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失敗無双  作者: 入ー田ン・マスク(ほんもの)
二敗目 幼女日常編
13/34

原因はロリコン

※2017/11/19あとがき削除

 赤い空を背景に烏が鳴きだす頃。

 勘解由小路花凛は憂鬱な表情で下校していた。


「今日は最悪の一日ですね……」


 今朝の騒動のせいで朝食を食べ損ね、午前中は空腹でストレスが最高潮マッハ

 おまけにこれからその変態が住むアパートに帰らなけれなならないのだ。

 憂鬱にならない訳がない。


「人が甲斐甲斐しく朝食を作りに行ってみれば、半裸で幼女にプロレスごっこだなんて。不潔です、鳥葬されればいいのに」


 思春期の真っ只中にこんな事件に遭遇すれば、今後の男性不信のきっかけになってしまっても可笑しくないだろう。

 それが自分の住むアパートで起こっているのだから世も末だ。

 あれ以来花凛は、もう顔も見たくないと思っていた。


「なのにこんなメールを寄越すなんて……燈子さんってば」


 午前中、燈子から花凛の元へ送られた一通のメール。

 文面は、その変態が自分に何か言いたいことがあるらしいから話を聞いてやってくれ、という内容だった。


「こんなの読んだら、聞かない訳にいかないじゃないですか……」


 燈子には管理人の娘として人生の先輩として、色々と相談に乗ってもらったり気を利かしてもらったりと、世話になっている。

 その恩があるためメールを無視することなんて花凛にはできない。


「でもこっちも来てるんですよね……」


 もう一通は午後届いたメールだ。

 こちらも送り主は燈子で、うちのアパートから犯罪者が出たので一発殴って追い出しておいた。煮るなり焼くなり好きにしていい、とのことだった。


「どっちを優先するべきですかね……」


 毎日の自炊で煮るのも焼くのも得意なのでどっちの案も可能だ。


「それでも犯罪者だなんて、穏やかじゃないわね」


 いや今朝の出来事もまるっきり犯罪か。

 何のことはない、要はあの変態がまた何かやらかしているのだ。

 当人に言わせれば、また失敗しているのだろう。

 いつもの如く。


 やがて花凛はアパートが見える辺りにまで差し掛かる。

 そのアパートの前でブロックに座って黄昏ている不審者が一名。

 大方自分を待っているのだ。

 正直、話を聞きたくもないのだが、


「分かってますよ……」


 自分の気持ちと折り合いを付けながら、花凛はアパートにたどり着いた。


「あっ、花凛ちゃん、お帰り」


 花梨は不審者の前で立ち止まると、


「こんな所で何してるんですか、藤四郎」


 三十近いおっさんの癖に就職して働きもせず、のうのうと生きてる変態──東堂藤四郎を見下して話しかけた。

 藤四郎はそんな花凛にへらへら笑って、


「あの、朝の事なんだけど」

「言い訳は聞きたくありません」


 顔も見たくないのと思ってるのは本当だ。


「本当にごめん。僕が悪かった」

「謝らなくて結構です」


 自分の事が嫌いになるくらい毎日失敗ばかりなのに、情けない顔で何とか笑おうとしているのが花凛にも分かる。


「本当は昨日の内にみんなに言っておくべきだった」

「何も知りたくありません」


 そんな笑い方は腹が立つし、見たくもない。


「特に花凛ちゃんには世話になってるし、ちゃんと話すべきだった」

「もう顔も見たくありません」


 何よりも彼の失敗を理解できない自分に、無性に腹が立つのだ。


「許してもらうためだったら……僕にできる事だったらなんだってする。本当に今朝の事は悪かった、許してほしいっ!」

「じゃあ──私の料理の勉強を手伝いなさい」


 そう言って花梨は指を突き付けた。

 ポカンと口を開けて間抜け面を晒す藤四郎。


「私の声で目を覚まして、私の作った味噌汁を毎日飲んで……それから、私の手料理を食べて、毎日ちゃんと『今日も美味しいね』って笑いなさい」

「か、花凛、ちゃん……?」

「悪いけど、私には藤四郎が毎日しでかす失敗なんて一ミリも理解できません。そもそも私はあんたみたいなヘボじゃないですから」

