どうでもいい三日目
はじめましてはじめです。
再びの方はこんばんは。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。
俺は今とてつもなく憂鬱だった。
異世界三日目にして、既にホームシックである。
ジャンクフード食べたい。唐揚げが食べたい。体に悪い添加物さえ欲している。
俺の中では凄いがゲシュタルト崩壊だ。
脈絡がないって?そりゃそうだろう。
「エリー姉さん駄目だって、そこは……」
「良いからあたくしに任せなさい」
言葉だけだと卑猥に聞こえるだろ?
なぜか俺はエリー姉さんに連れられレオン兄さんの部屋の前にいたからだ。無駄な事を考えてないとやってられない。
嫌な予感しかしないしな。
初日の夜も呼び出されたのたで、仕方なく。あくまで仕方なく部屋に行ったのだがエリー姉さんの部屋に入るなり。
あたくしのどこが美しい?綺麗?あたくしと結婚したいの?と永遠と語らされた。
きっと婚期を逃して焦ってるの?と心の中で何度も尋ね平静を保ち、その場は切り抜けたが、今度は何する気だ?
俺は正直昨日の晩餐でもアルは凄い。こんなことができて凄い。もう何でも凄い凄い凄い!
俺、わかったんだ。人って褒められすぎても駄目なんだね。
「見なさい……」
小声でエリー姉さんがドアの奥を見ろと顎で示す。行儀悪いよ。
「ソフィア!」
「おぼっちゃま!?」
「えっ?アル!?エリー姉さんも!?」
「もー、アルのバカ!良いところだったのに!」
レオン兄さんの部屋を覗くとレオン兄さんとソフィアが抱き合っていた。
美男美女だ。お似合いだね……リア充しね!
俺はかけられる声を無視して自室に戻った。
俺の異世界での初恋は三日で終わった。
神よ!駄女神じゃない神よ!なぜ俺をこんなに苦しめるんですか!?
「何してるんだお前……」
神に祈るポーズで跪いていた俺を呆れたように見てくる。
「なんだ。マルセルか。マルセルは良いよね。毎日ミジンコと恋ができて」
「喧嘩を売ってるのはわかったぞ!」
「凄いじゃないか、マルセル。今から凄いのゲシュタルト崩壊は君のものだ!」
「はぁ、お前と話すと怒るのが馬鹿らしくなる。で?」
で?とは?別に俺、マルセルに話すことなんてないよ。
「神よ!」
「せっかく聞いたんだから話せよ!」
煩いミジンコだな。
「カクカクシカジカデ……」
「それはカクカクシカジカダナ……ってわかるか!」
「マルセル付き合い良いよね」
「うるせーよ!」
ノリツッコミまでするとは成長したじゃないか。
「別にレオン兄さんとソフィアが部屋で抱き合ってたから、神に祈って別れさせようとかそんな事してないよ」
「お、お前な……」
マルセルが引く。失礼な奴だな。
「そっか、お前知らないんだな。兄上とソフィアは婚約者同士だぞ」
「…………嘘をおっしゃる」
「嘘じゃねーよ!」
だってお前ソフィアの扱い雑だったじゃん。
「えっ、マルセルってマザコンだけじゃなくてブラコンなの?」
「なんだよそれ」
「母さん、兄上だぁい好きってこと」
「そうだな」
あら、普通に返されると返事に困るじゃないか。
「まあ、そういう事だから、ソフィアは諦めろよ」
元から期待なんかしてないやい。所詮俺は五割君だ。
マルセルはそう言うと部屋を出ていった。
何しに来たんだ、あいつ?
「神よ……」
コンコン。
「なんだよ。マルセル!俺は今レオン兄さんとソフィアが別れる様に祈ってるっつったろ!」
「そ、それはやめてくれないかな?」
「おぼっちゃま……」
おおう、そうだマルセルはノックなんてしない。
レオン兄さんとソフィアが苦笑いで、エリー姉さんが腹を抱えて笑っていた。
「アル。グッジョブ!」
うるせえよ。
姉上じゃなかったら殴ってるぞ。自分が結婚できないからって……言わないけど。
「姉さん!」
「エリー様……」
駄目だ。ソフィアが泣きそうだ。
「ごめん。うそうそ。エリー姉さんはどうでもいいけど、二人の幸せを祈ってたんだよ。本当だよ。ボクウソツカナイ」
「アル?」
エリー姉さん。魔法じゃない冷気を発するのはやめてくれないかな。
「レオン兄さん、な、何か用事があるんじゃ?」
「あ、ああ、一応私たちのことを話しておこうと思ってね」
「アル?ちょっと来なさい」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って。レオン兄さん!助けて!」
俺はエリー姉さんに首根っこを掴まれ引きずられていく。
「ごめん。アル。僕には無理だ」
僕ってそんな可愛い言い方してないで、ああ!?
「ふふ、今夜は寝かさないわよ」
ほら言葉だけだと卑猥に聞こえるだろ?けど違うんだぜ。
俺はまた姉上の機嫌を取る為に褒めちぎらなければならないのか……
「ていうか、まだ朝だよ!?」
「今日はあたくしとアルの二人っきりでしょ」
ゾッとする。
「し、使用人がいるじゃん」
「大丈夫。あたくしがいいって言うまで使用人は部屋に入らないから」
「お、お姉ちゃん」
「可愛く言っても駄目。さっ一日は短いわよ」
俺はその日の事を一生忘れないだろう。
そして姉上が何故二十歳になっても結婚できないのか理解した。
今後姉上を怒らせるのはよそう。俺は心に深くそう刻んだ。