おまけ & あとがき (5448文字)
これは2016年にTaskey で公開したものをなろうに移植したものです。
ヘビーメタルにぶち当たれ!
「龍の騎士と獅子の王子」は、筆者である赤城康彦が世界史に興味を持ち、小説家になろうで書いた「ドラゴン騎士団戦記」のセルフリメイクになります。
「ドラゴン騎士団戦記」を書き終えてから、どうにも出来に納得できない気持ちを抱えて。書き直そうかな、と時々考えていました。
それを決定的にしたのが、2015年はじめのAFCサッカーアジアカップ・オーストラリアのイラン・イラク戦でした。
私サッカー好きでよく見るんですね。
イラン代表にはイスマーイールという選手がいるのですが、あろうことか「ドラゴン騎士団戦記」において女の子にエスマーイールという名をつけてしまっていたのです。そうです、勘違いして男性名を女の子につけてしまうという大失敗をしていたのを、遅れて知ってしまったのです。日本風にいえば、女の子に圭祐と名付けてしまうようなものでしょうか……。
やってしまった! そう思った私は「頼まれてもいないのに」(←これ重要)書き直しを決意。登場人物の名前も変更したり新キャラ出したりと、いろいろと変更点を加えたりあれやこれやとぶれながらも書き進めておりました。
で、この物語は東欧から中東、そして自分にとって新大陸となる北アフリカまでをもとにした異世界が舞台。その歴史をあらためて学び直し、世界観をつくっていきました。
本を読み返したり、ウェブで検索して調べたり。
そんな中で印象的だったのが、東欧の歴史をしらべていると、なんだか妙にヘビーメタルにぶち当たるんですね。
東欧では、ハンガリーでは血の伯爵夫人と呼ばれたエリザベート・バートリーと、吸血鬼ドラキュラのモデルとされたルーマニアの串刺し公ヴラド・ツェペシ(海外ではヴラド・ドラキュラの呼び名が一般的)が有名ですね。
そんないわくつきの人物がヘビーメタルの題材になるのはまあ理解できます。
また中世ハンガリーには黒軍(Fekete sereg)という軍隊もあり。それを検索すると、これもその名を冠したヘビメタバンドがありまして。YouTubeで聞くことができます。
そしてハンガリーの歴史といえば、フン族の王アッティラ!
このアッティラの名を冠したヘビメタバンドもいたんですね。YouTubeでAttilaと検索すればPVを観ることもできます。
やはりヘビメタなんでヤバい感じです。
ヘビメタは「やってられっかあ!」と反社会的だったり「こんなことでいいのかあ!」と叫ぶ社会への抵抗だったり極右的だったりと、やべえものが結構多いジャンルではあるんですが……。混沌とした地域性ゆえか、歴史的な事柄がヘビメタの題材にされているというのは、興味深いことではあります。
日本風にすれば、織田信長の名を冠したヘビメタバンドが「今夜は坊さん焼いて焼き肉パーティーだぜーあーめーん!」とうたうようなもんでしょうか?
そんな中で、私は見てはいけないものを見てしまった気持ちにさせられたのでした。
あの、音楽界の大御所、ビリー・ジョエルは昔、アッティラというヘビメタバンドやってたんですね!
名曲「オネスティ」といえば、そんなに詳しくない私も知る名曲。その名曲をうたう大御所ビリー・ジョエルが、まさかアッティラというヘビメタバンドやってたなんて!
これもYouTubeで聞くことができるのですが、あー、率直に言えば時代ゆえかなんかコミックバンドみたいなノリでして。大変失礼ながら、変な笑いがこみあげてくるというか ^^;
まあやんちゃな時期があったんだなあ、と。
っていうか、東欧の歴史をウェブで調べていてヘビメタにぶち当たるのみならず大御所の黒歴史(?)まで掘り当ててしまうとは。
先に書いた通りヘビメタはいわくありげなジャンルではありますが、混沌とした東欧の歴史は、そんないわくありげなヘビメタ野郎たちの心を掴んでいたんですね。
スポーツからのインスピレーション
さて、なくてもいいような雑記の第二弾。
タイトルを見て、なんだそりゃ?
