標的01 訳アリの編入生
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学校に着くと、圭はいつもの光景に溜息を零した。
黒椿学院の生徒は殆ど全員、高級車に乗って登校して来るのだ。圭は住む世界が違う事を理解しながらも、呆れて顔を俯かせて自分の教室へ向かった。
「よっ! 圭。」
爽やかな笑顔の少年が挨拶して来た。
「お、おはよう…山歹君。」
少年は爽やかな笑顔のまま「一緒に行こうぜ」と圭を誘い、1ーC組に入った。
山歹は唯一圭に熱心に話しかけてくれる人で、その爽やかさが女子にも男子にも大好評だった。
圭は自分の席に着くと、教科書類を机の中に入れて腕を前で組み、顔を伏せた。
前の席の山歹が圭の頭を人差し指でツンと突き、圭はばっと飛び起きた。眼鏡の先には愉快そうな山歹が爽やかに笑んでいた。
「今日転入生が来るらしいぜ。こんな時期に変だよなー。」
「そ、そうだね……。」
ずれた眼鏡を元の位置に戻しながら頷いた。心臓に悪い。
チャイムが鳴ると同時に生徒達はぞろぞろと教室に入り、自分の席に着いていった。そして担任が入って来た。
「おはようございます。……既に知っている人も居ると思いますが、この学級に転入生が来る事になりました。」
先生がその言葉を口にした瞬間、生徒達がざわつき始めた。
「やっぱり本当なのな。転入生って…。」
「うん……。」
圭は腕を前に伸ばしながら山歹に渋々頷いた。本当はもっと寝ていたい。
「で、では。転入生、入って来て下さい。」
少し臆病気味に先生は指示を出した。するとだらだらと教室のドアが開いた。生徒達の目が一斉に開くドアの方へ注いだ。これだけ注目が集まっていたらかえって可愛そうだと圭は思った。
転入生が視界に入った。
* * * * *
上履きの踵を踏んでいて、腰まで降ろされているズボンには髑髏が所々付いた鎖やチェーン。
中に入れてない白いシャツの上に黒い洒落たセーターを着ている。見事に輝いている銀髪に綺麗な白い肌が異様に引き立つ。
―無愛想な表情の美少年が立っていた。
「えー……イタリアから遥々編入してきた白夜君です。」
先生は転入生に気を使って優しく言っているが、当の本人はそんなの必要ない様だ。
転入生は眉間に皺を寄せながら、無愛想に生徒達を見下している。
「で、では、…白夜君はあの席に座って下さい。」
先生もこの転入生は苦手なのか、異様に臆病に圭の斜め後ろの席を差した。
転入生は何も言わずに周りに居る生徒を睨みつけながら席に向かった。
「(怖いな…ああ言う人がマフィアに相応しいと思うけど……。)」
圭は歩いて来る白夜と目を合わせない様に、自分の足下を見た。
白夜は鞄を肩に掛け、席の方へ歩いていくと圭の所で足が止まった。圭もその足が止まった事に気は付いたが、ぼーっと机の角を眺めていた。しかし直ぐに白夜は指定された席に向かって歩き出し、座った。
空気が凍ったが、なんとか生徒達のざわめきにより凍解された。
「なんか…お前を睨んでなかったか? 」
圭は山歹が呟いたのに気付き顔を上げ、疑問符を並べた。
「へ…?」
全くと言っていいほど転入生の事を重視していなかった圭は分からなかった。
動体視力と反射神経の良い山歹は「うーん…」としばらく考えて
「だよな。初対面なのに睨まれる理由もねーよな。」
と爽やかな笑みで返し、前を向いた。圭はしばらくきょとんとしていた。
「カッコよくない? あの転入生…」「ねぇ。なんか帰国子女って素敵〜」「あの無愛想さがまたねー」
女子はとても浮かれている。そんなにも無愛想な転入生が良いのだろうか。
圭はぽーっと無垢な空を見上げた。眼鏡に映る、レンズ越しの空。
「(早く帰って寝たいなぁ…… )」
誰にも気付かれない様に溜息を零し、圭はぼーっと雲の流れを見つめていた。
白夜はそんな様子の圭をじーっと観察していた。
「(あれが…例の…。)」
その白夜の瞳には、炎が燃え上がっている様に見えた。