これぞ五割!
はじめましてはじめです。
再びの方はこんにちは。
違うのを書くと丁度良い気分転換になりますね。
美女メイドとの至福の時間は数分で終わった。
本当にすぐ来やがったな。
俺はやって来たよぼよぼの医者を睨むが医者は気にせずと言うか気づかないで、診察道具を出しておもむろに俺の口に棒を突っ込む。
「んぁにしぁやる」
「なんだって?」
殴ってもいいだろうか。殴ったら一発ケーオー出来そうな爺さんに拳をわなわな震わせる。
「ふぁにしぁかる」
今度は予備動作もなく俺の服を捲りやがった。服で前が見えない上に口に太い棒が合って上手く喋れない。
俺は異世界に来ていきなりの貞操の危機に瀕しているのでは……
「ひゃふ!」
冷たい感触が身体に触れる。この感触には覚えがある。聴診器だ。
「ふむ。風邪じゃの」
服を下ろし俺の口から太い棒を取り出した爺がそう言った。
あぁ、だから俺柄にもなくハイテンションなのね。
爺の態度やテンションが上がってわけが分からなくなり寒くなる。
あれ、俺って記憶喪失で医者が呼ばれたんじゃ……
朦朧とする意識の中で俺は最近よく朦朧とするなぁーと達観していた。
目を覚ますとやっぱり知らないてんじょ……ごほんっ!
見知らぬ部屋だった。正確には先程と同じ部屋。
上体を起こし窓の外を見渡すと夕焼け色に染まった空が見えた。
意識は先程よりしっかりしている。まだ疲れはあるが熱は引いた感じだ。
ふと部屋の入り口付近を見るとソフィアが椅子に座ってうたた寝していた。
病人の看病をして、そんなところで寝ると風邪を引くぞ。
俺は毛布を手に取り彼女にかけた。
異世界……か……。
最後の記憶は安西を助けようとして助けられなくて、いつの間にかフザケた女神?にあった気がする。
そして転生か……。普通転生って子供からじゃないのか?
まっいいか。こんな状況真面目に考えるだけ損だしな。むしろこっちじゃ五割君なんて不名誉な呼ばれ方しないんだ。
『ユニークスキル=五割再現を獲得しました』
あん?
《意識の覚醒を確認。スキルの付加がなされました》
謎の声が頭に響くこんな世界に来てまで五割などという言葉を聞くとは……
しかもユニークスキルってなんだよ。人を笑わせる才能か?こちとら五割君ってあだ名で散々笑われたわ!
なのにユニークスキルが五割再現などというおふざけにしか取れない内容……
俺は早くも心が折れそうだった。
「おぼっちゃま?」
入り口付近で跪いて落ち込んでいる俺を、立ち上がったソフィアが不思議そうに見る。
あっ、もうちょいで見えそう……
「毛布かけてくださったんですか。すみません職務中に居眠りなんて!」
あぁ、毛布なんてどうでも良い。同じ布なら違う布を……
ソフィアは慌ただしく毛布を布団に戻すと違う位置にスカートを抑え立つ。
あれ、もしかして気づかれてる?
やぁ、もしかして覗こうとしてたの気づいてた?なんてとても聞けない。とりあえず……
そうださっきの謎の声!!覗きそうになったのも、それのせいだった!
「ねえ、ソフィア。ユニークスキルって知ってる?」
俺がそう聞くとソフィアは目を丸くする。この表情はなんでいまさら?と言った感じになりはっとする。そう僕記憶喪失なんです。違うけど。
「はい。もちろんです。ユニークスキルとはこのウィルダネスで生を受けたもの全てに授けられる恩恵。基本的に生活に役立つスキルが授けられますが、稀に戦闘用のユニークスキルもあるそうですよ」
なるほど、つまり五割再現は俺個人のスキルってことか!なんだよ、異世界転生っぽい流れじゃん!
若干スキルに前世の影響が出ている気がするがここは気にしない。気にしたら負けだ。
「ところでソフィア。俺はなんで寝てたんだ?」
先程起きてきたとき、偉く心配してた気がするが……ただの風邪であそこまで心配するかな?
ソフィアとの話す話題に困り、そう尋ねると、
バンッ!と扉が開かれた。
「おお、我が弟アルフォンソ。ようやく目が冷めたか」
弟?つまり俺のにーちゃんか。前世でもにーちゃんなんていないから新鮮だな。けどいきなりの知らない青年に兄と言われても……
「マルセル様、まだぼっちゃまは……」
「口出しするなよ。使用人の分際で」
マルセルは剣を抜いてソフィアに突きつける。
「おい、兄貴。女性に刃物を突きつけて脅すなんて随分股に付いてるもんは小さいんだな」
「おまえ!!こいっ!!」
誰が行くか。
剣を収め部屋を出て行くマルセル。
いちいちあの手の馬鹿に付き合う必要はない。
「ぼっちゃま……」
「大丈夫だよ。ソフィアは僕が守るから」
「いえ、行かなくてよろしいのですか。それに……」
ドッカーン!ほんとにそんな音がして部屋の壁に穴が開く。
あれは魔法?
「来いといっただろう!この愚弟が!」
あー、マルセル兄様。ちょっと落ち着こう。これ洒落になってない。
「あー、お兄様?」
「今更媚びても遅いぞ。侮辱された罪償ってもらう」
マジかよ。あんなので命のやり取りすんの?流石は異世界。野蛮だな。
流石に言い過ぎたかと思い。謝ろうとするが兄上様は取り付く島もない。
行き遭ったりばったりだけど、仕方ない。
「五割再現」
多分言わなくても良いんだろうけど。ここは気分を盛り上げるため、主人公っぽく。
おそらくこのユニークスキル、一度見たものなら、なんでも五割で再現できる。
なぜ分かるかって?だてに前世で五割君だった訳じゃないぜ!
俺はおにーちゃんと同じ剣を作り出す。
「お前そんなスキル持ってたか?」
「おにーさんの指導が良かったんじゃないですかね?」
「なら俺に感謝するんだな」
どうやら俺はこいつにボコられて寝込んでいたようだ。記憶はないが俺に変わる前の俺が可哀想なので俺が仕返ししてやる。
てか、あいつの呼び方アイツでいーや。どれもしっくりこねーもん。
アイツが俺に斬りかかってくる。まずは接近戦ね。
俺は上からくる刃をいなす様に避けて。アイツの右側に移動する。
「あんたの魔法こうだったっけ?」
「なに!?」
俺は左手をボンクラにかざして、壁を破壊した魔法を放つ。
「五割再現」
岩の弾丸を受けたミジンコは飛んでゆく。異世界なのだから死にはしないだろ。
それに俺のユニークスキルには弱点がある。
手元の剣を見ると受け流しただけなのにヒビが入っていた。ほらな。
前世でもそうだった。一度見たら五割でなんでもできた。けど、どんだけ頑張ってもそれ以上に上がらない。どこまで行っても五割なんだ。
つまりこの剣の強度も切れ味もオリジナルの五割。先程の岩の弾丸の威力も五割。総じて五割再現。
なんて俺らしいスキルなんだ。涙が出るぜ。
夕焼けを見上げ額の汗を腕で拭う。
「一応ミドリムシが死んでないか見に行くか」
俺はため息を吐いて、ゾウリムシが飛んでった方向に歩き出した。
後ろで愛しのソフィアが呆けていた。
後で説明できる所は説明しよう。多分理解できないと思うけど。