と思うかもしれませんね。
スポーツがなんの関係があるんだ? と言われると、自分もうまく表現できません(おい)。
ただ、この作品を書くにあたって多くのインスピレーションをスポーツから受けています。
先にも書きましたが、そもそものきっかけがサッカーのテレビ観戦だったわけで ^^;
サッカーの他にモータースポーツにちなんでいるものもあります。
そういったことが、登場人物や地名のもとになっています。
あんまり書かない方がいいかもしれませんが、ここで敢えて書いてみたいことがあるので、書いてみます。
コヴァクスとニコレットたちが国を追われて行きついたリジェカ、そして新オンガルリの都となったロヒニ。
これらはモータースポーツにちなんでいます。
リジェカのもとはクロアチアのリエカ(Rijeka)という都市から来ていますが、サーキットもあり。昔はオートバイレースの世界選手権ワールドグランプリ(現motoGP)のカレンダーにも組み込まれていました。
しかし、ユーゴスラビアの内戦でカレンダーから外されて。それ以来、世界選手権規模のレースが開催されていません。
当時高校生だった自分は、内戦は知っていましたが、そんなに酷いとは知らず。戦争によってスポーツイベントが開催されなくなったことに、いくらかの衝撃を受けたものでした。
ロヒニは同じクロアチアの都市ロヴィニ(Rovinj)をもとにしています。
このロヴィニは、レッドブルエアレースが開催されて日本人パイロット室屋義秀選手も参戦しました。
ちなみにオンガルリのもととなっているのはハンガリーで、ルカベストはもちろんブダペストにちなんでいますが。そこでもレッドブルエアレースが開催されました。
ユーゴスラビアの内戦は、今のシリア内戦と同じように悲惨なもので、それを描いたドキュメント「ボスニア内戦」を読んでひどく気分が悪くなったのを覚えています。
NHKでもジェフユナイテッド市原(現千葉)・日本代表元監督のオシムさんが内戦によって分裂した人々をサッカーを通じて和解させようとする姿を追った番組が放送されましたね。
しかし今は、難民が避難し、受け入れについて問題になっていますね。
軽い気持ちで書き始めて、しばらくして、そういった地域をもとにした世界でやれ戦争だ革命だとか書いていいのかな? という葛藤はありますが、あくまでもフィクションということで、ご容赦願いたいと……。
ともあれ、自分にオシムさんのような何かができるとは思っていませんが、作中にそういった地名を出したのは、好きであることもありますが、自分なりに内戦を忘れずに、復興への祈りをこめてのことなのでした。
ああ、自分が言っても似合いませんが……(汗)。
資料紹介
「龍の騎士と獅子の王子」は世界史をもとに、空想を広げて書いているファンタジー小説です。
ファンタジーといえば剣と魔法。そしてお姫様とのロマンス!
なんですが、当作品にはそれがなく。歴史小説のようなノリの物語です。
これは、子供のころに三国志(吉川英治版・横山光輝版ともに)を読みふけったことからの強い影響であると自己分析します。
ファミコン(古!)やジャンプよりも、自分にとって三国志が胸ワクワクの冒険活劇でした。
いやはや、可愛くない子供でしたねえ。
さて、だからといってそれだけでは、このような作品は書けません。やっぱり、それなりに資料がないと書けないことです。
出来不出来はさておいて……。
そこで、いろんな資料の中から特におすすめの資料を紹介させてもらいたいと思います。
№1
若い読者のための世界史 ――原始から現代まで――
エルンスト・H・ゴンブリッチ 中山典夫訳 中央公論美術出版
簡単に言えば世界史の流れを紹介している本ですが、この本の特徴は、兄が優しく妹に語りかけるように歴史を語っているところでしょうか。
歴史の流れを掴むのは思った以上の重労働ですが。そういった形式で書かれているおかげで、この本はその重労働をわかりやすくリードしてくれます。まさに優しいお兄さんにリードしてもらえるように。かといって、子供向けで大人の鑑賞には耐えられないといったことはありません。むしろ大人にこそ読んでほしい出来栄えです。
第一次世界大戦の少しあとに書かれた古い著作で現在解明されていることと少し違うところもありますが、世界史に興味があるならば、きっかけとして読まれるのもいいのではないでしょうか。
№2
世界史図録ヒストリカ
山川出版社
さて先に紹介した本が活字中心なのに対し、タイトル通り「図録」をメインに世界史の流れをわかりやすく解説してくれる本です。
私は、小説を書くときは頭の中は活字でいっぱい、というタイプでなく、頭の中に浮かんだビジュアルイメージを活字に変換して書くタイプなので、図録があるとイメージ喚起をする際にとても助かります。
それも、世界史の流れを、とくればもう。もろ手を挙げておすがりしたくなる、出来栄えです。
なによりこの本を読むことで、古今東西さまざまな歴史や文明・文化に思いをはせ、それが小説的空想へと広がってゆくのは、快感でもあります。
まあ少なくとも私は、ですが ^^;
№3
Sport Graphic Number PLUS イビチャ・オシム 日本サッカーに告ぐ 平成22年10月15日初版発行
文藝春秋
え、ちょっとまって、サッカーじゃん!
と思われたことでしょう。そうです、サッカーの本です。しかしサッカーという一分野にとどまらぬ濃い内容を含んだ一冊です。ルールを知らなくても安心して読めます。
自分が持っているのは少し古いですが……。
かつて東欧のブラジルと言われるほど強かったユーゴスラビア代表の監督をつとめ、のちに日本に渡りジェフユナイテッド市原(現千葉)、日本代表監督もつとめたイビチャ・オシム氏へのインタビューがまとめられた本です。
イビチャ・オシム氏は大学時代に哲学を専攻されていて、その言葉の端々から氏の鋭い洞察力がうかがえます。ちなみに現役時代は東京オリンピックにも出たそうです。
で、これがファンタジーを書く際に何の役に立つのかというと。
軍師キャラを書く際に、この本におおいに助けられたからです。
たまたま本屋さんで見つけて、最初は単純な興味から買ったのですが。
哲学的思考や洞察力はもちろん、監督をつとめただけあり、戦術観にたいへん長けており。
軍師のみならず、若者を助ける人生の先輩的な人物のイメージを組み立てることでこの本に、というかオシム氏に大変助けられました。
その出来栄えは未知数ですが……。
以上、これら三冊の本を紹介させてもらいましたが、いかがでしたでしょうか?
