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失敗無双  作者: 入ー田ン・マスク(ほんもの)
四敗目 幼女逃走編
24/34

窮鼠

「やっぱりちと無謀すぎたんじゃねえのかァ? 錬金術師のお嬢ちゃん」

「っ……!」


 四面楚歌。

 アルミは五十は優に上回るクリーチャーの軍勢に囲まれていた。

 暗闇から誰かが威勢よく命令を出しすと数匹のクリーチャーが一斉に飛び掛かった。


「っ……まだまだ……なのですっ!」


 アルミは隠し持っていた料理を投射。

 料理は催涙弾としての効果を発揮してクリーチャーを一撃で仕留めた。

 即座にれんじくんが以心伝心で回収して無力化する。

 ──二十一、二十二、二十三体。


「存外しぶといじゃねえェ……ガキだからと甘く見てたか?」

「しかし見てください。あの錬金術師、今にもくたばりそうですよ?」

「はあ……はあ……はあ……」


 僅かな時間の間に片手間でれんじくんに次の材料を装填。

 だがそれを見て周囲のクリーチャー達がアルミにじわじわと迫って包囲網を狭めていく。

 

 アルミが廃工場に強襲をかけてから既に十分が経過しようとしていた。

 固まって集会をしていたクリーチャー連合へ爆弾料理を一気に投げて一網打尽──とはいかず、他のクリーチャーに回り込まれ周りを囲まれ一転して不利な状況。

 それでも劣勢に備えて可能な限りの策を練ってきたアルミは、一人で大多数を相手に死闘を繰り広げていた。

 

 自然、疲労の色が濃くない訳がなかった。

 攻め込むまでに集めていた残弾も長期戦では心許ない。


(でも、やるしかないのですっ……)


 絶望的、だがまだアルミの目は諦めていなかった。


「ヒューッ、やる気満々じゃねえかァ……。お前らァ、びびってねえでこのクソガキをもてなしてやれ!」


 思いの外タフな宿敵に楽しそうに声を響かせると、仲間もそれに応える。

 いたぶる様に次々と動物型クリーチャーが己が体の武器を振り上げて、アルミはその全てを果敢に耐え凌いでいく。


「しかしそれも果たしていつまで持つでしょうか」


 二十八、二十九、三十、三十一、三十……──

 詰みあがっていく屍の数。

 続々と降り注ぐ敵の猛攻。

 

(早く、次の料理を……)


 れんじくんに放り込む材料をポケットから、


「あ……あれ……?」


 その指先が空を切った。


「ない……、ない……、ないっ……?!」


 尽きた。

 事前に作っていた料理も。

 戦闘中に調理するための材料も。

 悲痛の表情でれんじくんに振り返るが、体を左右に振って中身が空だと告げた。


「どうやら打ち止めのようだなァ……お嬢ちゃん?」

「あ……う……」


 遂にその顔に絶望が浮かんだ。

 地面に座り込み青ざめたアルミの前に近づくのは三人の人型クリーチャー。


「ミノタウロスを倒したからと言っていい気になって貰っては困りますね」


 両手に鉤爪を生やした毛皮に狼の頭を持つ男──人狼ウェアウルフ


「奴ァ我らクリーチャー連合の四天王の中でも最弱、勝てて当然だァ」


 槍を携え鱗に覆われ竜の如き頭と尻尾を生やした──竜人ドラゴニュート


「錬金術師ハ……殺ス……」


 二メートルは超える上背、褐色の肌に頭から角を生やした屈強な男──オーガ

 クリ―チャー連合、四天王。その残された三人が死に体の錬金術師を見物するべくここに揃った。


「さて、どう料理しましょうか。この軍勢でリンチにするか──」

「殺ス……磨リ潰シテ……殺ス……」


 素晴らしい提案に狂信者達の雄々しい蛮声が廃工場を震わせた。


「まあ待て」


 竜人が歓声を遮ると、観客は清聴しようと沈黙しだした。


「……まさか……見逃すとでも?」

「殺セ……錬金術師ハ……殺セ……」

「ハッ……流石にその冗談はきついぜェ……」


 二人の思い違いを竜人は一笑。


「リンチも、磨り潰しも、文字通りこいつで料理して意趣返ししてやるのもいいけどよォ……。この状況で逃げれるとはァ思えねえが、ミノタウロスの一件もある。念のため我が愛槍で両足を断っておこうと思ってなァ」


 衆人に見せつけるよう掲げた槍の切先が僅かな明かりに煌き、その鋭さを物語る。


「っ……!」

「ああ。それは名案ですね」

「異論はねえなァ?」

「ええ、勿論」

「……」


 二人の答えに満足そうに笑うと、竜人は槍を遊ぶように回しながらアルミに歩み寄っていく。


「死にたくなかったら動くんじゃねえぞ……」


 追い詰められたアルミは決心する。


「れんじくん、『出力制限限界リミッターマックス』っ……!」


 突如、アルミはれんじくんに呼び掛けた。

 もう出し惜しみなんてしてる場合じゃない。

 むしろ四天王が現れた今こそ好機だ。

 その心情が現れたように虹色の光がれんじくんを急速に進化させていく。


「嘘っ?! まだ動くだけの余力が……!」

「貴様ッ────!」


 竜人は即座にアルミの頭部を狙って槍を打ち込んだ。


「チィッ……」


 しかしそれは姿形を変えて立ちはだかるれんじくんによって防がれる。

 警戒して距離を取る竜人。


「……殺セ……殺セッ……!」

「オーガ、待ちなさいッ!」


 巨人オーガは仲間の制止を振り切ると、拳を振り上げて巨体を突進させていく。

 廃工場全体がその重量に震えて軋み始めた。

 だが、


「やっちゃえ、れんじくん!!」


 元の十倍近いサイズに膨らみ、中央に大砲の如き横穴が開けられた外見。

 まるで斜めドラム式洗濯機の様。

 違いを上げるとすればその挙動。

 円形の扉を開けた瞬間、内部のドラムが光を伴い急速に回転しだしたのだ。


「なんだアレはッ……?!」


 竜人が疑問の声を発したと同時、答えが判明する。

 光がドラムの中で限界まで収束すると光線となって飛び出し、鬼の巨体を飲み込んだ。


「ウッ──ガアアアアアアアアアアアア──────!!!」


 れんじくんが飲み込んだのは鬼だけではない。

 即座に身を屈めた竜人の躱し損ねた長槍、彼らの後ろに控えていた軍勢、廃工場の支柱や鉄壁──それがなんであるかを問わず、直線状にあった全てを無に帰した。

 直撃を受けていた鬼は、光の照射を避けた僅かな肉片だけを残して消え去った。

 余りの威力に驚愕する一同。


「馬鹿な……これが……これが錬金術師……?」


 アルミは震える体をれんじくんにしがみ付いて立たせ、精一杯の虚勢を張った。


「はぁっ……はぁっ……ハイレベル錬金術師……アルミちゃんを、舐めるな……なのですっ……!」


 街のため。

 アパートの皆のため。

 藤四郎のため。

 なんとしてでもここで彼らの企みを食い止めなくてはならない


「モノの癖に人類滅亡を企んだ罪を……ここで償うのですっ!!!」

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