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失敗無双  作者: 入ー田ン・マスク(ほんもの)
五敗目 失敗者編
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果たし状

 それは藤四郎がアルミとゲームをしていた時の事だった。


「ああっ! ひどいのですっ!」

「ふっふっふ……勝負は常に非情。精々そこで僕がボールを落とすのを祈っているがいいさ……」

「あうぅ…… ><」

「いや経験者と未経験者でそのゲームやるのは流石に大人気ねーだろ」


 ふと藤四郎の背中越しに壁をノックして聞こえたのは燈子の声。

 コンボ中なのでテレビ画面から目を離せないが、二人仲良く奥が深い世紀末スポーツアクションゲームに興じている所を呆れ顔で邪魔しに来ているのだろう。


「燈子さん?」

「トーコ師匠!」

「ちっす。花凛がこっちに来てないかと思ってな」

「花凛ちゃん?」


 気付けば視界の端には窓から差し込む真っ赤な日差し。もう夕暮れだ。

 確かにそろそろ帰宅して来てもおかしくない時間だと藤四郎は納得する。


「いや、まだ見てないですけど……っていうか花見の事なら一回電話してみたらどーですか?」

「んー……いやあ……もうすぐ帰ってくるだろうしなあ……」


 などと呟いて電話一本を妙に渋る燈子。

 彼女は面倒ごとが嫌いなのだ。大方花凛への説明も「明日花見だからよろしく」の一言で逃げ切りたいに違いない。


「そういえばお前ンとこのポストに何か手紙が入ってたぞ?」

「手紙……?」

「どっかの会社の不合格通知だったりして……」

「受けてもないのに来るわけないじゃないですか」

「いやいやいい加減受けろよ」


 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの藤四郎に冷静に突っ込んでしまう燈子。

 期待した反応もないので、ほれ、と肩越しに差し出すと藤四郎は何気なく受け取った。


「って勝手に漁らないでくださいよ……ん? 何すかコレ」

「さあ?」


 燈子はとぼける風でもなく真面目に意味不明だと言いたげな様子。

 受け取ったそれは市販の封筒ではなく古風にも白紙を折って包んでいた。

 その表には筆字で達筆な四文字が躍っている。


「果たし状……?」


 時代錯誤な言葉に藤四郎が眉をひそめていると、唐突にアルミが飛び上がった。


「やったあっ! ついに藤四郎に勝ったのですぅ!」


 無邪気な笑顔を穏やかな表情で見守りながら何かなと彼女の視線の先を追うと、テレビ画面に映し出された自分の操作キャラが無残に一撃必殺技を受けて負けている光景。


「あっ、しまった……! アルミちゃん今のはノーカンだよ! ノーカン!」

「駄目なのですっ。トーシローがさっき言ったのです、勝負は常に非情だって!」

「う、ぐぅ……」

「いいからお前はこっちだこっち」


 燈子に首を強引に戻され渋々と藤四郎は包みを広げ、手紙を読み上げた。


「なになに? 果たし状、勘解由小路花凛は私が預かった……?」

「返して欲しければ私と決闘せよ……だとよ」

「差出人は……東堂藤四郎……って僕じゃないですかっ」


 言いつつ藤四郎は理解不能とばかりに手紙を床に叩きつけた。

 それを即興の三文芝居と受け取ったのか否か、殺気を隠そうともしない燈子。


「自作自演しておいて自分の名前を書くとは良い度胸してるじゃねえか……」

「いやいやさすがに僕でもこんな失敗はしませんって……!」

「いいや分からねえ。お前の失敗は底知れないからなあ?」

「第一こんな事したら花凛ちゃんからどんな目に合うか……」

「む……確かに一利ある」

「でしょ、でしょ?!」


 胡散臭そうに睨んでいた燈子も溜息一つで怒りを収めると、ピラピラと諸悪の根源を見せびらかし、


「で、東堂藤四郎さんはこれを貰ってどうするんだ?」

「どうするって言われても……差出人は置いといて、もし本当に花凛ちゃんが捕まってるなら行かないとまずいですよね……」

「花凛はあたしらの大切な仲間だ。きっちり帰ってきてもらわないと困る」

「燈子さん……」

「明日の花見の重要な役目も担ってるしな」

「そっちが本音じゃないですよね……?」

「本当はお前が解放すりゃあいい話なんだけどなあ」

「だから僕はやってませんよ!」


 藤四郎が冗談なのか本気なのか分からない燈子に振り回されていると、ふとアルミがぴくんと反応して藤四郎に吸い寄せられるように顔を近づけてきた。


「くんくん……」

「お、どうした?」

「くんくん、くんくん……」

「あ……アルミちゃん?」


 夢中になって自分の周りで匂いを嗅ぐアルミに戸惑う藤四郎。


「臭うのです……」

「おいプータロー……お前ちゃんと風呂に入ってんのか?」

「入ってますって!」

「この手紙から……ほんの少しだけクリーチャーの臭いがするのですっ!」

「ええっ……!?」


 藤四郎の匂いを嗅いでいるのかと思いきや、どうやら対象は手紙だったらしい。

 確かにアルミのアホ毛が弱々しくも僅かに手紙に向けて跳ねていた。


「少なくともクリーチャーがこの手紙に触れていたのは間違いないのです」

「おいちょっと待てよ……そりゃあ一体どういう事だ?」

「まだ残党が残ってたってこと……?」

「クリーチャー連合はこの間全員倒したはずだろ……?」

「一体だけ見逃していた、とか……」

「でも廃工場に集まってた数と倒した数に間違いはなかったじゃねえか!」


 動揺のあまり顔を見合わせて言い争いをする二人。


「分からないのですっ! ただ──」


 とアルミの一言が騒々しい二人の会話を止めた。


「クリーチャーの臭いに交じって、藤四郎の匂いも染み付いてるのです……」

「どういうことなの……」


 新しい情報を得るも一層謎が深まるばかり。

 藤四郎が呟いた問いかけにも分からない、とアルミは首を振った。


「やっぱりお前が」

「それはないです」


 燈子の台詞を先読みして封じると、藤四郎はおもむろに立ち上がりだす。


「行こう……」

「……トーシロー?」

「時間は日没。場所があそこの河川敷なら迷ってる時間はない」

「そうだな……。もしかするとお前らと花凛が行き違いになるかもしれねえ。あたしは留守番して待ってることにするよ」


 頷くと藤四郎はアルミに手を差し伸べた。

 何が起きているのかはまだ分からない。だがクリーチャーが相手なら二人一緒だ。


「行くよ、アルミちゃん!」

「っ……はいなのですっ!」


 アルミは差し出された手を強く握りしめて、藤四郎と一緒に部屋を飛び出した。

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