標的02 圭の憂鬱
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朝の涼しい風が窓の隙間から吹き通り、滑らかな白い肌の輪郭をなぞる。
「……」
圭はゆっくりと目を開け、ぽーっと裸眼の侭天井を見つめた。
―何故目覚ましも無しに起きたのだろう? もっと寝ていても良い筈なのに…
そのまま上半身を起こすと、圭の視界に何かが飛び込んで来た。
「ちゃお。」
タイミングが良さ過ぎる、ネロの登場に圭は相変わらず呆れた。ワザとなのだろうか。
「今日はやけに起きんのはぇーな。」
圭の気持ちを察知したかの様な勘の良さを褒めてやるべきだろうか。圭はボサボサの髪を適当に押さえつけながら顔を俯け、甘い吐息の様な溜息を零した。
「丁度良いな……お前の力の説明をまだしてなかったからな。この際だ、教えてやる。」
ネロは、圭の右隣にある机に飛び乗り鼻で笑った。圭はそんなネロを見ると首を少し傾げて、自分の掌を見つめた。自分の力……
「グウィードファミリーの歴代ボスは皆、独特の力を持っていたんだ。“マフィア界最強”と唱われる、伝説の能力をな。」
すると、頭の上に乗っている黒い子猫を腕で抱いた。圭は裸眼のままその行動を眺めていた。
「キングも只の黒猫じゃねぇぞ? グウィードファミリーに代々伝わる“幻の黒猫”だ。こんな感じにオレの意のままに姿を変化させる事が出来んだ。すげぇだろ?」
そう言いながらネロは黒い子猫を様々な物に変化させた。銃、靴、鞄、テレビ……
圭は「は、はぁ…」と呆れながらも一応反応を見せている。
ネロはキングを、例の黒い片方しか無いグローブに変化させた。圭はそのグローブが視界に入るとハッとした。
「それ…昨日白夜君と不注意で戦った時に使った…?」
「あぁ。」
露骨にネロは返事を返した。憶えていたのか。
「自分は、自分の意思では戦ってないからね。」
ネロは思わず「ぁ?」と零してしまった。圭はそんなネロの行動を見て疑問符を飛ばした。
「(こいつ……フン、そうか。)―お前はお前の意思で戦ったんだぞ。昨日、白夜と。」
圭は「え…」と呟いた。ネロの不敵な笑みは絶える事無く圭を射抜いた。
「お前はあの時、自分を守る為に自分でどうにかしようと思った。その時オレがこのグローブをお前に使ったからお前はああなったんだぞ?」
「まぁ、完全にはお前自身がやったとは言えねぇがな」と言い、ネロは窓の枠に軽々と移動して
綺麗な青い空を見上げ、鼻で笑った。
「…つってもお前はまだマフィアの中では赤ん坊レベルだからな。これからオレがビシバシお前を教育して行くぞ。…逃げんなよ?」
圭は―逆らったら面倒な事になる―と直感し、再び甘い溜息を零した。
するとネロは勢い良く圭の頭に足蹴りをかました。圭はその攻撃に驚き、攻撃を食らった場所を痛そうに擦った。
「痛……!―「ボーッとすんな、圭!」」
ネロの方を見ると、何故か機嫌が良さそうにニヤ付いて部屋のドアを開けていた。
「遅刻しても知らねぇぞ?」
そう言うとネロは部屋を出て行った。圭は首を傾げて、ネロの言葉の意味を考えてみた。
「遅刻って……ぁあ!?」
偶々視界に時計が入ったのに気付き、見てみた。すると既に家を出なくては行けない時間をとっくに過ぎていた。
「ち、遅刻だぁぁ!」
圭は急いで仮の制服を着て、眼鏡をかけて、髪を整えずに部屋を出た。
今日もいつもの様に平和に…
しかし、その圭の儚い願いは聞き届けられなかった―