猪突失敗
※2017/11/19あとがき削除
アルミのアホ毛センサーを頼りに町を駆け回ると、そこは住宅街の中にぽっかりと空いた空き地だった。
そこで三人は俄かに信じがたい光景を目にする。
「な、なんだ……?」
「こっ、これは……!」
「…………っ!」
空き地では小さな子供が怪しげな亀に虐められていた。
「観念するカメェ~!」
「ふぇええええ……誰か助けてえええええ!」
小学校低学年くらいだろうか。
何やら覆い被さろうと四肢を動かす亀に女の子は必死に抵抗していた。
女児と亀という不思議な組み合わせの所為か、動揺を隠せない藤四郎。
「な、なんだあの亀は……」
「違うのですトーシロー! よく見るのですっ!」
「えっ……?」
「おい、プータロー! あれはお前の部屋にあった……!」
「まさか……!」
否、亀ではない。
それは藤四郎にとって見覚えのある大人気コミックスだった。
薄着の登場キャラクターが悪魔的微笑みで主人公に絡みつく表紙を甲羅に、頭と尻尾と手足を生やした亀が意思を持っているかのように動いていたのだ。
「まさか、クリーチャー!?」
「そうなのです……。本が亀さんの形に進化しているのです……」
「なんでまた亀に……」
疑問を口にしていると、藤四郎は何やら亀が喋っている事に気付く。
「早くこの裸の女が出てくる人気漫画を読むカメェ~」
「やだああああ! わたしまだ大人になりたくない!」
「いい加減観念するカメェ~。全年齢の少年漫画だからセーフカメェ~」
「全年齢は全裸でそんなプロレスみたいな倒れ方しないもん!」
怪しげな言葉で少女を惑わそうとするクリーチャー。
俯せになって目を逸らそうとする女の子に対し、露出狂さながら自分の体を見せびらかしてへこへこと漫画を押し付けていた。
ワンピースの裾が不自然に捲りあがり女児の艶めかしい太ももが見え隠れする。
許せない事案に闘志を燃やす燈子と藤四郎。
「白昼堂々こんな小さな子供に襲い掛かるなんて、なんてゲス野郎だ……」
「いくら成人向けではないとはいえ、あのエッチな漫画を無理やりだなんて!」
休日に女児がこんなトラブルに襲われるなんてダークネスも真っ青だ。
一刻も早く助けなければならない。
「というかなんであのクリーチャーはあんなことを……」
「お前がアレを読んでいやらしいこと考えてるせいじゃねえの?」
「僕のせいなのっ!? 悪いのはあの亀じゃないですか!」
亀のした事と藤四郎を結び付け、まるで身内から犯罪者がでたかのように蔑んだ眼で見つめる燈子。
なんとか弁明しようと藤四郎はアルミに助けを求めた。
「ねえアルミちゃん? なんであのクリーチャーはあんな事をしているの?」
「クリーチャーは本能のままに動くのです」
「本能……?」
「そうなのです。ゲームなら遊んでもらいたい、漫画なら読んでもらいたい。
……そういった凝縮された思いが錬金術の力で解き放たれているのです」
「じゃ、じゃあこの間の履歴書が川に飛び込んだのは……?」
「持ち主の思いが強いと、それも一緒に具現化されてしまうのです」
「つまり……」
「きっとトーシローが面接から逃げ出したいという強い思いによるものなのです」
自分の事ながらなんて情けない話だ。
「じゃあやっぱりあそこでヘコヘコしてるのはプータローの小さな女の子を『バキュンバキュン』したいっていう思いの現れなんじゃねえか……」
「なんでも僕に結び付けないでくれますか?!」
そう言いつつも一気に罪悪感を感じてしまう藤四郎。
兎にも角にもあの亀を何とかしなくてはならないだろう。
「悪いけど……平和のために完結してくれ……!」
藤四郎は背後から亀に襲い掛かると、強引に引きはがして放り投げた。
都合よく落ちている金属バットを手にして少女との間に割って入る。
「逃げて!」
「でも……」
「いいから!」
藤四郎の身を案じてか、心配そうに見つめ返すワンピースの少女。
「やっぱりその……ちょっと読んでみたいし……」
「たぶんブック〇フとかに行けば読めるから!」
「教えてくれてありがとう、えっちなおじさん!」
「まるで僕が不審者みたいな言い方はやめて!」
無事にブック〇フに出かけたのを見届けて、改めて藤四郎は敵と向かい合う。
亀も藤四郎を敵と認識したのか、少女を追いかける様子はない。
緊張で汗ばむ両手でバットを握り直し、亀に向かって飛び掛かった。
「駄目なのですっ、トーシロー!」
バットが亀に振り下ろされた瞬間。
まるでそこに壁でもあるかのように藤四郎の攻撃は空中で静止した。
「A〇フィールド……!?」
力場に阻まれた藤四郎は目視不可能な衝撃波を受け、一気にブロック塀にまで吹き飛ばされる。
ブロックにヒビが入るほどの衝撃に目を回す藤四郎。
「今プータローと亀の間に何かが見えた様な……」
「AJフィールドなのですっ」
「知っているのかアルミ!?」
「うむなのですっ……アレはクリーチャーが使う盾みたいな物なのです。このAJフィールドを使われると、クリーチャーには普通の攻撃が通じないのです!」
「じゃあ一体どうすりゃあ……」
「わたしの出番なのですっ!」
そう叫ぶとアルミはれんじくんを連れてクリーチャーの前へと躍り出た。




