第6話 ランニングと魔法
サブタイトルに誤りがありましたので、修正しました。
大まかな魔法理論→魔法
視界に飛び込んできた。
芝生が辺り一面に敷かれ、一本だけひかれた門への道は石造り。
芝生と道の間には煉瓦が隔ててるように並んでいる。
建物全体は門以外全てをコンクリートの壁が囲み、背の高い木々が壁の向こうに無数に見える。
多分、俺がここの門に来るまでに通った森だろう。
木々には相変わらず葉がなく、とても寒そうだ。
だが時々、木々が歪んで見える。
大方、この施設に魔物や野生動物が入らないようにする為の結界…いや、それだけなら結界外が歪んで見えることはない。
恐らく、この施設の関係者やある一定の条件を満たしたもの以外からこの施設を隠す…所謂、透明化や隠蔽と同じ効果を持つような設定が結界に付与されているのだろう。
その証拠に木々が歪んで見えている。
道を通り、門の前に来た俺はとりあえず閂を開け、門を押してみた。
キィ…
重く高い金属音と共に呆気なく門は開いた。
「へ…?」
素っ頓狂な声を上げてしまった。
しかし、それは不可抗力だ。
あんだけ厳重に結界張って、態々壁で囲って、その上周りは森。
普通出入り口が一番頑丈で複雑なはずだ。
なのに閂外しただけで開くなんて…予想だにしないどころか、逆に不用心過ぎて心配になる。
ま、心配したのはほんの一瞬だけで、それからはランニングコースの方に頭を回した。
思いついた感じだと、コースは4つだ。
仮にAコース、Bコース、Cコース、Dコースとすると、コースはこうなる。
Aコース:壁に沿ってひたすら走り続ける
Bコース:目の前の森の中を走り、動き回る
Cコース:森と遠くの山の山頂をずっと往復する
Dコース:山の中を走り、動き回る
…AコースとDコースはまず無いな。
運動量最小と最大なんて極端過ぎだ。
それに同じとこグルグルなんて飽きるし、知らない山で走ってぶっ倒れたら元も子もない。
そうなると、Cコースも山が入ってるし除外だな。
消去法の結果、Bコースに決定した。
早速走りま…いや、その前にこれ仕舞わないと。
琥珀のご飯粗末に出来ないし。それ以前に走りづらいし。
視線の先に映るのは、ペットボトルの水2本と手作りのサンドウィッチ。
徐に何も無いはずの空間でそれらを持った手を伸ばした。
それと同時に空間に切れ目が入り、そこに手は吸い込まれた。
出てきた手には何も握られておらず、切れ目はいつの間にか消えていた。
空間魔法の一種、収納だ。
これはファンタジー世界では御馴染みのアイテムボックスみたいなものだ。
必要な魔力が多く、使えるだけでこの世界ではかなりの高待遇。つまり、一部の者しか使えない割とレアなものって訳だ。
人によっては、時間停止機能や容量の大きさなどの細かい設定が出来る為、まさに十人十色な魔法。
ちなみに自分は、時間停止機能は勿論、容量だって自由自在に変えられるし、魔物や死体、食品…何でも解体可能。
簡単な調理ぐらいなら入れたまま、レシピをイメージすれば出来ちゃう優れもの。
小分け、検索だってお手の物。
ま、簡単に言えば、かなりチートな機能がついてるアイテムボックスって感じだ。
手ぶらになってすぐ、目の前の淋しい森をゆっくりと駆け出した。
但し、それは常人には、残像しか捉えられない程早く、とてもゆっくりには見えないのだった。
森を流れるようにして走り回った。
木の根飛び越え、幹を蹴ってバク宙し、着地と同時に側転し、止まることなく鍛造で青炎剣を生み出し、敵を想定して舞うように立ち回り、それを高速で不規則的に何度も立ち回る。回避行動だって忘れない。
走る速度を幾度となく変え、一度も休まずただひたすらに敵を消すことだけを考え、走るというよりアクロバットをしてると言った方がいいレベルで走り、基暴れまわった。
木の幹を蹴り、地面が足に着かないよう自分が決めた範囲内で剣を振り、動き続けた。
そこに飽きたら、違う場所に行き、様々なパターンを想定し、木に登ったり、投擲用ナイフを用いたり、魔法と併用したり、奇襲の動きしてみたり…それはもう上げればきりが無いぐらい、ただひたすらに動く。
どれぐらい続けていただろうか?
不意に空腹を知らせる音が鳴った。
全身から汗が噴き出し、息は上がり、筋肉は震え、魔力不足からくる目眩と吐き気がした。
重力を無視した動きに体力の落ちた体がついてかなかったのだった。




