異世界設定は大失敗?
「──異世界から来たってどういうことなの?」
事情を聞くため、藤四郎はアルミを部屋にあげるなり続きを促した。
アルミは座布団の上にちょこんと座ると恐る恐る自己紹介を始める。
「わたしはこことは違う別の世界、ヘルメガルズから来ました……」
「ヘルメガルズ……?」
「そうなのです。ヘルメガルズは錬金術が全ての世界なのです……。お父さんも、お母さんも……みんな錬金術を学んだ錬金術師なのです」
「アルミちゃんもそうなの?」
「はいなのです。わたしの場合はこの──」
と後ろに連れた電子レンジを抱えて、
「サポーターの『れんじくん』と一緒に『くっきんぐ』するのです」
「じゃあ履歴書を電子レンジに入れていたのは……」
「そうなのです。くっきんぐ──つまり錬金術をしていたのです」
(……なるほど、そういう事だったのか)
藤四郎はようやく得心が行った。
電子レンジと一緒に空から現れ。
受け止めようとすればドロップキックを食らわされ。
電子レンジを使えば物体Xを生み出し。
ただの女の子に何でこんなことができるのかと疑問に思いつつも右から左へ流していたのだが。
(実際に見てしまったんだから、信じる以外ないよなあ……)
話が繋がり藤四郎が納得していると、アルミもその時のことを思い出したのか、気を落としていた。
「あう……ただ、失敗しちゃいましたけど……」
「いや、あれは失敗じゃ──」
「違うのです。違うのですよっ!」
駄々っ子の様に一生懸命に首を振って否定するアルミ。
「あのリレキショは生きていたのですっ!」
「そういえば……」
ピチピチと鮮魚が如く跳ねまわり、水を求めて川を飛び込んだ物体X。
履歴書は無機物、生きている訳がない。
だがあの動きはまるで、
「まるで命が吹き込まれたみたいに動いてた……?」
「それがくっきんぐの末路。吐き気を催す邪悪なのです」
「クリーチャー……?」
アルミははっきりと頷いた。
「くっきんぐで失敗した料理は全部クリーチャーになるのです。だからあれはトーシローが悪いんじゃなくて、わたしの失敗なのです」
「そうだったのか……」
何かおかしいと思いつつも、反射的に悲しませまいと気遣っていた藤四郎。
「失敗したその時はトーシローの体で見えなかったのです。でもその後見せてもらった時にはっきり分かったのです。本当に申し訳ないのです……」
だが結果的にアルミを余計に傷つける事になってしまった。
「こっちこそ、ごめん。ちゃんとあの時、正直に言えなくて……」
そう言って藤四郎は頭を下げた。
「トーシローは悪いと思ってるのですか……?」
「うん、思ってる。正直に失敗だって言えなかったのは、僕の失敗だ」
また失敗だ。
しかも自分の失敗でアルミの心を傷つけてしまった。
なら頭を下げて自分で償うしかないだろう。
「僕にできることがあるなら、何でも言って欲しい」
「じゃあ、二つだけ。トーシローにお願いがあるのです……」
彼女が望むのなら、どんなに酷い仕打ちだろうと何でも受け止める。
その覚悟が今の自分にはあった。
アルミはもじもじと恥ずかしそうに、それを告げた。
「その……。ひ、膝枕を、して欲しいのですっ…………!」
「うんいいよ、それくらい」
「むふーーーーーーーーーーーーーーーー!」
藤四郎が胡坐を崩すと同時に、アルミは興奮しながら膝に飛びついた。
柔らかい髪を優しく撫でてやると、くすぐったそうに身じろぎする。
まるで猫のような仕草に藤四郎も思わず頬が緩んだ。
(やってるこっちが嬉しくなっちゃうんだけど……こんなのでいいのかな)
若干の罪悪感を感じつつ、
「アルミちゃん、もう一つのお願いは何なの?」
「はいなのですっ。実はここの世界に来るとき、神様が偶然開いたゲートに飛び込んでやってきたのです」
「……随分むちゃくちゃな方法に聞こえるんだけど」
「目の前にゲートがあったら飛び込むのが勇者なのです」
確かに。
「なんですけど……無事にこっちに来れたのは良いんですけど……」
「けど?」
「こっちの世界から戻る方法が分からないのです。えへへ」
「え゛っ゛」
サラリと重大な事を口にするアルミ。
「それって大丈夫なの……?」
「はいなのです。泊る場所さえあれば錬金術師は衣食住困らないのですっ」
「へえ……アルミちゃんって何気に凄いんだね……」
「実はそうなのですっ……」
褒められて素直に嬉しいのか、えへっえへっと笑い声をこぼした。
「それでですね、トーシロー」
「うん」
「アルミが帰れるまでここに泊めてほしいのですっ」
「…………は?」
思考停止。
え?
何だって?
ここに泊めてほしい?
五頭身の幼女を?
いやマズイでしょ?
「お願いなのですー^-^」
想像をはるかに超えた願い事に、完全に固まってしまう藤四郎だった。
膝の上でゴロゴロとせがむ大きな子猫の我がままを聞きながら……。
そして夜が明けた!




