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失敗無双  作者: 入ー田ン・マスク(ほんもの)
四敗目 幼女逃走編
26/34

やられたらやり返す

 暗がりにひっそりと駆け込む藤四郎とアルミ。

 廃工場を抜け出した二人は闇夜に姿を暗ませて息を整えていた。


「なんとか振り切ったかな?」

「これから、どうするのですか?」

「それはね──」


 と彼の言葉を遮ってスマートフォンが震えだした。

 それを事前に知っていたかのように藤四郎は平然と電話に出た。


『よう、そっちは無事か?』

「ええ、なんとか。……首尾はどうですか?」

『上々よ。お前と仕留めた敵の大将も二人ともきっちり伸びてたし。後、クリーチャー連合だっけ? アレもすっかり大パニックになってたな。それから花凛と綴からもさっき連絡があった』

「了解です──」

「だ、誰なのです……?」


 当然の疑問に藤四郎はその名前を告げた。


「燈子さん。ちょっと替わるね」


 藤四郎はスマートフォンを耳から外すとアルミに手渡した。


「ト、トーコ……?! もしもしなのですっ」

『すぅっ……………………』

「……………………ト、トーコ?」


 一向に返事がない相手にアルミが不安そうにもう一度呼び掛けると、


『馬鹿野郎心配したじゃねえかッッ!!!!!!!!!!!!!!!!』


 突如アルミの鼓膜を罵声が襲い掛かった。


「っ…………!」


 右耳を貫いて反対側から突き抜けそうな程の勢いに耳鳴りが鳴り響く。

 やがてそれが落ち着くとアルミは、今度は腫物を触る様に呼んだ。


「ト……トーコ……?」

『どうせプータローはろくに怒らなかっただろうから、あたしが代わりに言っておく。もう二度、こんな真似すんじゃねえぞ』


 それはアルミが初めて聞いた燈子の真剣な声。

 だからこそ見えない彼女にも頭を下げて心から謝るのだった。


「は、はいなのですっ……本当に、ごめんなさいなのです……」

『…………分かった、今はその言葉で納得しておく。その代わり……帰ったらミッチリ説教するからな』

「あう……はいなのです……」

『それからもう一つ』

「……なんなのです?」

『アルミがプータローのために置いていった煙幕とか、催涙弾とか……ありがとな。助かったわ』

「っ……どういたしましてなのです」


 それからもう一度藤四郎に替わって、


『で、どうするよ。うちの大将は?』

「そんなのもう決まってるじゃないですか……あんなにアルミちゃんが世話になったのに、まさか燈子さんは何もしないんですか?」


 これは相当怒っているなと、真面目な口調でとぼける藤四郎に燈子は苦笑。


『ハッ……笑わせんじゃねえよ。世話になったらその分お返しするのがあたしのモットーだ。それがご近所付き合いってもんだろ?』

「さすがはアパートの管理人。ご近所付き合いはお手の物ですね」

『当然よ。そもそもお前とかれこれ何年の付き合いだと思ってんだ?』


 二人を結ぶのは決して短くない付き合い。だからこそこんなピリピリとした夜にも冗談に乗ってやれるのだ。

 それを誇らしげに藤四郎は笑った。


「ふふっ……確かに、そうでしたね……」

『何ならついでに友人としてお前のご要望を聞いてやるよ』

「それじゃあ……朝までに決着をつけましょう」

『おいおい、相手の数はまだ三十近くいんだぞ……』

「ここを逃せばクリーチャーは散り散りになって見つけるのが難しくなります。それに、アルミちゃんだって一人で同じ事やってるんですから」

『そういや、そうだったな。しゃあねえ、師匠としての面子を守るためにもいっちょ頑張るか』

「それと……燈子さんと似てるんですけど、コレは僕のモットーでもあるんです」

『へえ……、どんなモットーなんだ?』

「やられたらやり返す……倍返しですッ!」


 藤四郎の言葉を合図に、再び戦いの火蓋が切って落とされる。


 時刻は草木も眠る丑三つ時。

 クリーチャー連合の残党狩り、それは結果から言えば藤四郎達の圧勝であった。

 敵は指揮系統を失ったクリーチャー。

 驚愕の奇襲を受けた彼らに最早戦意はない。ただ敗色濃厚の現実を受け入れれないがために自ずと取り逃がした獲物を探して街へ繰り出しているだけで、それこそミノタウロス戦のような脅威はない。

