第1話 餞別と優しさ
この話に少し付け足しという形で更新しました。
この話の前の流れも文を少し付け足したりして、矛盾点を減らしています。
時間がございましたら、読み返していただけると、より話が繋がりやすいと思います。
至らぬ点は多い作者ですが、これからもよろしくお願いします。
*キリが悪いので、この話に更に付け足しという形で更新しました。
『春』
それは冬の終わりであり、新年度の始まりでもある。
そして、それは出会いの季節だ。
暖かで穏やかな陽気、咲き誇る美しき花々。
『花見』をするにはうってつけの日だ。
まあ…一昔前なら、『花粉症』患者にはまるで楽しめない季節だろうが。
ちなみに、『花粉症』は、約100年前のあの日以来、誰も発症しなくなった。
ある研究所の見解では、魔力と接触した事によって、何らかの反応が起こり、花粉以外の方法で種を増やすようになった結果、『花粉症』が無くなった、というのがあるが…
真相は未だに謎のままだ。
…科学では説明のつかない事象を引き起こせる力、それが魔力だ。
その正体すら判明していない中で、それに関連した現象を説明するなど、まあ…まず不可能だ。
だからこそ、謎のままというのが今のところ一番納得される答えとされる。
まあ、とりあえず『花粉症』の事はこれぐらいにして…
まあ…そんなこんなで、あの日から約4年の月日が経った訳だが。
「冷夏、そろそろ行くわよ。」
…葵か。
「…ああ、分かって、いる。葵こそ、忘れ物は、無いか?…寮生活、になるんだ。そうそう、戻って、来れないぞ。」
葵はああ見えて、案外うっかり屋さんだからな。
忘れ物の1つや2つ、あったところで何ら可笑しいことはない。
「…何よ、その生暖かい視線は。もう、そんなに心配しなくても、ちゃんと全部持って…!…って、あ!」
どうやら、持っていく旅行鞄に気を取られて、ポッケに入れ忘れたみたいだな。
ポッケに手を突っ込んだまま、固まってるのがその証拠。
「ほら、な?やっぱ、り…あった、じゃない、か。…で、何を忘れ、てたんだ?」
「…スマホと充電器。差しっぱなしのままだった。」
ああ、ありがちなパターンだな。
「そうか…気づけて、良かった、な。そうと、分かれば…ほら、早く。急がないと、入学式…遅れる、から。」
「はいはいー、じゃ、さっさと取ってくるから。すぐ戻るからちゃんと待っててよ?」
「ああ。」
そう微笑みながら頷くと、満足げに部屋へと走っていった。
グダグダと長かっただろうが、これからが本題だ。
ーー本日4月7日は五星島立P.A.B内魔法教育学園、通称【マギジェリカ】の入学式だ。
そして、そこに俺と葵を含めたひだまりの家のメンバー計6名が入学する。
【マギジェリカ】は初等部・中等部・高等部・大学部・大学院に分かれており、其々に2年ずつ通う。
12歳から、性別、種族に関係なく、誰でも入学可能。
大学部・大学院は希望制で、進級試験で合格した者だけが進学を許されている。
初等部で入学試験を受け、合格すれば高等部まではエスカレーター式で進級出来る。
但し、年3回の学期末試験で、きちんとした点数を取らなければ留年、場合によっては退学となる。
また、【マギジェリカ】は全寮制で、夏と冬の長期休暇以外、余程のことがない限り外出不可。
まあ、それも近年の平和さから外出届を出せば出られるようになってきたらしい。
きちんとした理由があり、門限を厳守すれば割と自由に、といった具合には。
…全て、葵や他のメンバーからの伝聞だ。
『お前が一番心配なんだ』とあれこれ学園について力説してくれた。
…親が巣立つ子を見守るかのような視線とともに。
今でも思い出すだけで、物申したくて堪らなくなるが、それでも教えてくれたのはありがたい。
正直言って、迷ったら探知を学園全体にかければ良いや、なんて思って、パンフレットもロクに見てなかったからな。
