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第1話 始まりと突然の襲撃 前編


「すいませ~ん!あの~、ちょっとお尋ねしたい事があるんですが、何方かいらっしゃいませんか?」


そんな声が玄関先からしたのは突然だった。

道に迷った旅人のようなニュアンスで、誰も警戒などしなかった。


一山丸ごと買って建てられた家は、何かから隠すようにして、結界が張られている。

普通、入るときは合言葉と特殊な鈴を用いらなければ入れない。


だが、その…声からするに若い男が何も用いらず敷地内に入っている。


この異常さに気づかなかった。


…いいや、気付けなかったのだ。


この時すでに、家にいたものは敵の術にかけられていたのだから。



「どちら様でしょうか?」


執事服に身を包み、暗いグレーの髪をオールバックにした壮年の男が言葉を返す。

世話係の八千やちだ。

偶然玄関付近を通りかかったのか、扉からは離れた位置にいる。

どのみち正体不明の者を入れるわけもなく、その位置は丁度いいと言えるだろう。

術にかけられているとはいえ、常識は流石に守るみたいだ。

ただ、何故いるのかは疑問に思えなかった。


「悪を退治しに来た正義のヒーローで~す!今すぐこの家の中に入れてくださ~い!さもなければ(・・・・・・)、肉片になりまーす♪」


耳に触る言い回しとその言葉に八千は眉間に皺を寄せた。

肉片になるという言葉に悪寒が走ったのだ。


今旦那様方はどちらに…


そう思いつつ、八千は胸ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認した。


この時間でしたら大丈夫ですかね…


その時、この家の主達は朝食を済ませたばかりで、まだリビングにいた。

それも運が良いのか悪いのか、そこは家の中心地点。

玄関からは遠い。

ここから攻め入るには時間を要する。

他の場所から入られていなければ、の話だが。


兎に角、ここだけでも死守しなくては…

時間稼ぎ程度にしかなりませんが…この老いぼれ、参ります。


八千はそうして扉の施錠を解いた。


そんなことが起きているとはつゆ知らず、幼き少年は、いつもの様にリュックを背負い込み、腰に愛刀を提げた。


「母上!裏山に行ってきます!」


少年はそう言って、裏山に向け歩き出した。

急ぐ必要はないのか、のんびりといった感じだ。


裏山には結界張りの魔法剣術訓練場がある。

結界は少年の母親が張ったもので、その訓練場と少年の生活する小屋を覆い隠すようになっている。

訓練場には対人戦闘用ゴーレムや的、筋トレマシーン、居合切り用藁人形などが置かれている。

結界には魔物避けや人避け、日光5割遮断、防音・防水・防火等々様々な機能がある。

そこで少年は魔法剣術を訓練している。


魔法剣術…それは読んで字の如く、魔法を用いて剣術を扱うもの。

体内で生成される魔力量が一定量より多いか、魔法の方に才を見出したものにしか使えない剣術だ。


ちなみに、少年には剣術において負け知らずの兄がいる。

名を月夜見つくよみ けいという。

少年は『僕には慶兄けいにいを超える事は出来ない。僕の剣術は魔法抜きで使うと、れいかで居られなくなる。』と思っており、兄に勝負を挑む事もなく、今に至っている。

だが、これには色々と事情があった。

簡単に言えば、少年の剣術は対人用…正確には殺人用の剣術。それも遥か昔に封じられたはずの秘術である。

…今はこれぐらいしか説明できなさそうだ。続きはまたの機会にしよう。


…しかし、それを差し引いても、兄の剣術は騎士剣術。

正義の名の元に、人々を守る為に振るう剣。

少年とは相反する剣術そんざいと言えよう。

しかも、兄はこの狭き世界で名高い、五星島ごせいとう騎士団団長の右腕を担うものだ。

当然、そのような腕っ節のいい兄がいたら、当たり前のように弟は放置される。


幸い、母親の話では、保有魔力量が一般平均のおよそ30倍だったため、魔法剣術でなら…といった流れで、訓練することになった。

…つまり、今の少年の剣術は殺人用剣術+魔法ということだ。

そして最近では、少年に裏山の管理の任も与えられている。

所謂、厄介払いとも言える扱いだ。


ちなみに、管理と言っても、精々結界が破られてないかのチェックか、木を間引くといった林業みたいな仕事だ。

それも魔法使えば、すぐ終わるものばかり。

後は…森に変な扉のような物体の周りに人が来ないかどうか、定期的に巡回するといったところか。


それ以外の選択肢は、勉強か訓練の2択しかない。

此処は元々、先祖代々受け継がれてきた書物や武器などを保管する蔵の管理人小屋だ。

前の管理人が病死し、代わりの者を…という段階で少年に白羽の矢が立った。

戸籍は無いが、一応この家の養子として、此処に居る。

そんな少年に家庭教師など居るわけもなく、勉強は大体独学。

それも、蔵の書物や屋敷の書斎から引っ張り出した本を読むだけ。


そもそも少年は、少年の唯一無二の友人に、基礎知識や魔法について教わらなければ、ロクに話すことすら出来なかったのだ。

少年はそんな友人とは、今でも時々共に話したり教わったりしているものの、友人は友人で用があるのか、最近はあまり会えていないみたいだ。


さて…そろそろ、少年の名を明かすか。

少年呼びでは、味気ないからな。

彼の名は月夜見つくよみ 冷夏れいか。この家の養子で、絶世の美少年である。

そして、今日冷夏は8歳の誕生日を迎えた。

誰に祝われるでもなく、ただ年を重ねるだけの人生は今日、終わりを告げる。




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