五割君
はじめましてはじめです。
気分転換に全く違う話を書こうかと。基本的に暗い話は無しで明るく行こうと思います。
十七年過ごしてきてわかったことがある。
何をやっても普通で、なんでも普通にこなせるけれど、そんなことはみんなできるし、得てして褒められることもない。
部活の後輩に言わせれば、「先輩って何をやってもできるけど、五割程度っすよね」だそうだ。
そんな話を聞いたみんなからは五割君なんて不名誉な呼ばれ方をしている。
人付き合いですら普通だった。
特に嫌われても好かれてもいない。無視されるわけでも虐められているわけでもない。
今日も普通に授業を受けていた。
「五割君、パス!」
「はいよ!」
手にしていたバスケットボールを呼んだ相手にパスするが、相手のチームの選手に奪われる。
そいつはバスケットボール部のエースだった。
「はん!そんな甘いパスが通るか!」
そいつは縦横無尽にコートを動き回りシュートを華麗に決める。
俺はそれを追いかけながら観察していた。
再現できないレベルじゃないな。よし。
「圭介ハーフコートを過ぎたらパスをくれ」
「あれだな。了解!」
同じテニス部の親友圭介にそう指示して俺は走り出す。
ハーフコートを越え、圭介から俺にパスが渡る。
「やるか」
気だるげにそう呟いて俺はコートを縦横無尽とまではいかないが、駆けていく。
「くっ、流石五割君」
相手チームの選手一人がそう呟く。幸いバスケットボール部のエースは違う相手をマークしていたのでゴールポストまであと少しのところまで来ることができた。
「シュートだコクトー!」
俺は邪魔者全てを躱しシュートする。
しかし、ボールが最上地点に達する前にエースに阻止される。
「危ない危ない。なんでバスケ部に入んないんだよ五割君。その実力なら即レギュラーだぜ」
「俺はテニスが好きだからな」
「ま、気が変わったらこいよ」
五割君と言う限り一生ねーよ。
「惜しかったな。次だ次!」
「おう!」
しかし、試合は俺たちの負けだった。相手の動きを五割で再現できてもそれ以上は無理だ。それに練習したところで五割以上何故か上手くならない。所詮は凡庸だ。
「五割君またねー!」
授業も部活も終わり駐輪場で鍵を探していた俺は同じ部活の女子にそう呼ばれ手を振り返す。
俺はポケットやカバンを弄るが自転車の鍵が見つからない。
教室か?
俺は校舎を見て、視線を戻そうとして違和感を感じ、再度校舎を見る。
「おいおいおい!」
駐輪場には人がまばらにいたが誰も気づいていない。
校舎の屋上のフェンスを乗り越え、一人の女子が今にも飛び降りそうだった。
はやまるな!
俺はこの時なぜ周りに協力を求めなかったのか。後にも先にもこの時ほど後悔したことはない。
後に後悔するとも知らず、俺は屋上に向かって走り出していた。