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第7話 懐かしき歌と運命の歯車

ヒロインの容姿を描写する場面に、入れ忘れた文があったので追加しました。

割と大事な部分だったのですが、うっかりしてました。

本当にすいませんでした。


適当な場所になだれ込むように座り込み、酸素を求める体は自然に呼吸へと移る。

不規則に吹く風は葉のない木々を揺らし、冬らしい冷たさが心地よさを感じさせる。


呼吸が落ち着くと同時に各器官から入ってくる情報を処理しながら立ち上がり、急な事態に備える。

鍛造フォージ青炎剣せいえんけんを創り出し、探知トラックで現在地の確認をしていく。

その時、風がピタリとやみ、さほど遠くない位置から声がした。

いや、正確には歌というべきか。

少し甘く、憂いを帯びたような・・・柔らかなソプラノだ。


森の空気も木々も風も全て、その声が届く範囲内だけ、その声にメロディをつけるように揺れ動き、香りを放ち、花や枝葉をつけていく。

まるでそれが当たり前のように。

声とメロディが合わさり、何とも言えない不思議な歌が鼓膜を震わす。



手が


『風が吹き 草木がそよぐ』


足が


『花々は歌い出し 鳥はさえずる』


身体が


『この楽園の果ての 深い森の中で』


五感の全てが


『あなたは独り 眠るの』


その歌を求めてる

嫌気すらなく、本能のままに


『遠き空にせた』


血が沸騰しそうだ


『あの日からの思いは』


鼓動が速くなる


『今もまだ 胸に残る』


歩いてなんていられない


『叶えども絶えぬ たみの願いに』


身体中がこの歌を求めてる


『身をにし 応え続けた』


身体が勝手に引き寄せられていく

言の葉の全てが身体に染み込んでいく


おのが幸せを望まず』


ああ、ああ…どうして


の者は 孤独な軌跡きせき 辿る』


この声が


『自由も知らぬ あの子は』


このメロディが


『名さえのこさず 独り逝った』


何もかもが


『憐れな 英雄』


酷く懐かしいのだろう



ピキッ、ピキリ…パキンッ…


何かが壊れる音がする


ビービービーッ…


けたたましいエラー音が鳴り響く


全て体内から発生しているようだが…


あゝ…酷く痛むなぁ…

なのに、どうして…

こんなに暖かいのだろう…



ザァアアア……


森を抜けると、不意に強い風が吹き、空へと草木が舞い上がった。

その風の強さに驚き、思わず目を瞑りながら顔を背けた。

そして、再び目を開くと、青々と茂った草木の緑の絨毯、強い存在感を放つ巨大な樹、その樹の太い根に腰かけている少女が目に飛び込んできた。



『嗚呼、どうか神様』


ああ、あの子だ…


『あの子の未来に』


あの子がいた…


かせのない自由を』


やっと、巡り逢えた


『暖かな愛を』


なのに、何故だろうか


『優しい幸せを』


あの子が滲んで、見えないや



歌が終わると同時に、激痛は治った。

自分、否…俺は何かをほんの少しだけ…取り戻したような気がした。

あの子が誰なのか、なんて全く分からないはずなのに…俺はあの子を知っている(・・・・・)

それは遠い昔の話のように、身体に染み付いた癖のように、本能的に憶えている。

今は分からなくてもいい。

いつか、取り戻せると…確信しているから。

理由も根拠も何もない、感覚的なものだけど…

今はこれに縋りたい。




少しして、ピントが合うようになると、しっかりと少女を捉えることが出来た。


輝かしい銀髪は白百合色しらゆりいろ掛かっており、白髪に近い銀髪で、ストレート。

全体的に肩につく程度の長さで、前髪だけ7:3の割合で分けて、三割をピンで留めている。


アーモンド型の白縹しろはなだの澄んだ瞳は、きめ細やかな白肌と相まって幻想的な雰囲気を作り出している。

その瞳も、左を白い花の刺繍が入った黒の眼帯で隠されており、それに何処と無く背徳感を感じた。

さらに、そこへ薄紅の唇が可憐さを加えている。

そして均等的な人形ような美しさの中に、人間らしい丸みのあるスレンダーな体形。

どっからどう見ても、美少女である。


白いワンピースにグレーのカーディガンを羽織っただけの格好は、近所の散歩中といった感じで、とてもじゃないが森を歩くには不向きだ。


何故此処で彼女は歌っているのだろうか。

何れ聞けたら聞いてみたいところだ。



暫くして自分の存在に気づいたのか、少女が此方へと歩み寄りながら話しかけてきた。


「あら、お客さんがいたのね。リサイタルのつもりは無かったのだけれど。流石に、涙を流して感動されるなんて、思いもよらなかったわ。」


「…?…泣いて、ない。盗み聞きするつもりも、無い。でも…悪かっ、た。歌が聞こえて……身体が、勝手に…動いた。」


…声が、上手く出せない。

理由は分からないが、このような話し方以外出来そうに無い。

それに不思議な事に…涙が凍らない。

あの歌を聞いたせいだろうか?