ま、今となっては学園の上級生並みの知識量にはなったし、まず迷子にならないだろう。
それに学園全体には許可無く魔法を使う事が出来ない…魔法制限・範囲限定という魔法がかかっており、無断使用は処罰の対象らしいからな。
入学早々騒ぎを起こすのは御免だ。
「おまたせ、冷夏!あ、そういえば、さっき凪さんと琥珀さんが呼んでたわよ。」
「…もう、出発何だが、な。で、2人は…今、何処に?」
「先に行って、正門で待ってるって言ってたわね、確か。」
「…まあ、正門から、出るし…支障は、無いか…」
「そうそう、次いでよ次いで。だから、早く行きましょう。」
「…待たせた、本人、に…言われて、もな。」
「…それもそうね。」
そんな風に話しながら玄関を出ると、正門に沢山の人が見えた。
驚きつつも、固まってタイムロスする訳にもいかない為、スタスタを歩いていく。
「やあやあ、お2人さん。随分と遅い到着で。先に来た2人が待ちくたびれてるよ。」
そう話しかけてきたのは、腹黒こと風鈴寺 凪。今は凪さんと呼んでいるが…ま、腹黒は健在だからな。決して間違いではないだろう。
「遅れた、のは…葵が、忘れ物、してた、からだ。…でも、待たせて、悪かっ、たな。」
「2人とも、本当にごめんなさい!今度から気をつけるわ!」
2人で謝り、それに2人は『ああ』や『気にしてへんで』と返してきた。
「よろしい。まあ、この話はここまでにして。…冷夏くん、葵ちゃん。君たち2人に渡すものがあるんだよ…琥珀。」
「はいよ。これが冷夏くんの、こっちは葵ちゃんの。」
そう言って、琥珀さんは俺と葵、其々にそれらを手渡してきた。
俺にはネックレス、ブローチ、指輪、舞斬華。
葵にはブレスレット、ブローチ、指輪、眼帯。
詳しく言うとこんな感じのラインナップだ。
「順番に説明していくから、よく聞いておいてくれよ。
まず、指輪はペアリングだ。
お互いの居場所が分かる上に、無制限・無条件に念話という魔法が使える代物らしい。
次に、ブローチは身元証明品代わりだ。
ひだまりの家預かり兼種族不明、そして学園の生徒兼成績優秀者である事の証明になる。これがあれば、検問も簡単なもので済む上に、学内・学外ともに色々な特典があるそうだ。
また、ネックレスやブレスレットはある種族の廃村から発見された魔法具だ。
予備として魔力を貯めておけるし、身体能力の向上や映像記録、録音、そして一度だけなら持ち主を生き返らせる事が出来るそうだ。
他の機能は、持ち主によって発現する・しないがあり、持ち主に合わせて自動的に最適化されるらしい。
で、さらに冷夏の舞斬華は伸縮機能と自動修復機能が追加付与されたらしい。
葵の眼帯は眼帯をつけた方の目でも、無しの頃と同じように見える機能、自動修復機能が追加されたいるそうだ。
ふう…まあ長い説明にはなったが、つまりこれらは、ひだまりの家のメンバー全員からの入学祝いだ。餞別に持っていけよ。ということだ。」
「…ああ。ありがとう…ござい、ます!」
「はい、ありがとうございます!」
2人して声を揃え、そう礼を述べた。
それを見て凪さんと琥珀さんは満足げに頷き、凪さんが再び口を開いた。
「じゃあ、改めて…」
『入学おめでとう!いってらっしゃい!4人の健闘を祈ってます!』
凪さんや琥珀さん、お爺ちゃん、俺らより年下のメンバー、研究所の職員達…とひだまりの家のメンバー総出でそう言ってくれた。
それに驚きつつも、こちらも顔を見合わせ、
『はい!いってきます!其方も御身体に気をつけてください!』
と声を揃えて返した。
ヒヒーンッ
「マギジェリカ行き直通馬車、只今到着致しました!」
返し終わって直ぐに馬の鳴き声が聞こえてきた。どうやら、馬車が到着したみたいだ。
「おっと、もうそんな時間かい。4人共、急いで。学園へ出発だ。」
