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失敗無双  作者: 入ー田ン・マスク(ほんもの)
四敗目 幼女逃走編
22/34

三つの失敗

 言い当てられた瞬間、心臓が凍り付いたかと思った。


(万事休す……)


 そう観念すると、ゆっくりと被っていた段ボール箱を捨てた。


「フン、当然自分らか」

「トーシロー……」


 せめて怯えているアルミの盾になろうと、藤四郎は彼女を隠す様に一歩前に出る。


「僕なら好きにしろ……その代わりアルミちゃんだけは……」

「だ、駄目なのです……」

「いいから……」

「ハッ……。自分ものごっつうええ人やんけ。ただ、そのお願いは流石に聞けへんなあ」


 悔しい。

 こんなに悔しいと思ったのは生まれて初めてだ。

 自分の無力さ加減が悔しくて、痛いくらいに拳を握った。

 もう自分にできるのは時間稼ぎだけなのだろうか──


「……なんで分かった?」

「せやなぁ……まあこれも冥途の土産に教えたるわ。あ、一本ええか?」


 藤四郎が妙に余裕があるミノに警戒しつつ慎重に頷くと、


「おおきに。仲間が居るとなかなか吸えへんねん」


 ミノは尻のポケットから煙草を取り出すと一本、旨そうに吸い始めた。


「ふぅ……。ダンボールは目の付け所がええな、うちの仲間くらいなら騙せるやろ……。せやけど、ワイには通用せえへん」

「何……?」

「人型は単なる大きさやないっちゅうことや。ただ物をベースに進化しただけの雑魚と、更なる進化を遂げたワイはまるっきり性能がちゃうねんで。特にワイなんかこんな見た目しとるおかげか、足の速さも力も他のもんとは一線を画しとる。勿論、嗅覚もな」

「匂い……」

「せやから見んでも分かったで。この辺に汗臭いおっさんとしょんべん臭いガキがおるなあって」


 やっと煙草が吸えたおかげか、弱った獲物を見つけたおかげか。

 上機嫌にそう締めくくって、ミノは吸いかけの煙草を後ろに捨てた。


「おしゃべりはここまでや──」


 それを見た瞬間、藤四郎は脳裏にある『失敗』が閃いた。

 仲間を連れず一人で現れたのも、

 敵を前にして煙草を吸いだしたのも、

 お喋りが過ぎる性格も──


「アルミちゃん──!」

「悪いがこちとらおどれらに恨み満載なんでな──」


 目配せするとそれを言うまでもなくアルミは阿吽の呼吸で実行に移す。


「れんじくん!」

「消えて貰うでぇ!」


 即座、二つ目の段ボール箱に隠れていたれんじくんが姿を現した。

 ミノの背後に回ってまだ煙を燻らせている煙草を拾うと、蒸気を噴き出しながら急速に調理を開始し始めた。


「な……何ィィィイイイイイイイ!?」


 錬金術を使わせる隙を与えないつもりだったにもかかわらず、自分の煙草が材料に使われ、後ろを取られたことに驚愕するミノ。

 集めた情報では錬金術には時間がかかるという話だったが、


(俺がこのガキを蹴散らすのが早いかどっちだ……!?

 ……いや、先にこっちを壊せばいいだけの話だッ……!!)


 刹那、ミノは迷った末に万全を期すべく振り返った。


「こっちだァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 拳を握りなおして振り下ろすミノ。

 急速にタイマーのカウントダウンを刻んでいくれんじくん。


(ワイのほうが先や……! 勝ったッ! 四敗目完!)


 否──


「ガッ────…………何、だと……?」

「ハアッ、こっちが本命だよ……それで、次回から誰がアルミちゃんの保護者をつとめるんだ?」


 鈍い音と共に、ミノの巨体が地面に沈んでいく。

 意外、それは金属バット。

 隙を見せたミノの頭部に向けて藤四郎が背後から振りかぶっていた。


「お前は三つの失敗を犯した……。強者だからと言って余裕ぶらず直ぐに殺せば良かったし、錬金術師の前にわざわざ材料を投げ捨てる必要なんてなかった。そして何よりも、敵が錬金術師一人だけだと侮った。それがお前の失敗だ、ミノタウロス」


 藤四郎が初めてクリーチャーに会った時、AJフィールドが発動する事無く触れることができた。

 隙さえあればクリーチャーに対抗できるということを藤四郎は良く知っていた。


「クソ……たかが人間が……人間の、分際で……」


 いかに強靭な肉体をしていても頭は鍛えようがなかったのか。

 ミノは眩暈をおこして起き上がれず、アスファルトの上で呻き続けている。

 歪んだ世界で必死になって這いつくばり藤四郎を探すミノに向かって、


「これで止めなのです。モノの癖に悪巧みをした罪、ここで償うのです!」


 れんじくんから直接放たれた煙草型の菓子をミノが口に含んだ瞬間、


「あああっ! ぐにゃあっ……」


 煙を吸う所か逆に体を吸われ、ミノは紫煙となってれんじくんに戻っていった。

 そして、


「そ、そんな……嘘ニャろ……?」

「王が……」

「ッシュ~……なんて恐ろしくヘヴィなやつらなんだ……」


 気付けば二人の周りを取り囲むようにクリーチャーが集まっていた。


「っ……今度こそは、駄目か……」

「そんな……」


 絶体絶命──かと思いきや、どこかその様子がおかしい。


「お、俺は連合を抜ける……」

「俺も……」

「ぼ、僕も……!」

「連合に居たら幼女に捕まっちまう!」

「ロリコン怖ぇええ……!」


 誰かが呟き始めた不安が新たな不安を呼んで感染が広がり、


「ま、待つニャ……! クソッ……覚えてろニャ! この仮はきっちり、残りの四天王様が返してやるミャ!」


 二十近く居たはずのクリーチャーはいつの間にか視界から消えていた。

 目の前で起きた奇跡に二人は茫然とその場に座り込んだ。


「た、助かった…………のか…………?」


 未だに信じられないといった様子で呟く藤四郎。


「ぷしゅ~……なのですぅ……」


 張り詰めていた緊張の糸が切れ、一気に脱力するアルミ。


「やった……助かったんだ……アルミちゃん!」

「トーシロー……良かったのです、無事で良かったのですっ……!」

「うん、うん……!」


 苦心の末に九死に一生を得た二人は熱く抱擁を交わした。

 人目を気にせず、ただ今生きているという喜びを互いに分かち合った。

 しかしアルミは──

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