第4話 歓迎パーティーと心の壁
目に映ったのは、カラフルな装飾とテーブルクロスの上の豪華な料理…沢山の人…そして、何よりも目を引いたのは…『☆冷夏君歓迎&誕生パーティー☆』と大きく書かれた紙が吊り下げられていた事だった。
「…は?」
そんな惚けた言葉が出たのは必然だ。
「驚いた?」
さっき葵ちゃんと呼ばれていた少女が悪戯に成功した子供のような声で聞いてきた。
「まあ…な。…ひとついいか?」
曖昧に返し、質問した。
「いいわよ。」
余裕そうな声で了承した。
「自分は名前以外の基本データは知らんと言ったのに、何故誕生パーティーとやらをやるんだ?誕生日さえ分からないと言うのに…」
「ああ、それね…それに関しては問題無いわ。ここにいる子達のおよそ3分の1は誕生日どころか名前さえなかったからね。だから、ここでは歓迎パーティーをやる日がその子の誕生日とされてるわ。」
「そうか……で、今更だがパーティーとは具体的に何をするんだ?」
デリケートな問題に触れた事に若干の罪悪感を感じながら、根本的な事を聞いた。
「……え?パーティー知らないの?いや、友達とか家族…いや、この際、義理の親でもいいわ。兎に角、そんな人達とこういう事、一緒にしなかった?」
目を点にし、冗談でしょ?と言いたげなニュアンスで聞いてきた。
だが、その問いはさらなる爆弾を落とす羽目になった。
「…そのような者がいた記憶が無いな。それに、目覚めてからというもの、ロクに人と喋ってないから、余計に世間が分からなくなってるんだ。常識なんてものは皆無だ。」
「えっ、ああ…嫌な事聞いちゃったわね……ひとつ聞くけど、目覚めてからって何?」
気まずそうにそう言ってきた。
多分気になる事は聞かないと落ち着かないタイプなんだろう。
「自分にもよく分からんが、脳がそう認識してる。ただ、それだけだ。気にするな。で、結局パーティーは何なんだ?それを聞いたはずだが。」
「あ、ああ、ごめんね。えっと、パーティーは何かめでたい事やお祝いする事が出来た時に、人を呼んで、豪華な料理を飾り付けた部屋なんかで食べ、それを祝う事だよ。」
「…?つまり?」
「みんなでワイワイ盛り上がる事です。」
…いや、省略しすぎでしょ。
「…そう。で、今からどうすー」
グゥ~ギュルル…
何がなった気がした。
で、何故か視線がこっちに集中してる気がする。
「とりあえず、乾杯しましょうか。その後はもう自由に飲食するって感じで。」
「分かった。で、乾杯ってどうするんだ?」
ゴケッと数人が倒れかけた。
「…まあ、そうなるよね…」
「なんか言ったか?」
「いや、何でも…はあ、乾杯は誰かが掛け声をかけた後にコップやグラスを軽くぶつけ合う事…だったかな。」
ため息とともに教えられた。
「…そうか。じゃあ、誰か掛け声かけてよ。」
「俺がやるぜ!」
名乗り出たのは褐色赤毛のマッチョ男だった。
「ちなみに君…いやマッチョ男、名前は?」
「えっ?マッチョ男って…俺か?」
こくりと頷き、肯定する。
「ハハハッ、俺がマッチョ男か!あ、俺の名前は有明沢 剛って言うんだ。剛って呼んでくれ。よろしくな!」
豪快な挨拶に半歩下がりつつ、出された手をそっと握った。
「…知ってると思うが、自分の名前は月夜見 冷夏だ。こんな見た目でも男だからな。間違えたら…多分怒る。自分の事は冷夏と呼んでくれ。これからよろしく。」
名乗ってもらって此方が言わないのは、流石に変だったため、少し真似して名乗り返した。
「それじゃあ、乾杯の音頭と行きますか。」
握手を終わらせ、グラス片手にそう言った。
俺の手にもいつの間にかグラスが握らされていた。
ちなみに中身はオレンジジュースだ。
「え~、今回新たな仲間として加わる事になった冷夏の誕生と仲間となった事を祝して…乾杯!!」
高々と上げたグラスがライトに照らされ、輝くと同時、カーンとグラスやコップがぶつけられ、皆口々に乾杯!と叫んでいた。
そんな騒がしい中、自分も適当にグラスをぶつけ、甲高い音を響かせた。
パーティーが始まってしばらく経った頃、不意に声をかけられた。
「どうだ!楽しんでるかい?」
「…ええ、まあ。」
「そうか!それは良かった!」
正直言って、答えづらかった。
周りの人は皆、笑みを浮かべ、談笑している。
だが、自分にはそれが出来ない。
『楽しい』と言う感情が殆ど無いからだ。
微かに分かる程度ではとてもじゃないが、自分があのように他人と接す所など、想像がつかない。
だから、パーティー中はずっと端で飲み食いしてた。
話しかけてくるなんて思うはずが無い。
パーティーが楽しい?料理が美味い?
意味不明。
その言葉に尽きる。
それに…自分は壁を感じた。
みんなと自分では決定的に違う…そしてこれは壊す事など不可能だ…と。
パーティー終了後、熱気が冷めないまま、皆片付けをし、そこからは各自で寝た。
自分に与えられた部屋は急だったせいもあり、少し離れた位置で一人部屋だった。
他は大体3~4人で部屋を使うらしい。
思っていた以上に疲れていたのか、ベッドに入ると同時に瞼が降り、睡魔が襲った。




