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エピローグ① 花見

「うっ……やっぱり外でコレは暑いなあ……」


 晴天、春の温かい陽光が降り注ぐ絶好の昼寝日和。

 しかし紺色のスーツで出歩くのは思っていたよりも暑く、耐えかねた藤四郎は首元に指をかけてネクタイを緩めた。


「天下の公道で何だらしない顔してるんですか……不潔です」


 と、彼に声をかけるのは一人の少女。

 まるで待ち伏せしていたかのように何もない道端で立ちはだかるのは、


「あれ、花凛ちゃん。こんな所でどうしたの?」

「……燈子さんに、迎えに行ってこいと言われたので」

「あー……」


 再三の燈子からの無茶振りだ。藤四郎には他人事とは思えず、


「お迎えご苦労様」

「社交辞令は結構です。さっさと行きましょう」

「あ、ちょっと、待ってよ!」


 藤四郎はそそくさと先を歩く彼女の背中を追いかけた。

 そして考え事をしながら歩いてる内、思わずため息を漏らす。


「昼間から辛気臭いですよ。私に失敗がうつったらどうするんですか」

「そんな病原菌みたいに言わなくても……ただ最近、色々あったなあと思って」

「それは──」


 そこには花凛にも思う所があったらしい。

 一度口を噤むとどこか懐かしそうに呟いた。


「そう、ですね……」


 今日という宴の日であれば、人一倍素直じゃない彼女でも考えずにはいられないのだろう。

 現に藤四郎は朝からそればかりをしみじみと思い出していた。


「まさか空から降ってくるなんて。最初はびっくりしたよ」

「未だに信じられない話です」

「それからいきなり部屋に泊めてだなんて」

「私も、知人が部屋に幼女を無理やり連れ込んでるとは思いませんでした」

「いや別に無理やりやった訳じゃないからね?」

「その上朝から幼女を凌辱して」

「それは誤解だから!」


 慌てて花凛の口を塞ぎ、誰も聞いていないことを確認する藤四郎。

 こんな所で人聞きの悪い事を言われては自分にどんな風評被害が降りかかるか分かったものじゃない。

 しかし幸い周囲には自分以外誰もおらず、安心している間に抑えていた手を不快感丸出しで払われていた。


「分かってますよ、今のは冗談です」

「笑えない冗談だよ……」


 プイとそっぽを向くと花凛は自分の口元を袖で拭い始める。

 怒っているのか気温の所為か、どこか顔が赤い。

 そんなに自分の手は汚かったのだろうかと藤四郎は内心傷付いた。


「それよりも、もう始まってますよ」


 徐々にどこからか聞こえだす喧騒。

 藤四郎が「おっ」と声を上げ、花凛が袖を引いて微笑むと、到着が楽しみで自然と足早になっていた。


「おい、おせーぞプータロー!」

「すいません、燈子さん」


 二人が付くとそこには満開の桜と笑顔が待っていた。

 つまりは無事に開催された、花見だ。

 集まっているのは藤四郎が良く知るアパートの住人達。


「よっしゃ駆けつけ一杯だ!」

「ちょっと勘弁してくださいよ! っていうかなんで燈子さんもう出来上がってるんですか!」

「うるせー、お前が遅いのが悪いんだろ!」

「遅いって開始はまだじゃ……」

「と、東堂さん。あ、あれ……」


 そう言って綴が指差すのは燈子の傍らに転がる空の缶ビール。

 恐らくは一時間前から飲み始めたであろう山がそこには築かれていた。


「ま、待ちきれ、なくて……先に……」

「住人以上に楽しんでるじゃんこの人……」

「あたしだって住人の一人だっつーの!」


 酒臭い息を吐きながら紙コップを押し付けて勝手にビールを注ぐ燈子。

 すると酔っ払いの割に目聡くもある事に気付き始めた。


「ていうか、プータロー……お前その恰好、行ってきたな?」

「あー……まあ、はい」

「め、面接……です、か?」

「うん、一応」


 というのも藤四郎は以前落ちたコンビニエンスストアに朝から電話するなり再び面接に行ってきたのだ。

 わざわざ働いていた頃のスーツまで引っ張り出して。