ファンタジーの舞台は古代から中世がメインだから歴史の本はわかるとしても、スポーツの本は邪道だ!
と思われたかもしれませんね ^^;
自分自身がずれた性格をし、あらぬところからファンタジーの種をもってきてしまうので。
このようなセレクトになりました。
で、こうして書いてみて、自分がずれた点からファンタジーを書いていることをあらためて確認した次第でした。
マジックマジャールよ再び
久しぶりにここでものを書きます。
さて、タイトルを見て、なにそれ?
と思われたかもしれませんね。
このマジックマジャールというのは、かつてのサッカー・ハンガリー代表の愛称です。
ハンガリーは現在、民族的にマジャール人を称し。
サッカー・ハンガリー代表はその強さから、マジックマジャールと呼ばれていた時代がありました。
余談ながら、燃費不正問題で揺れたスズキの工場もあり。マジャール・スズキと呼ばれています。
さて、現在フランスではサッカーのユーロ2016が開催されています。
ハンガリーはプレーオフを経て、ユーロ2016に参戦を果たし。F組に入り。
オーストリア(!)と対戦し、2-0で勝利。
同じF組のポルトガルとアイスランドの試合がドローになったことで、現在F組の暫定1位につけています。
ハンガリーが国際主要大会に出場するのは30年ぶりのこと。それだけでもすごいのに、緒戦を勝利で飾り。
サッカークラスタの人たちからは、マジックマジャール復活か!? と言われています。
ちなみに、ゴールキーパーのガーボル・キラーイは現在40歳で、参加選手最年長記録も更新しています。さらにちなみに、この人は本試合でも正規のユニフォームでなくトレーニングパンツを愛用し、「パジャマか!」と驚かれている個性的な一面もあります。
……
ハンガリー代表がマジックマジャールと呼ばれていたのは、1956年まで。半世紀以上も昔です。
その1956年には、ハンガリー動乱があり、ソ連傘下に組み込まれてしまいました。
その時、主要メンバーのほとんどは亡命。
これにより、ハンガリーからは自由とともにマジックマジャールも崩壊するという悲劇が起きました。
小説では、主人公のコヴァクスとニコレットたちオンガルリ人は、民族的にマジャクマジール族を称していますが。
これはマジックマジャールをもじったものだったりします。
作品をお読みになられた方はわかるかもしれませんが。
コヴァクスが王城の前で叫ぶシーンは、こういった背景をもとにしています。
ともあれ、龍の騎士と獅子の王子を書いているさなかに、マジックマジャールの復活なるか、ということになるのは、感慨深いものがあり。
ついつい、ここでそのことを書いてしまったのでした。
ユーロ2016のサイトは日本語ページもあるので、よければチェックしてみては如何?
あとがき
昨日の更新をもちまして、龍の騎士と獅子の王子は完結しました。
やたら長くて、ぶれたりした進みっぷりでしたが。そんな作品に理解を示し、Love it! をくださった方々がいたことで無駄にならずに済みました。
ありがとうございます。
この作品の執筆動機は1ページ目に書いていますのでそれにゆずるとして。
世界史をもとにした大河ファンタジーを意識していたのですが、もとにした現実世界で紛争や難民、テロなどの諸問題が続出し。
途中で書きづらいものを覚えてしまいました。
そんな中で、主人公の民族名のもとであるマジックマジャールと称されるサッカーハンガリー代表がユーロ2016(サッカーのヨーロッパ選手権)に出場し、マジックマジャールの復活か!と言われたりしたのは。
なんだか書きづらい中で救いを得た気持ちでした。
え? こないだ登場人物に似た名前の監督さんところの、三本足のカラスのエンブレムの国は負けたね?
ま、まあ、始まったばかりですし。^^;
そういえば相手国にイスマーイールって選手がいましたな。
ほかに、登場人物と似た名前の人が監督をしていたシャチのところも心配ですが……。
おっと、思わずサッカーの話にそれるところでした。
ともあれ。
自分みたいな豆腐メンタルな人間は迂闊に世界史に手を出すものではないと、痛感しました(大汗)。
途中で、やめようかと思いましたが。一旦書き出したものは、なんとかしてでも完結をさせようと。完結をさせることを目的にと割り切って、執筆していました。
で、一晩経って。
小説を書く上では、完結をさせる完結力は大事かもしれないと。手前味噌ながら思った次第でした。
最期に。
繰り返しになりますが、なんだかんだとぶれましたが。
それでもお読みくださり、理解を示してくださった方々がいたのは救いでした。
当作品をお読みくださり、ありがとうございました。