凪さんに急かされ、5人共再び荷物を手に取ると
『はい!』
そう返して、各々小走りで正門を抜けた。
抜けて右を見ると、少し先に大きく立派な馬車があった。
馬車の横では御者が
「お急ぎくださーい!間も無く出発です!」
と叫んでいた。
それを聞くや否や、皆走るスピードを上げ、荷物と共に急いで乗り込んだ。
その間、ひだまりの家のメンバーからの別れの言葉が引っ切り無しに聞こえた。
「気をつけてねー!」「周りの奴らにギャフンと言わせてやれ!」
「頑張ってね!」
「健闘を祈っとるぞー!」
「怪我や病気に気をつけろよ!」
一部を抜粋すると、こんなものか。
流石にこれらに応えている余裕はなく、馬車に乗り込んでから、窓を開け、手を振った。
…各々、様々な思いをのせて。
「発車します。」
御者の声と共に馬車が動き出した。
手を振ると、それに気づいて、皆んなも振り返してくれた。
それはお互いの姿が見えなくなるまで続いた。
「…皆んな、優しいわね。それに凄く有難い。」
暫くして、葵がそう零した。
「…そう、だな。」
それにコクリと頷きながらそう返した。
…お互い、震えた声と流れる雫には触れないで。
「使うか?」
そんなセンチメンタルな雰囲気の中。
そう言ってハンカチを差し出してきたのは、勝色の少し畝った髪に、朱華の瞳のクール系イケメン少年。
名を星名 玲音。
俺や葵と同じひだまりの家出身者だ。
「ちょ、待ちぃ!今はそっとしておく場面や。邪魔したらあかんわ。」
それを止め、そう言って玲音を窘めたのは、玄のサラサラ髪に、梅重の瞳の『関西弁』イケメン。
名を日埜 初袮。
此方も同じくひだまりの家出身者だ。
「…そうなのか?でも涙が出てるなら、拭くものがいるだろう?」
「それでも、や!」
「…分かった。…2人とも、邪魔して悪かったな。」
初袮の言葉にコクリと頷くと、ペコリとこちらに向けて頭を下げてきた。
「いえ、大丈夫よ。そう、気にしないで。」
「問題、ない。代わり、に…面白い、掛け合い…見れたか、ら。」
それに葵と俺は応え、大して揉めることも無く、事は収まった。
「いやいやいや、おもろいって何!?」
…訳もなく、初袮にツッコまれた。
「…何か、『漫才』?みたいな、感じ…した、から。寂し、いの、何か…平気、になった。…だから、その…ありが、とう。」
「…そうかいな。まあ、お気に召したんなら、それでええわ。」
「ああ。何だかんだ言って、初袮も俺もしんみりしてたからな。正直、いつものように出来て、ホッとしてるんだ。」
「そう、か。…それなら、良かった。」
「あら、という事は2人に気を遣わせちゃったみたいね。でも…ありがとう、初袮。」
「初袮、いつも色々とありがとう。俺が頼りないばかりに、迷惑かけてばかりだな。」
「俺から、も。改めて…ありがとう、初袮。」
其々、普段から色々と気を回してくれる初袮に思うところがあったのか、口々に礼を言っていく。
「な、な、そ、そんな…別にそんなつもりや無いねんけど…俺も普段、皆んなに色々と世話になっとるしな。でも、ありがとう。何かそう言われると嬉しいもんやな。」
それに対し、照れつつも満面の笑みでそうまとめた初袮は…
「初袮、首まで真っ赤だぞ。大丈夫か?」
「そ、そんなん、今言わんでもええやんか…玲音のばか。」
「わ、悪い!こ、今度から気をつける!」
「もうええから、とりあえず座っときぃ…揺れたら危ないやろ?」
「ああ!」
…ツンデレな気遣い屋としての一面を垣間見せていた。
ん?ツンデレちゃうわっ!って?
いや、まあ、どちらにしろ…照れ屋ではあるだろう。
玲音の場合は、天然さを披露し、クール系な見た目とのギャップを感じさせた。
ん?俺は天然だったのか?確かに人工物では無いが…よく分からんな。って?
いや、その発言が既に天然さんだと思うんだが?
