闇の胎動 その6 突入
アルティス達は再び迷いの森に足を踏み入れていた。
葉の隙間から差し込む陽光を頼りに先へと進んでいく。
「うわっ! なんだ!敵の罠か!?」
「落ち着いてアルティス、蜘蛛の巣よ」
「だらしないわねー。あんた」
「うるさいな! ヴィオレッタ。あっ間違えた! ヴィヴィヴィヴィヴィオレッタだった。ぷーくすくす」
「ぶっ飛ばすわよ!」
「やめんか。騒がしいのう」
ガルフがため息をついた。
「こっちの道で合っとるのか?大ばばよ」
大ばばの方を向き、尋ねる。
大ばばは魔力で浮遊しながら、目を閉じ何かを感じ取っていた。
「うむ。子供達のオーラがかすかに漂ってきておるわ」
「でも、この森がこんな先まで続いているだなんて知りませんでした」
ルーファスが辺りを見回しながら、言った。
「お兄ちゃんと一緒に来た時は、すぐ入り口に戻って来ちゃったもんね」
アイリスが相づちをうつ。
「ふむ……何者かの魔力がこの森にはかけられているようじゃな」
「何者かって誰だぁ?」
「わからん。しかし、これだけの広範囲を長年にわたって魔力の支配下に置いておるのじゃから、ただ者ではないじゃろうな」
「ふーん……。そういえば、結構長い距離歩いてるけど、ルーファスさんは大丈夫かい?」
アルティスが心配そうに振り返った。
「ありがとうアルティス君。爺や様から教わった肉体強化呪文ですごくいい調子だよ」
その会話を聞いてヴィオレッタは、首を傾げた。
「肉体強化?どういう事?」
「お兄ちゃんは、身体の自由があまりきかないの。だからすごい魔法使いの人に呪文を習ってるのよ」
アイリスが答えた。
「身体の自由が……?」
「そう。昔は、すっごくすばしっこくて、私よりも勇者に向いてるって言われてたんだけどね」
「それって、いつ頃……?」
「うーん……7、8年くらい前かなぁ。どうして?」
「……まさか」
そう呟くとヴィオレッタは口を引き結んで黙り込んでしまった。
その時、前方から草のざわめく音が聞こえてきた。
「誰だ!」
アルティスが剣を構えた。
草むらからフラフラとした足取りで出てきたのは、三つ子の一人、トーレスであった。
「あ……あんちゃん……助けて」
「トーレス!!こんなにボロボロになって……」
アルティスが身体を支えた。そして、呪文の詠唱を始めた。身体から暖かい光が溢れ出す。
「陽光の温もりよ。光の衣となりて、癒し清めよ……ヒールオール!」
今度はトーレスの身体が光に包まれた。表情は次第に安らいでいく。
「あ、あんちゃん。ありがとう……。皆、この先の洞窟に……」
そこまで言うと目を閉じた。
「トーレス!」
アイリスが目を大きく開いた。
「安心しろ。眠ってるだけだ」
そう言って、小さな身体をガルフに預けた。
アルティスがゆっくりと立ち上がる。
「おれぁキレたぜ……爺ちゃん達はトーレスを任せたぜ」
「アルティス……」
「待ちなさい! ガキンチョ! あのデブは……ザイモンは手強いわよ」
「そんなの関係ねぇ! 俺がぶっ倒す!」
先に進もうとするアルティスの肩に手が置かれた。
「私も行きますよ」
ルーファスである。
「ルーファスさん……」
「怒っているのは私も一緒です」
「わ、私だって行くわ!」
「あたしも!」
「うむ。トーレスの事はワシに任せい」
ガルフが送り出す。
迷いの森に続く北の森。
その一角に、不気味なオーラを発する洞穴があった。
「ここだな……準備はいいか」
「さぁ! さっさと行くわよ。ガキンチョ!」
「よし……行くぞ!」
アルティス達は暗い穴の中へと歩を進めた。
この先に待つ運命も知らずに。