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魔王城の管理人  作者: チバ テツロー
闇の胎動
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闇の胎動 その3 再訪

 目の届く範囲に森があり、耳をすませば川のせせらぎが聞こえてくる。

 バルバラ村は、いつもと同じ自然に囲まれていた。

 しかし、畑を見れば、鍬や鋤が放置されており、作っている途中の建物にはトンカチや釘が置きっぱなしにされていた。作業をする人々の姿は無かった。


 皆、村の大広間に集まっていたのだ。

 ルーファスやアイリスの姿もそこにあり、輪の中心には大ばばがいた。





「あっ!勇者様が来たぞー!!」

 アルティスとガルフが戻ってきたのを見た村人が言った。


「勇者様!お願いです」

「村の子供がさらわれたのです!」

「助けてください」

 多くの村人がアルティスの周りに集まってきた。


 一度この村を救うために戦ったアルティスは、英雄扱いされていた。(10話参照)

「勇者? 誰だ?」

「アルティス殿の事じゃ」

「へっ? 俺は魔……ふぐっ!」

 ガルフの肘が、アルティスのみぞおちに入った。


「それは、内緒じゃ」

 耳元で囁いた。

 魔王は恐ろしいものというのが、この世界の一般的な共通認識であった。

 それゆえ、先の一件でヴェルメリオを退けたのが、魔王の腹心達である事も、伏せられていた。

 大ばばとガルフの判断である。

 

「アルティス!」

「アルティス君!」

 アイリスとルーファス兄妹が、駆け寄って来た。


「どういう事なんだ?」

 まだ状況がよくわからず、尋ねた。

「子供達が………みんなさらわれちゃったの……」

「みんなって……みんな?」

「そう。村の子供達全員よ。ウーノやダース、トーレスも……」


「あいつらもか……!」

 以前言葉を交わした、利発そうな三つ子の顔が頭に浮かんだ。

「でも村の子供全員なんて……そんな事は普通の人間には無理だろう……」


「うむ。ワシらも魔力を持った者の仕業じゃと睨んでいる」

 大ばばが遅れてやってきて、しわがれ声で話した。

「そして、子供がさらわれた家にはもれなくこの紙が置いてあってのじゃ」

 大ばばが一枚の紙を見せた。

 アルティスが、それを覗き込む。

「もれなく? マメなやつだな。なになに……子供の命が欲しくば……アルティスを連れて来い? 手下を連れてきたら、子供を殺す!? 俺をご指名か」

「そうじゃ、そしてどの手紙にも魔力が宿っているのじゃ」

「俺を狙って、手下を連れて来るなと言う事は……ヴェルメリオか!?」

「いや、あやつ程の魔力は感じないんじゃ」


 その時、アルティスは何者かの視線を感じた。

 そして、魔力の鼓動も肌に伝わってきた。


「誰だ!」

 振り返り、遠くに視線を向けると、大きな木の上に、角を二本生やし翼を生やした女がいた。


「あれは……サキュバスだ! 何か知ってるかもしれねぇ! 追いかけるぜ!」

 猛烈な勢いで走り出すと、サキュバスも慌てた様子で飛び去ろうとした。

 咄嗟に大ばばが呪文を唱えた。


「カテーナ!」

 身体の自由を奪う呪文である。

 次の瞬間、サキュバスの身体が一瞬震え、木の上から落下していった。

「危ねぇ!」

 アルティスが危機一髪で、地面に激突する前に抱え込んだ。

 サキュバスは高所から、身体が動かないまま落下するショックで気絶していた。





 アイリスとルーファス、大ばばとガルフが駆け寄り、気絶した女の顔を覗き込んだ。

「うわぁ……綺麗な人……」

 アイリスがため息をもらした。

「うーん……本当に綺麗だなぁ」

「ふーん。そう、アルティスこういう人が好みなんだ、へー」

「いや、俺はもっと可愛らしい方が好みというか。……アイリスも綺麗って言ってたじゃん」


「じゃれあっとる場合じゃないぞ。この女が犯人かもしれんのじゃからな」

 ガルフがそう言うと、大ばばが相づちを打った。

 そして、小声で呪文を唱え、サキュバスの頭に軽く杖を当てた。


「うーん……」

 ゆっくりと切れ長のまぶたが開かれていく。

「おお。起きたようですね。魔法とはやはりすごいものですね」

 ルーファスがしきりに感心している。

「ここは……?」

「あんた、木から落ちて気絶してたんだぜ」

「気絶?」

 切れ長の目がハッキリと開かれる。と同時にサキュバスは大きな声を上げた。

「キャーーーー!! お、王子様!?」

「王子様ぁ??」

 一同が同時に首を傾げた。

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