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失敗無双  作者: 入ー田ン・マスク(ほんもの)
四敗目 幼女逃走編
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お帰り、ただいま

※2017/11/19あとがき削除

「あー……もうくったくただぜ……」

「早く帰って、お風呂に入りたいですね……」

「そ、そう、です、ね」

「本当に、みんなありがとう……」


 燈子、花凛、綴、藤四郎、アルミ。

 五人は満身創痍を全身で体現しながらトボトボと家路をたどっていた。

 そんな状態でも藤四郎が痩せ我慢して笑って言うと、


「別にお前のためにやってやったんじゃねえよ」

「は? 何を勝手に勘違いしてるんですか?」


 飛んでくるのは彼女らの日常的な辛辣な一言。

 内容がひどくても懐かしい日常に戻った気がして思わず藤四郎の顔が綻んだ。


「ハハ……このやり取りもまるで一週間ぶりに感じるよ……」

「い、いや、わた、私は……」


 ごにょごにょと聞き取りづらい口調で綴が何かを呟いた。

 大方自分を元気づけるための言葉なのだろう、と藤四郎は予測して、


「ありがとう、綴ちゃん……いやぁ優しさが目に染みるなあ……」

「勘違いして綴に手ェ出すんじゃねえぞプータロー」

「不潔です藤四郎。率直に言って反応が大げさで気持ち悪いです」

「あれ、目から汗が……」


 歳の所為か、周りの手厳しい反応の所為か。

 目から本当に何か流れてきそうな藤四郎だった。

 と、アルミが唐突に、


「本当に、今日はわたしのせいで──」

「おう。もし次やる時が来たらちゃんとあたしを呼べよな?」


 悲し気な雰囲気で呟きかけたそれを燈子が封じた。

 ニシシと人好きのする顔で笑ってアルミの悲痛な心を吹き飛ばす。


「っ……はいなのですっ師匠!」

「私も、たまにはこれくらいは……」

「お? 珍しく照れてやんの」

「別に照れてませんっ。そもそも元はと言えば藤四郎の監督不行き届きが原因なのです」

「うっ……」

「まあ、預かってる子供の家出を見逃すのはいただけないよなあ?」

「うぐっ……」


 話の矛先が急に自分に向かって方向転換。

 責任の重さに本当に胸が痛くなってきた藤四郎は、帰ったらバフ〇リンで優しさを摂取しようと思い始めた。

 ※胃痛には別のお薬を飲みましょう。


「そういえばトーシローは何でアルミの家出に気付いたのですか?」


 それは彼女にとって素朴な疑問だった。

 無邪気に尋ねるアルミに藤四郎は沈んだ表情で、


「ごめん……」

「えっ? な、なんで謝るのですかっ?」


 見かねた燈子は呆れ顔で藤四郎を指差す。


「コイツ。ちゃっかり起きて気付いてたんだよ」

「ええっ!? ど、どうしてなのです?!」

「アルミちゃんが中々寝付かないから、今夜こっそり何かやり始めるじゃないかなあと思って……」


 それはアルミにとって驚愕の事実だった。何故なら、


「わ、分かってて、見逃したのですか……?」


 静かに頷く藤四郎。


「もし一人で何かするならアルミちゃんの決意は固いだろうし、止めても無駄だと思ってたから……。だからこっそり後をつけさせて貰ったんだ」

「そう、だったのですか……」

「で、プータローから電話が来てよ。アルミが心配だし、面白そうだからってあたしらも一枚噛ませろって加わった訳よ」

「ごめん、囮みたいな事をさせて……」


 まるで懺悔するように藤四郎は背中を丸めて呟いた。

 アルミにしてみれば自分のした事は、クリーチャーを出し抜くために利用したと取られても可笑しくない行動なのだ。

 しかしアルミは首を横に振って、


「いいのです……わたしが傷ついたのは、戦いに飛び込んだ自分の責任なのです。それよりもトーシローは、わたしのクリーチャー連合を倒したいっていう思いをちゃんと尊重してくれたのです」

「アルミちゃん……」

「やっぱりトーシローはわたしのお母さんなのですっ」


 そう言ってアルミは藤四郎の先に回り込むと、嬉しそうに微笑んだのだった。

 やがてアパートに到着して各々が自分の部屋に帰っていく中、燈子は、


「ほれっ」


 ポケットから一本の鍵を投げてよこした。


「あ、はい。ありがとうございます」

「それとプータロー」

「はい? なんですか?」


 こっぱずかしそうにそっぽを向きながら口にしたのは彼女の本音。


「アルミはお前の事を心配して色々とクリーチャーから遠ざけてたみたいだけど……でも今回の一件で、それ以上にお前を信頼してんだとあたしは思う」

「えへへ……」


 言われて思わずはにかむアルミ。


「次は家出させずにちゃんと一緒についていってやれ」

「はいっ……」

「アルミもだ。今度はプータローを置いて一人で行くなよ?」

「はいなのですっ」


 言いたいことを言うと燈子は大口開けて欠伸をして、


「ふぁあ……じゃ、あたしも一風呂浴びて寝るとするかな……」


 背中越しに片手で別れの挨拶を済ませ、頭を掻きながら帰っていった。


「僕らも帰ろうか」

「なのですっ」


 残された二人は所々さび付いた階段を軋ませながら自分達の部屋に向かう。

 藤四郎が鍵を差し込んでガチャリと回し、ドアノブを引く。

 すると、アルミの鼻にどこか懐かしい匂いが舞い込んだ。


「お帰り、アルミちゃん」


 今度は一人じゃない。

 慣れ親しんだ部屋に戻ってこれば、暖かく迎えてくれる人が居る。

 自分の大好きな人が待っている。

 ここが自分の帰るべき場所なんだ──


「ただいまなのですっ、トーシロー!」


 アルミは真っ先に藤四郎の懐に飛び込んだ。

 彼の住むこの狭く小さな部屋が自分の居場所なんじゃない。

 彼のいる場所こそが、自分が帰るべき場所なのだから。

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