まあ、そんなこんなでセンチメンタルな気分も吹き飛び、賑やかに学園到着まで過ごした。
暫くして、車内に向けて御者から声が掛かった。
「間もなく、終点マギジェリカに到着致します。お降りの際は、お忘れ物にご注意下さい。」
その声に従い、降りる準備を始めた。
準備といっても、精々旅行鞄や餞別品ぐらいのもので、そう大したものではない為、すぐに済んだが。
家具などは備え付けだが、重くてそう易々と持ち運べない荷物は、既に寮に送ってある。
ただし、この荷物は学園での最終手続きを済ませた翌日からでないと持ち込めない。
その最終手続きは入学式の日で、早めに入寮する生徒は最終手続きとは別の入寮手続きの後、自力で持ってきた私物だけで、入学までの日を待たなくてはならない。
俺たちもその早期入寮組の為、こうして態々旅行鞄を持って来ている。
それから数分後、馬車が緩やかに動きを止めた。
「マギジェリカに到着致しました。ご利用ありがとうございました。」
その言葉の後、静かに扉が開いた。
どうやら、御者が開けてくれたようだ。
「じゃ、行こう、か。」
「ええ。」
「せやな。」
「ああ。」
俺を先頭に葵、初袮、玲音の順に馬車から降りた。
そして降りた際に、御者に礼を述べ、他のものを待った。
葵が降りる時は俺が手を貸し、エスコートした。
全員が降りたのを確認すると、御者は『有り難きお言葉、感謝の念が尽きません。…本日はご利用いただき、誠にありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。』と述べ、恭しく一礼し、馬車に戻ると、元来た道を戻っていった。
そしてその姿は、心なしか軽やかだった。
馬車専用の停留所から少し歩くと、あっという間に学園の正門前に到着した。
そこで目にしたのは、大きく立派な門と沢山の少年少女達だった。
門自体は、光沢のある深縹で細かい装飾が至る所に刻まれており、かなり頑丈そうだ。
解析を門限定でかけたところ、門の素材はミスリルで、刻まれた装飾が魔法制限・範囲限定を発動させているようだ。
また、門の開閉は電力による全自動式が採用されており、探知で門番がいるのも確認した。
まあ、何らかの問題が発生しない限り、その活躍を見ることは無いだろうが。
そんな門を潜り抜けるのは、まだ何処か幼さが垣間見える子供達だ。
この時期に此処にいるという事は早期入寮組であろう。
大きな旅行鞄と初々しい態度がそれを物語っている。
「すごい、な…」
「ええ。想像以上だわ。」
「門、ほんまに大きいなぁ。」
「同級生、いっぱいだな。」
各々それらに反応を示し、思わず立ち止まって呆けてしまった。
「…でも。ここに、ずっと…いるの、は…迷惑、だろう。」
「そうね。…じゃあ、そろそろ行きましょうか。」
「せやな。」
「ああ。」
そんなこんなで俺達は門を通り、マギジェリカへと足を踏み入れた。
門を通って、少しした頃。
事前に送られていたという地図を片手に先頭を行く葵が、不意に声を上げた。
どうやら、寮とその前の受付会場を発見したらしい。
指で示されて初めて気づいたが、4、5個程の受付窓口に長蛇の列が出来ていた。
見たところ、1人あたりにかかる時間は少なく、回転効率は悪く無いはずだが…
いかんせん人数が多過ぎる。
これは、そう容易く捌ききれるものではない。
だから結果として、長蛇の列になってしまったのだろうな。
…気長に待つか。
…暫くして、俺達の番になった。
入寮手続きといっても、正確には確認と配布だ。
具体的には、本人確認から始まり、入寮の意思の最終確認、そして鍵やルールブック、制服の配布だ。
俺達の場合、本人確認は身分証明品代わりのブローチを見せるだけで終わり、意思確認も頷くだけ、配布物に関しては各々自分の分を受け取り、手続き完了となった。
他の人よりもかなり早く終わり、待ち時間以外は滞りなく、寮へと入っていった。
…ちなみに、寮が何処ぞの『超高級タワーマンション』のように大きく、豪華だった事に言葉を無くしたのは、仕方がない事だと思う。
そして、中に入ってからもその高級感溢れる内装や調度品などに気遅れしながら、『エレベーター』に乗り込んだ。
大体…初見で平然としていられる奴なんて、かなりの金持ちだけだろう。
他にも、豪華過ぎる料理や相部屋とは思えない広さの部屋、広大な敷地面積を誇る事などなど…上げればキリがないほど、様々な事に度肝を抜かれながら、時間は流れ、いよいよ入学式当日を迎える事になった。
関西弁キャラと天然炸裂キャラの登場です。
…関西弁、間違っていたらすいません。
どうか関西圏の方、イラつかずに読んでいただけると助かります。
天然炸裂キャラ、どうですかね。
ちゃんと天然感出てますか?
天然=少しずれた発言や行動をする人というイメージの元で書いているので、わざとらしさが出ているかもしれません。
個人的には2人ともお気に入りのキャラなんですが。
何かご指摘がございましたら、随時お伝え下さい。
よろしくお願いします!




