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プロローグ

※プロローグは読み飛ばしても問題ありません。

 街はずれ。老朽化した家が立ち並ぶ寂れた住宅街に一棟のアパートがある。

 そのアパートの一室から、破裂するような爆音が響き渡った。


「また失敗しちゃいました……」


 そう言って五頭身の幼女アルミは床に崩れ落ちるとトホホと溜息を漏らした。

 

「大丈夫大丈夫。失敗は誰にでもあるよ」


 そんなアルミを二十代後半の男、東堂とうどう藤四郎とうしろうは優しく励ます。

 傍目には犯罪臭を感じさせる組み合わせだが、藤四郎は平然とした様子。


「トーシローにもですか?」

「そりゃもう。だって先週は大家さんに先々月の家賃をせびられた時についコノハゲって言っちゃったし」

「あっ! そういえばありましたねっ」

「あと大家さんに貸してもらった扇風機をうっかり首の所を折っちゃったじゃない?」

「私が直したやつですね、金ぴかの成金仕様に!」

「そうそう。でも返すときにハゲ仕様ってつい言っちゃったし」

「ありゃりゃ」

「そしたらまた真っ赤になって怒ってたから『どっちもツルピカでお似合いですよ』って言ったら怒られちゃったし」

「ニンゲンカンケーって難しいですね……」


 うーんと難しそうな表情で悩む様は藤四郎から見ても十分可愛い。


(アルミちゃんは人間界に来て日が浅いから、自分が責任を持って手取り足取り教えないと!)


 そう考えながら真面目な表情でうんうんと頷く藤四郎。


「本当にそうだよ。前にバイトの面接に行った時も『やる気はありますか』って聞かれて素直に『ないです』って言ったらもう来るなって言われちゃったし」

「うーん、気難しい人ですね」

「まあそもそも履歴書買うのをケチって持っていかなかったから、それで駄目だったみたいだけどね」

「あちゃ~><」

「あの時は本当に大変だったよ。だってあのコンビニ、家から一番近い所だったから」

「あー! じゃあそれからどうしたんですか?」

「それから次は履歴書持って来ますからって約束して……そう。その約束した次の面接に行く時にアルミちゃんと出会ったんだよ」

「あれがそうだったんですか!」

「うん。あれが僕らの出会いだったんだ」


 忘れもしない。いや忘れるなんてできっこない衝撃的な失敗だった。

 その突然の出会い以来、藤四郎はこうしてアルミと同居している。

 倫理的な問題もあるかもしれない。

 経済的な問題は何よりもある。

 しかし藤四郎はこの世界に住む場所のない彼女を放っておくこともできず、なし崩し的にアルミを自分の部屋に招き入れていた。


「その節は本当に大変ご迷惑をおかけしました……」


 つい嫌な記憶を思い出してしまったのか、ずーんと気落ちするアルミ。

 事件の当事者として色々と責任を感じているのだろう。

 だからこそ藤四郎はあえて明るく声をかけた。


「大丈夫だよ、アルミちゃん!」

「トーシロー……」

「言ったでしょ、失敗は誰にでもあるって。失敗してるのはアルミちゃんだけじゃない、僕もなんだよ。だから恥ずかしくないし、つらくない」

「トーシロー……!」

「それに僕が教えたこと、もう忘れたの?」


 藤四郎が尋ねるとアルミは「ぐっ」と両拳を握って迫った。


「失敗は成功の母ですっ!」

「そうそう。だからどんどん失敗して、少しずつ成功して、頑張って神様錬金術師ゴッドアルケミストになろうよ!」

「はい! トーシローはアルミの母なのです!」


 アルミはすっかり元気を取り戻した様子。

 その柔らかい髪を藤四郎はわしわしと優しく撫でた。


「よしよし」

「むふー。そういえばトーシロー」

「うん、どうしたの?」

「トーシローとお話して出てくる話題って、なんだかコンビニとアパートばかりですね!」

「うん……無職だからね……」

「無職だとそうなるんですか?」

「お金がないと行動範囲が狭いからね……」

「へ~、無職って大変なんですねっ」

「うんうんそうなんだよ大変なんだよ。本人が働きたくても色んな事情で働けないんだからね」


 いとも簡単に藤四郎のハートにダイレクトアタックをぶちかますアルミ。


(ついつい失礼なことを言っちゃうのは僕も同じだ。なのにアルミちゃんにばかり怒るのは失礼だからね)


 どんな失礼な質問にも藤四郎はそう自分に言い聞かせて丁寧に答えるのだ。

 その温和な表情には藤四郎の寛大な優しさが滲み出ていた。


「そうだ、アルミちゃん」

「はいっ、なんですか?」

「アルミちゃんがさっき失敗したやつ、戻しておいてくれないかな? このままだとちょっと落ち着けなさそうだし、ゆっくり回想もできなさそうだし」


 藤四郎は先の爆発によって真っ黒に吹き飛んだ部屋の惨状を見回しながら言った。

 『ちょっと』と控えめに言いつつも家電や家具の大半がひしゃげて通常の生活すら送れない状況になっている。


「あっ、はい、ただいま!」


 そう言ってアルミは背中越しに無傷の電子レンジをむんずと掴み取り、問答無用でダイヤルを回した。

 するとたちまち部屋が光に包まれ、あれよあれよと元に戻りだす。


「本当に、大変だった毎日だった──」


 藤四郎は発光に瞼を閉じて、ふと思い出す。


 全ては運命の失敗から始まったんだ。

 ハイレベル錬金術師アルミと東堂藤四郎の壮絶な失敗無双の毎日が──

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