟が1人いるが、彼女はいない。」
「はい!」
「笹川くん、どうぞ。」
「はい、教師になろうと思ったきっかけは何ですか?」
「きっかけ…か。…元々子供が好きで、よく弟の勉強をみてたんだが、その弟に教師に向いてるんじゃないか、と言われてなぁ。それがきっかけだったな。」
…とこんな調子で朔夜先生への質問が続いた。
どうやら、あの最初の挨拶で生徒からの好感度を上げたみたいだ。
まあ、顔が良いというのもあるんだろうが、子供好きと聞いた瞬間、女子からの質問が急激に増えたからな。
この年頃の女はマセていると聞いたが、この状況で納得した。
…というか、小学生で彼女いるかどうかを聞くんだな。
今も昔も今時の学生は進んでる、と言ったところだろうな。
「…すまないが、そろそろ時間だ。今からの時間は君達の自己紹介にさせてもらいたい。では、出席番号の早い生徒から順に宜しく。」
「えっと、俺からか。俺の名前はーー」
…そんなこんなで自己紹介も終わり、大量の配布物が配られたところでHRは終了した。
「今から講堂に移動する。貴重品を身に付けて、正装で廊下に指定した順で一列に並んでくれ。並び終わり次第、二列編成に変える。移動時間を考慮し、余裕を持った行動にする。迅速な整列を。」
『はい!』
真新しい鞄に大量のプリントや教科書を詰め込み、荷造りをしながら、俺もそう返事をした。
…そういえば、何で講堂に移動するんだったっけか。
「葵、少し…いいか?」
椅子の背もたれに掛けていた上着を手に、葵の元へと向かいながら、そう発した。
「はぁ…この後は入学式よ。それと…」
シュル……キュッ
「ネクタイ。緩んでたから直したわよ。」
「あ…悪、い。それ、と…ありが、とう。…葵は、優しい…な。」
「…///ッ。別にこれぐらい、どうってこと無いわよ。まだ上手く出来ないなら、またやってあげるわ。だから…やり方、ちゃんとマスターしなさいよ。」
葵も椅子の背もたれから上着を取りながら、そう返してきた。
「うん!」
そして、2人して上着を着込み
「行きましょ。」
「うん。」
廊下に出た。
貴重品は2人とも常に身につけている為、脱いでいた上着を着るだけで、正装に戻れる。
〜No said〜
2人の後で廊下に出た初袮と玲音は、二列編成で偶然にも隣同士になっていた。
お互いに、講堂までの道のりと所要時間を考えた結果、2人で小声で話し始めた。
移動時間が長過ぎるのだ。
小声でお喋りなら、暇つぶしには丁度良い、と同じ結論を出したからこその行動である。
そして、2人に便乗して、他のクラスメイト達も話し出した。
朔夜は本来注意する方の人間だが、生徒と同じ気持ちだったのか、黙認している。
見るものが見れば、激怒しそうな光景だが、最優秀と謳われるSクラス相手に詰め寄れる猛者はいまい。
…その理由はのちに明かすとして、2人の会話を聞いてみようか。
「…何やろう、あの2人。熟年夫婦にしか見えへんのやけど…」
「ああ…俺もそう見えたから、安心しろ。」
「あれで付きおうて無いんやろ?冷夏の方は色々とアレやから、それ以前の問題かも知れへんがな。」
「確かにな。あの無自覚タラシっぷりはそう真似出来るものではないだろう。」
「うん?いや、まあ…そうなんやけど。…玲音も割と天然気味やからなぁ。どうしても、お前がいうな、って感じになってまうなぁ。」
「…ん?何か、可笑しかったか?」
「ん、いや、別に大丈夫やで。ま、とりあえず…話変えるで。これからの入学式のことなんやけど、今年の新入生代表挨拶、誰がすると思う?」
「うーん…そうだな。とりあえず、俺達みたいな施設出身者かお偉いさんの子供あたりが、妥当じゃないか?」
「せやなぁ、そうなると、俺達以外の施設出身者の知り合い…か。俺が知りうる限りなら、冷夏と葵だけやな。」
「俺も同意見だ。まあ、これは…式が始まれば分かることだろう。そう、気にするものではないさ。」
「ま、普通はそうやろうな。でもな、取り入りたい奴らにとっては、将来の有望株や。それに上級生にとって、優秀過ぎる下級生に追い抜かれる危機感があるやろう。…変なんに目つけられんかったらええんやけど。」
「仮に、あの2人の内のどちらかがそうなった場合は、俺達が動けばいい。ほら、よく言うだろう?困った時はお互い様って。」
「せやな。」
「おっと、そうこうしてる間に着いてもうたで。」
どうやら、講堂内の扉の前に着いたらしい。
新入生は、この扉の先のアーチをくぐり、赤絨毯を踏みしめながら、用意された席へと座る。
そんな手順で入場後、入学式が開催される。
上級生は既に入場済みで、今日は全員、式が終わり次第解散という指示が出されている。
「こっから先は…」
初袮は少し首を傾け、玲音の顔を覗き込み、
「ちゃんとしよか。」
玲音と目を合わせながら、そう言葉にした。
「ああ。」
まるで何かを示し合わせるように。
そして、彼らの入学式が始まる。