どちらにせよ、人に迷惑を掛けずに済むなら、それでいい。


「そう。まあ、謝って貰えたからいいわ。惹きつけられた…って事でしょ。全く、サラッと恥ずかしい事言わないでよね。」


「ん?…ごめん?」


「何で疑問系なのよ…」


「えっ、と…その、色々、ありが…とう。」


「今の会話のどこにお礼を言う要素があったのよ…」


「歌…綺麗な歌、聞かせて、もらった事と…許して、くれた事…それに、俺の…話、ちゃんと聞いてくれる事…だ。ダメ…だったか?」


「(涙目、上目遣い…で、美少年。破壊力抜群ね、これは…)いえ、駄目ではないわ。寧ろ、嬉しいわね。こちらこそ、あり がとう。」


「…いえ、いえ。えっと、その…俺、れ、れ…」


「れ?」


「れい、か……冷たい、夏で…冷夏って、言う。君は…?」


「私?私は葵。淡雪 葵よ。因みに冷夏君、君の家名を聞いてもいいかしら?」


「家名…は…確か苗字で…えっと、あの…その…知らない…覚えて、ない。」


「そう…それは失礼したわ。」


「別に…気にして、ない。思い出せ、ない事は、覚えて…いても、仕方ない…から。」


「あら、男前なのね。」


「ありがとう?」


「ふふ。まあ…とりあえずよろしく、冷夏。」


「うん、よろ…しく、葵。」


「あら、もうこんな時間だわ!冷夏、昼食は?


「…?食べて、ない…よ。朝食は、食べた、けど…」


「そう。なら、私と一緒に帰りましょうよ。私も昼食、まだなのよ。」


「いい、よ…でも、何で僕に…そんな事、を?」


「一緒に帰った方が効率がいいのと、私が一緒に帰りたいからかしらね。冷夏は私と帰るの嫌?」


「嫌じゃ、ない…よ。」


ぐぅ~うぅうう


「ふふ、ありがとう。さあ、お腹もなった事だし、さっさと帰りましょうか。ここからなら、割と近かったはずだから。」


「うん!」


少女から差し出された手を戸惑う事無く握り、少年は隣を引かれるままに歩く。




【その後のふたり】


「そういえば、冷夏。」


「…何?」


「昨日、私と会っているのだけど…覚えてないかしら?」


「…覚えては、いる。…他の、人より…少しだけ、違う気…した、から。でも…それでも、少し…しか違わない、から…。あまり、興味が…無かった。だから、改めて…名を、聞いた。」


「そうだったの…まあ、仕方がないわね。いきなり知らない人に親しく接しろ、なんて…無茶な話だから。」


「…戸惑うが、仕方がない、事だ。ちなみに…名を、直に聞くのは…認めた…という事だから。これから…よろしく、な…葵。」


親愛、友愛、信頼…といった感情に近いものを、顔に浮かべ、出来るだけ柔らかく微笑んだ。

俺より背の高い、美しき少女の瞳を見つめながら。


「(か、か、可愛い…!可愛いすぎるわ!ふふっ、本当…将来が楽しみな顔立ちよね。いや、でもこの笑みはかなりレアな気がするわね…)ええ、よろしく…冷夏。」


綻んだ雪の華のような笑みを浮かべ、スッと俺と瞳を合わせた。


…どこか懐かしく、通じ合っているように感じるのは…何故だろう。

今はまだ…分からない。

それでも、葵の隣は…何だかとても心地良くて、落ち着く。




【その後の周りの反応】


「只今帰りました。遅くなって申し訳ありません。」


「………」


「…ほら、冷夏も。此処はもう貴方のお家なのよ。お家に帰ってきたなら、何か言う事があるのではないの?」


「……?………あ、……ただいま…?」


「ふふっ、おかえりなさい冷夏。」


「…葵も、おかえり。」


「…ッ、ええ、ただいま。さて、このぐらいにしないとキリがないわね。とりあえず、手洗いうがいしてから、食堂ね。」


「…ああ、了解した。」


(おい、アレは誰だ?見間違いでなければ…アレは昨日の冷夏くんではないか?)


(いや、もしかしなくとも、冷夏だろ。)


(しっかし、大分変わったな。なんか嬉しそうに耳と尻尾動かしてる風にしか見えないぞ。)


(ああ、なんか可愛ええなぁ。葵ちゃんに懐いたみたいやし、一安心やな。)


(上手いこと、馴染んでくれると助かるんだがな。その心配も要らなさそうだ。)


(キャラ変わりすぎて、何があったか問いただしたいレベルだがな。)


(実害が無いなら、大丈夫だろ。ま、いざとなりゃあ、助け合うのが此処の教えだろ?それに従うまでさ。)


(それもそうだな。)


少女に出会った事によるショックによって、少年の身体にはあらゆる変化が現れていた。

人格形成プログラムが誤作動を起こし、言動・行動の幼児化…年相応に近くなった。

また、記憶・感情操作の術式の一部が破壊され、一部の記憶の欠片カケラとプラスの感情が解放された。

それによって、年を重ねるごとに徐々に自然に記憶や感情が戻っていく事になった。

つまり全て取り戻すのは、時間の問題となったということだ。


そして、少女もまた変化をしていた。

少々大人びた雰囲気と口調になったのだ。

これは偶然や背伸びではなく、記憶の解放。

少女もまた陽だまりの家に来る以前の記憶の欠落があったのだ。

少年との出会いによって、記憶の片鱗を無意識のうちに取り戻し、使うようになったのだ。


この変化は運命の糸が完全に絡まった瞬間である事を、2人はまだ知らない。


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