 クリーチャー化した履歴書やアルミの闖入などをやらかしてから行きづらくなってしまったため、その謝罪の意味も込めての再面接である。


「そ、それで……」

「結果はどうだったんだよ……」

「……」


 無職で失敗続きの男にようやく訪れた更生のチャンス。

 どうしても気になってしまうのはこのアパートの住人の性だろう。


「とりあえずこの間の面接で迷惑をかけた件については許して貰えまして……それで今度はちゃんと履歴書を持ってきて、めげずに来たという点は評価されました」

「おお……! それで? それで?」

「ご、合格……?」

「…………」


 興奮で自分の状況が見えない様子で迫りくる彼女ら。

 期待の眼差しを向けられているのが十二分に伝わり、藤四郎は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

 ひしひしと感じるプレッシャーと熱気に気圧されつつも話を続ける。


「それで、ですね。何故か分からないんですけど、店長さんから同情されてしまいまして……仕方ないからうちで働いてもいいという風に言われまして──」

「やったじゃねえか!」

「遂、に……!」

「はあ……やっとですか」


 力一杯肩を叩かれ、小さな拍手を送られ、素直じゃない称賛を貰って。

 藤四郎はこんなにも祝われるとは夢にも思わなかったため、気恥ずかしさを感じながらも思わず涙して、


「なので、丁重に断らせていただきました」

「「「はい……?」」」


 やんややんやと騒いでいたはずの三人。

 それが唐突にハモりだしたかと思えば、急に静まり返ったのだ。

 しかし藤四郎に気付く素振りはなく、


「やっぱりそういう同情じゃなくて、自分の実力で合格しないと意味がないというか、店長さんに申し訳ないかなと思って……それに家賃は燈子さんに待ってもらえるし、ご飯なら花凛ちゃんが毎日作ってくれるし、お金は綴ちゃんが居れば心配いらなそうだし──」


 恥ずかしそうに頭を掻いていた藤四郎がふと顔を上げると、燈子を筆頭に肩を怒らせた女性陣が自分に詰め寄っていた。


「……ってアレ?」

「……」

「なんでみんな怖い顔してるの……?」

「…………」

「ね、ねえ? 燈子さん? 綴ちゃん? 花凛ちゃん……?」

「………………」


 情け無用。

 彼女らは無言で順番に藤四郎へ一撃を入れていった。

 頭を叩き、頬を払い、尻を蹴り上げ。


「やっぱあいつは一生プータローだな」

「せ、折角の、チャンス……」

「これからも私達に甘える気満々だなんて、不潔です」


 そして期待外れの結果に愚痴りながら、地面に転がる藤四郎を尻目に各々の定位置に戻っていく。


「な、なんで……良い事言ったつもりなのに……ん?」


 ふと藤四郎は何かに気付くと、起き上がってきょろきょろと周囲を見回した。

 そういえばアパートに戻ってから一度も顔を見ていなかったのだが、


「……アルミならあそこだよ」

「えっ?」


 見兼ねた燈子が仕方なさそうに顎でしゃくりあげた先を見上げれば、桜の木に登って花を愛でているアルミちゃんの姿がそこにあった。


「特等席なのですっ」

「アルミちゃん! そんな所に昇ったら危ないよ!」

「大丈夫なのですよ、トーシロー」


 自信満々に笑うアルミ。

 しかし保護者として危険な遊びは見過ごせないだろう。


「うーん……でも僕の気が気じゃないから、頼むから降りてきてよ!」

「トーシローは心配性なのです……とおっ!」


 仮面〇イダーよろしく枝から飛び上がると藤四郎に向かって飛び降りてきた。

 それはまるで、忘れもしないあの日に起きた出会いの様に、


「えいっ!」


 痛快なドロップキックで──


「ちょ──ごふぅっ……!」


 空から舞い降りたのは一人の天使。

 太陽の様に爛々と輝いた瞳で見つめ、無垢で愛らしい無邪気な笑顔で近づいて、小さな体に無限のエネルギーを秘めた元気な声で叫ぶのだ。


「超レベル錬金術師アルミちゃん、参上なのですっ! ……えへへっ」

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