標的00 家族の為に
STORY 1 PARRT 3
「何の為に自分の家庭教師に?」
「お前をマフィアのボスに教育し直す為だ。決まってんだろ?」
圭は本気で自分の全世界が停止したかと疑った。
「人違い……とか?」
はっきり言って信じられない筈。新手の冗談か何かと受け取った方が圭にとっては手っ取り早い
方法だろう。
ーしかしネロにそんな茶番は通るはずが無い。ネロは大真面目に言った。
「超一流のマフィアだぞ。……標的を間違えるはずがねぇ。」
確かにマフィアは間違えそうに無い。圭は改めて聞いた。
「なんで……自分?」
マフィアとなんて接点がない筈と思っている圭には、今の状況がどうしても理解出来ない。
「知らね。……ボスが直接お前を指名したからな。」
「ボ……ボス?」
「あぁ。グウィードファミリーの9代目だ。名誉な事だぞ? 他にも候補は沢山いたのにな。」
少し頭の中を整理してから、圭はネロを再び見た。こんな幼児が自分をマフィアに?
「…本当に…自分をボスに……?」
ネロはニヤッと笑い、ネロの相棒らしき黒い子猫を撫でた。
「信用してないならこいつを見てからそう言え。」
するとその瞬間ーその黒子猫が一瞬にしてネロの銃と化した。そしてネロはその銃で応接室のカーテンに向けて撃った。
「ーっ!?」
圭の目の前を通過したその豪速弾はネロの狙い通り、一瞬にして高級なシルクのカーテンをぶち破った。圭はカーテンに空いてしまった大きな穴の心配よりも、銃を学院内に運び入れて良いのだろうかという不安の方が大きかった。
「い…ちょ、ちょっとっ。そんな物学院内に持ち運んだら……。」
すると校内アナウンスが応接室に響いた。
「先程、護衛の為裏門に設置されていたボディガードが全員何者かにより倒されていました。
誰か不審な者を見かけた方は即刻職員の方までご連絡下さい。手掛かりとしては、その不振な者
は幼児だったらしく……」
「やべぇな。」
「は?」
ネロは銃を元の黒い子猫に戻しながらそう口にした。
「さっき学院に入った時、何人か蹴散らして来たからな……。」
「え…じゃあ今の不振な者って……。」
ネロは当然という表情で圭に言った。
「 あぁ、オレだぞ。」
そんなに簡単に言われてもと、圭は呆れ返った。すると、廊下の方から何か慌てた足音が沢山聞こえた。
「まさか警察……?」
「だろうな。」
応接室のすぐ向かい側では何人もの警察官達が辺りを探しまわっていた。ネロは圭の背中に飛び乗り、肩にひょこっと顔を出した。
「お前、自分の心配もしろよ。」
「え?」
圭の眼鏡の奥の瞳が何かを訴えるようだった。
「オレはお前の家庭教師なんだぞ? お前の家族もろともオレの関係者と見なされるかもしれねぇ。」
ネロを背中にぶら下げたまま、圭は漠然とした。
「自分や母さんは関係無いよっ。証拠だって無いし……。」
ネロはそんな圭の言い訳を無視し、鼻で笑った。
「法を重んじる警察らがそんな言い訳聞くと思うか? 第一、お前は今オレといるじゃねぇか。」
「えぇ? じゃあどうすれば……。」
圭はボサボサの髪を掻いて、その侭座り込んだ。ネロは圭の背中から軽々飛び降りると、圭の目の前に着地した。
「……やってみるか?」
得意げにニヤっと笑い、ネロが切り出した。圭は髪を掻くのを止め、ずれた眼鏡を元の位置に戻した。
「何を?」
もう半分落胆している圭を前に、ネロはさっきの黒子猫を今度は片方しか無い黒いグローブに変えた。
「お前の秘めたボスの力を……見せてみろっ。」
「……は?」
ネロは黒いグローブを左手にはめると、思いっきり圭の額に左手を押し付けたのだ。