標的01 記憶の鎖
STORY 2 PARRT 1
「起きろ、朝だぞ。」
「…ん…?」
春らしい風と共に明るい日光が差し込んで来る。圭はゆっくり上半身を起こし、目をこすった。
「ちゃお。」
目の前にネロが立っていた。得意なあの笑みが嫌に似合う。
「あ、あのさ……。何で自分の部屋に居るの?」
「オレはお前の家庭教師だぞ? 朝から晩まで見張っとかなきゃな。」
「……はぁ。」
蝶の羽ばたきの様な溜息を零した。ネロはそれを聞くと黒い子猫を銃に変化させた。
「文句あんのか。」
圭は必死に否定した。ネロはつまんなさそうに銃を元の黒い子猫に戻した。
机の上に置いてある自分の眼鏡を掛け、圭はベッドから出た。
「それにしても…お前の家って本当庶民風だな。」
ネロは机の上に立ち、圭の部屋中を見回しながら言った。
「余計なお世話だよ……。」
圭はベッドの毛布をきちんと畳み、ネロの様子を見て呆れ返った。
そう言えば昨日って何かあった様な…
「圭、お前、昨日の事覚えてるか?」
ネロはいつの間にか机にコーヒーセットを準備していて、エスプレッソを飲みながら唐突に聞いた。
「それ……どこから持って来たの?」
「イタリアからだ。お前も飲むか? ……砂糖は一杯につき3杯が鉄則だからな。」
「…遠慮しときます……。」
圭はネロに気付かれない様に再び溜息を零し、クシャクシャな髪を適当に手で押さえつけた。
「……昨日のあの一戦で、お前はマフィア確定されたからな。」
ネロは呑気にエスプレッソを口にしている。圭はその言葉に振り向いた。
「え? …なんて…?」
「お前、昨日何があったのか覚えてねぇのか。」
圭は昨日の事を記憶の鎖を辿りながら思い出した。しかし、一部分が思い出せない。
「まぁ、覚えていないのも無理はねぇ。初めてあの特殊グローブを使ったからな。」
「グ、グローブ?」
「あぁ。……これだ。」
ネロは黒い子猫を昨日の黒い片方しかないグローブに変化させた。
「…あぁ、昨日ネロにそれで額を……。」
圭はふと時計を見た。既に7時50分を過ぎていた。
「うわぁ。ち、遅刻だぁっ。」
制服が掛かっているハンガーと、登校用鞄を持って部屋の扉を開けかけた。
「あ! あと、絶対に学院に来ないでよっ。ネロが来たらなんか事件が起こりそうだし…。」
「早く行かねぇとコイツをぶっ放すぞ。」
ネロは黒い子猫を銃に変化させ、圭の方に銃口を向けた。
「言ってきまぁす!」
銃口から弾が出てくる前に、圭は部屋を勢い良く出て行った。ネロはその様子を優雅に見届けると銃口を上の方に向け、原型の黒い子猫に戻した。
「お前のファミリーの奴を早く集めなきゃならねぇからな。」
黒い子猫は眠そうに「みぃ」と鳴き、ネロの頭に乗った。