 更に奇襲をかけた際に工場に残されていた特殊なインクを浴びせられているため深夜でも居場所が分かりやすくなっていた。

 対して藤四郎達は言うなれば統率されたゲリラ隊。

 作業としては至って単純。燈子主導の元、住民で手分けして各所屋上から蛍光色に光ったクリーチャーを探し出しマッピングする。後はそこへ藤四郎とアルミが万全の状態で、新月に一人夜道を歩く不用心なクリーチャーに奇襲をかけるだけというシンプルな作戦だ。

 悲鳴を上げる暇もなく次々と敗れていくクリーチャー達。それは傍から見れば正に『いともたやすく行われるえげつない行為』だっただろう。


「グッ……────クソッ……何だったんだァ、あれは……」


 クリーチャー連合、四天王が一人である竜人は朦朧とする頭を振って地べたから体を起こした。

 最後の記憶。

 煙幕の中で行われた奇襲を思い出して、忌々しそうに悪態をつくと、


「アア……?」


 何かで圧迫された腕が背中に張り付いて動かないことに気付く。

 首を回して見ればそれは腕に限らず、脚もロープで縛られているようだった。


「こりゃあ……どういう──」


 事だ、と。

 そう言いかけた鰐のような口を彼はつぐんだ。

 ギョロリと目を回して周囲を確認し、


「…………アア、そういう事かよ……」


 諦めた様な口調でそう呟いた。

 見慣れた忌々しい顔が一つと、自分を取り囲む仲間と思わしき男女。

 自分たちがアジトとして使用していたはずのがらんどうの廃工場。

 これだけの要素が揃っていれば自ずと受け入れがたい答えが頭に浮かぶ。


「俺が……最後のクリーチャーって訳か……」

「そうだ。クリーチャー連合、〆て六十五体。悪いけど無力化させて貰った」

「それで俺が六十六体目、か……それを、たったの一晩で? それも五人でか? ハッ……お前ら、俺ら以上にバケモンじゃねえかァ……」


 哀愁を漂わせながら口にした言葉には、どこか化け物であって欲しいという感情が籠っているようでもあった。


「残念ながら、この街に住んでいるというだけのただの人間だよ。怪力を持ち合わせている訳でも、無数の仲間がいる訳でも、無敵のシールドを持っている訳でもない。……僕はただの失敗だらけの人間さ」


 情けなく言う藤四郎を見て事実と受け取ったのか、ただ歯噛みして耐える竜人。


「クッ……殺せッ! このまま生きてても俺は恥さらしだ!」

「悪いけどそれはできない……アルミちゃん」

「はいなのです」

「待て、何をする気だ……俺に、俺達に恨みがあるんじゃないのか!?」

「無いと言えば嘘になる。アルミちゃんをここまでボロボロにした罪は大きい。絶対に許せるものじゃあない。だからこそ──」


 アルミは竜人に向けてれんじくんを構えた。

 すると竜人周囲の地面の砂粒が引き寄せられるように転がり始めていく。


「止めろ……俺はもうモノには戻りたくないんだッ!」


 やがてれんじくんの吸引力が高まっていく。

 自分を吸い寄せる風に対して地面に体を擦り付けて必死に抗う竜人だが、


「モノの癖にアルミちゃんを虐めた罪をここで償うんだっ!!!!」

「モノの癖にトーシローを虐めた罪をここで償うのですっ!!!!」


 尚も勢いを強める力になす術なく地面を滑って吸い込まれていった。


「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………──」


 そしてクリーチャー連合による一連の事件は最後の四天王を無力化することによって終焉を迎えた。

 気が付けば外壁の隙間から差し込む幾つもの光。

 全てを終えた五人はくたくたの表情でハイタッチを交わして、眩しいくらい明るい朝日を背に受けながらアパートに帰って行った。

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