「……」

「でも藤四郎が失敗しても毎日笑えるように手伝うことはできる」

「…………っ」

「その代わり藤四郎も私の料理の勉強を手伝いなさい。命令です」


 藤四郎は思わず破顔した。


「ハハハ、それじゃあいつもと変わらないじゃないか」

「何? 文句でもあるんですか?」

「いや、何も」


 花凛の一睨みに藤四郎は意味深な笑みを浮かべた。

 改めて花凛は藤四郎から話を聞きだす。


「それで……結局、あの子供は何なんだったんですか」

「実は異世界の錬金術師の幼女が降ってきて……」


 藤四郎が真面目な表情で説明しだすと明らかに怪訝な顔で、


「どこかで頭でもぶつけたんですか?」

「いや本当なんだって! ヘルメガルズっていう所から来た錬金術師なんだよ!」

「そういう設定なんですか?」

「自分で名乗ったの! 実際にパラシュートもなしに空から落ちてきて、ドロップキックしてきて、履歴書を謎の物体Xに変えちゃうし……」


 理解不能だ。

 花凛はおもむろにスマートフォンを取り出して、


「花凛ちゃん? どこに電話しようとしてるの?」

「救急車」

「僕はどこも悪くないよ!?」

「ロリコンの癖に」

「誤解だよ! アルミは道端で拾っただけで……」

「通学路で誘拐……重度のロリコンですね」

「する訳ないじゃん! っていうかまたどこに電話かけてるの?」

「ブラッ〇ジャックに」

「そんな法外な手術費用払えないよ!」

「幾つか売ればいいんじゃないですか? 臓器とか」

「さらりと怖いこと言わないでよっ!」

「ついでに下半身の粗末なアレも切ってもらえば治るんじゃないですか?」

「だから僕はロリコンじゃないよ!」

「ロリコンはみんなそう言うんです」

「じゃあ、僕はロリコンです……?」

「うわっ……」

「何言わせてるんだよ!」


 文句が多いなあと眉をひそめながら渋々スマートフォンを仕舞う花凛。

 閑話休題。


「まずその物体Xってなんなんですか……」

「ええっと──ああ、ちょうどあんな感じの……」


 と藤四郎が指差す先。

 アパートの一室からぞろぞろと謎の生物が飛び出すのが見えた。


「なんですか、あれ……」

「アルミちゃんが言うには『クリーチャー』っていう……」

「アルミって藤四郎が犯そうとしてたあの……」

「いや違うからっ! 僕は起こそうとしてただけだからっ!」

「事件を起こそうと」

「僕は無罪だ!」


 よく見ればクリーチャーはどこか見たことがある外見をしていた。

 その見た目は日用品から家電まで様々。

 成程、履歴書がアレになったというのも頷ける話だ。


「というかあの部屋、藤四郎の部屋ですよね」

「えっ? 嘘? あ……ちょ、待って! どこにも行かないでえええええ」


 慌てて捕まえようと藤四郎が追いかけると、驚いたクリーチャーは四方八方に散らばり始める。

 二兎を追う者は一兎をも得ず。

 クリーチャーは藤四郎を惑わすと見事一匹も捕まらずに逃げ出すことに成功した。


「……また失敗しちゃったよ」

「見事なフットワークですね、あのクリーチャー」


 藤四郎が突っ込む気力も見せないでいると、部屋から燈子と一人の子供。


「よっ。お帰り花凛」

「ただいま、燈子さん」

「燈子さん! 一体何やってるんですか!」

「いやあ悪い悪い。アルミに錬金術見せてくれってせがんだら失敗しちゃって」


 そう言いつつ一切悪びれる様子もない燈子。


「悪いじゃないですよ! 勝手に人の物を……」

「勝手に人の裸見ておいてよく言うぜ」

「うぅ……」

「ごめんなさいなのです、トーシロー……」

「いや、あー、うん……次は気をつけてね?」

「はいなのですっ!」


 幼女が申し訳なさそうに謝るのを見て、怒ることができず意気消沈。

 何とも情けない藤四郎を見て花凛は、


(藤四郎の一番の失敗は、あの子を拾った事ね)


 アルミによって今後も藤四郎に災難が降り続ける予感を他人事のように感じるのだった。

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